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2012-09-26up
下北半島プロジェクト
下北半島発・一人芝居「心に海をもつ男」を東京で上演したい!
第20回
下北半島のことを、もっと知るために。
鎌仲ひとみ監督の映画「ミツバチの羽音と地球の回転」を、
下北半島・むつ市で上映してから、早くも1年が経とうとしています。
上映会をきっかけに「もっと下北半島について知りたくなった」というY子ちゃん。
その思いを受けて、また新たなイベントの企画が立ち上がろうとしています。
今は亡き民俗学者・宮本常一の著書に『私の日本地図3 下北半島』という一冊の本があります。彼は、民俗学に係る現地調査として青森県下北半島へ何度も足を運び、そこに息づく文化を記録、発掘してきました。その『私の日本地図3 下北半島』の「あとがき」の最初の一文を、彼は以下のように書き出します。
「国の中央に住んでいる人たちは、端端に住んでいる人たちに対して、さいはての未開の生活があるようにのみ思ってきた。そして旅行案内書にも秘境ものブームがある。どこかの世界に自分たちの世界とはちがった世界があり奇習奇俗が見られる、そういう世界をもとめて旅をする者も多い。それは一つは自分たちの優越意識がそうさせているのである。一方、国のはしばしの人たちも、自分たちはおくれ、その生活はみじめであると思っている。長い間の生活がそうさせてきたのだが、はたしてそうであっただろうか。私は決してそうではないと思っている。」
この文章が書かれたのは、昭和42年9月30日のことです。
国民所得倍増計画、東京オリンピック、日本列島改造論、ベトナム戦争、大阪万博。水俣病やイタイイタイ病など公害問題の噴出、商業用原子力発電所の営業運転開始、原子力船「むつ」の進水、陸奥湾小川原湖開発計画。こういった物事の前後、さほど遠くないときに、下北半島という地をつぶさに見聞きし歩いた人物から湧き上がった言葉の一部が上述のそれでした。
2011年10月16日。映画『ミツバチの羽音と地球の回転』の下北半島での上映は自分にとっては覚悟という意味を込めた(ゆるりとした)始まりでした。上映によって共有したかった、「地域の自立」とは、「足元の豊かさを生かし生きていく」とは、「豊かさ」とは、という視点でもって現在の下北をみつめなおすことや、この社会構造が孕む「だれかの健康やそのひとの生活・人生の主体性を無視してはいないだろうか、そして自分もまたそのようにされてはいないだろうか」といった暮らし全体への問いは、当然に自分自身にも投げかけられたからです。
そのこたえを探るために、育ってきた記憶以上に下北半島について知りたいと思うようになりました。歴史、自然環境、資源、慣習、産業、暮らし、人。「わたしたちはどのような社会をこれから築いていくのか」という本質的な問題に向き合うには、「今現在」という時間軸だけでは枝葉末節であり「過去―現在―未来」という一連の時間軸で物事をとらえる必要があると思います。なぜなら、「わたしたちは過去の歴史を背負いながら、未来に向かって、今現在を生きている」、からです。
そうした流れのなかで非常に興味深い人物に会うことができました。
青森県下北半島・むつ市浜関根で生まれ育ち、60代半ばとなった今も現役でひとり芝居を演じている方がいます。名は愚安亭遊佐(ぐあんてい・ゆうざ)。現在新潟県に拠点をおく彼は、下北三部作と呼ばれる『人生一発勝負』(この芝居により平成11年度文化庁芸術祭優秀賞を受賞)『百年語り』『こころに海をもつ男』という、自身の故郷である下北に生きた人物たちを投射した物語をひとり芝居としてつくりあげてきました。
実は、そのなかでも下北半島六ヶ所村の「漁師」の姿を描いた『こころに海をもつ男』を、ここ東京で演じていただこうと現在企画しています!(上演日と会場はこのコラムの最後に掲載)
彼が生まれ育った浜関根は、原子力船「むつ」の母港問題に揺れた地域です(関根浜と呼ぶこともあるらしいですが、それは「むつ」の母港問題が起きてから、と遊佐さんはおっしゃっていました。下北のひとたちの多くは浜関根と呼んでいます)。漁師であった親兄弟がまさにその問題の渦中にあった彼は、小さな浜辺の村に突如もたらされた大きなうねりを、ひとごとでなく目の当たりにしていったそうです。自身の父親の半生を通して浜関根の漁業の歴史を語る、ひとり芝居2作目の『百年語り』はそうした背景をもってつくられました。
しかしなぜ、その浜関根出身の彼がつくった浜関根を舞台にした芝居『百年語り』ではなく、六ヶ所村を舞台にした『こころに海をもつ男』をこのたびの演目に選んだのか。共著書『アテルイ』のなかで遊佐さんは、<日本中に進行している「海盗り」の謀りごと>という小さなコラムで次のように述べています。
ぐあんていゆうざ●1946年青森県むつ市関根浜生まれ。漁師の網元の八人兄弟の五男。「劇団三十人会」に所属したのち、77年「劇団ほかい人群」を結成。『人生一発勝負』『百年語り』『こころに海をもつ男』の「下北三部作」で全国芝居行脚を続ける。1996年むつ市文化奨励賞受賞、1999年第54回文化庁芸術祭優秀賞受賞。著書に『人生途上・旅途上』『アテルイ』(ともに自然食通信社)がある。
「『こころに海をもつ男』は、母と父の世界からも、浜関根からも離れ、斧の形の下北半島の付け根に位置する六ヶ所村を舞台にした。「むつ」の騒動が何であったかを語るには、その時点では語りたいと思うことがまだ余りにも生々しくて、自分の心で消化しきれていなかったから、「むつ」問題に先行した小川原巨大開発の中で何が行われたのかを調べることから始まった。調べていくうちに、ここで行われたことは、規模こそ違えそのまま関根地区でも行われたことだと分かった。六ヶ所村を語ることは、やはり浜関根を語ることになった。いやそれどころか、まるで一冊の教則本が日本中を駆け回っているかのように、色んな地区で、同じようなことが行われていることが分かった。」
当事者性をもつという意味で、私は当初『百年語り』を演じてもらうのがいいだろうと考えていましたが、ご本人は今は『こころに海をもつ男』がいいだろうとおっしゃいました。納得できるこたえを求め「六ヶ所出身ではない遊佐さんが六ヶ所の漁師を演じるということについてはどう思われますか」という質問をした際も遊佐さんは言っていました。「それを芝居にする以上、妄想なんかではなく色々と調べたり、実際に話を聞いたりしてつくったものだからね。」「六ヶ所という設定ではあるが日本のどこにでもあてはまること。それは原発だけでなく、空港建設、ダム建設、水俣病などもそう。芝居としての普遍性があるんだよ。」
「むつ」母港問題で揺れる浜関根で実際に遊佐さんがその目で見、その耳で聞いたことを話してもらった際、ただ、悔しくて、悔しくて、私は涙をこぼしました。そういった大きな波が押し寄せる以前のひとびとの暮らし、押し寄せた後の暮らし。その間に一体何が起こっていたのかを知るということ。わたしたちはどれだけのことを知っているのでしょうか。実際に残したフィルムでも録音したテープでもないし、芸能という彩りはありますが、芝居というのは記憶の継承媒体のひとつなんだろうと思います。そこからみえるものとは。
先に挙げた『私の日本地図3 下北半島』の解説のなかで、民俗研究家の結城登美雄氏は言っています。「(前略)しかし宮本常一の旅の記録が私たちに教えてくれるものは、風景の中にある多様な相から、そこに生きる人間の意志を読みとり、受けとることでもある。原子力のある風景だけが下北の人々の意志ではない。」
呼応するように遊佐さんもその著書『人生途上 旅途上』でこう言います。「単に漁師の生活を語ること、海で生きる喜びを語ることが、反原発となってしまうのだから、私以上に漁師もたまったものではあるまい。」
【日程】2013年1月19日(土)
【場所】北とぴあ ペガサスホール
(JR京浜東北線王子駅北口徒歩2分、東京メトロ南北線王子駅5番出口より直結)
詳細は決まり次第、このコラム内でお知らせいたします。
(Y子)
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昨年の上映会は、「下北半島の人たちに映画を見てもらう」場だったと同時に、
開催にかかわった私たちスタッフが、
下北半島のこと、そこに住む人たちのことを考え、知る機会ともなりました。
今度は東京で、そんな場をつくれればとも思っています。
詳細は近日発表。告知・宣伝などお手伝いいただける方も募集します!
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