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2012-09-12up
下北半島プロジェクト
映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を下北半島で上映したい!
第19回
小さな生き物のことを考えました。
山口県・祝島への旅から早くも2カ月。
今度は東京で、祝島に関するイベントに行ってきた! というA子ちゃんが、
そこで聞いたこと、考えたことをレポートしてくれました。
祝島のことをもっと知りたくて、9月8日に東京で開かれたイベント「~上関・祝島 自然とともに生きる未来へ~ いのちの海を埋め立てないで」に行ってきました。演者は、6月のエコツアーでお世話になった高島美登里さん(長島の自然を守る会)と、山戸貞夫さんの息子さんの孝さん(上関原発を建てさせない祝島島民の会)、そして生物学者の佐藤正典先生(鹿児島大学大学院理工学研究科教授)。上関原発が建設された場合、失われるかもしれない自然の大切さについて、語る会でした。
大量の水が必要な原発は、例外なく海沿いの町に建てられますが、その多くは豊かな自然が残る地域だと言われています。上関原発の建設予定地である田ノ浦もそうで、実際に見たときは美しさのあまり「ここに原発を建てちゃいけないな」と素朴に思いました。
でも、私の中で完全に納得していたかというと、実は少し違いました。自然環境は大事。だけど、人々の生活はもっと大事かもしれない。もしも、環境保護を優先させた代償に生活苦に陥る人が出たら大変だ。病気の人や介護が必要な人は特に……という心配が払いきれていませんでした。
自然環境か、生活か。そんな妙な二項対立を頭に浮かべながら、会場に向かいました。
イベントは佐藤先生の基調講演、「瀬戸内海西部に残る豊かな内湾生態系」から始まりました。瀬戸内海のなかでも、開発が進んだ広島や関西方面に近いエリアは本来の豊かさをほとんど失ってしまったそうです。しかし、上関のある瀬戸内海西部は今も多様な生き物が数多く住み、日本中を見てもこのような場所はほかにないということでした。
佐藤先生は、①温排水による海の温暖化、②海水と一緒に取水口から取り込まれる小さな生き物たちの死滅、③原発が放出する大量の放射性物質、という3つの問題から原発建設に反対していました。どれも頷ける話ばかりです。中国電力は事前の環境アセスメントで十分な調査をしないまま、「大丈夫だろう」と計画を進めようとしているという話には怒りすら感じました。
ただ、講演の内容もさることながら、私が気になったのは、佐藤先生の言葉の選び方でした。
「取水口では、付着生物防止剤といって塩素をまきます。フジツボの赤ちゃんや、小っちゃなプランクトンを殺すためです」
「田ノ浦にはまだ堤防の作られていない自然の海岸があります。ここを、卵をたくさん抱えたカニのお母さんが行き来するんですね」
「みなさんは海の生き物というと、大人の魚やなんかをイメージするかもしれませんが、小さな子どももいるんです。プランクトンですね。原発ができると、それらが大量に吸い込まれて死んでしまいます」
佐藤先生は、海洋生物の専門家なのに「幼生」とか「成体」といった言葉を使いませんでした。配布された資料をよく見ると、「海の生物の子ど もを殺し、海を温暖化する原子力発電所」というタイトルの論文(南方新社『九電と原発』に収録)を書かれていることもわかりました。佐藤先生は、海の生き物に並々ならぬ愛情を持っていて、海の生き物を家族のようにとらえているのかな、という気がしました。
カニやフジツボについて、とりたてて関心のなかった私ですが、佐藤先生の解説を聞いていると、なんだか愛おしい存在のように感じられて不思議でした。
シンポジウムの後半は、高島さん、山戸さん、佐藤先生のディスカッションです。高島さんは、長島の自然を守る活動をしていることについて「環境でメシが食えるか」と言われたことがあるそうです。環境を守るために原発反対といわれても、ピンと来ない人が発した言葉でした。私もひそかに感じていたことなので、息を呑んでその後の展開を聞いていると、佐藤先生はこう話しました。
「中曽根康弘元総理は、『原発は必要だ。そうでなければ、日本は一次産業しかない三等国になる』と原発事故のあとに言っていましたが、全然違います。人間が生きる基盤には、生態系がすべて揃っていなければなりません。ベースとなる小さな生物が絶滅したら、大きな生き物も生きられないのです。最近は、キレイだったりかわいい生き物ばかり保護する感情的な取り組みが先行していますが……ゴカイは気持ち悪いとかね(笑)。でも、命は全部つながっているのです。食料自給率の低い日本にとって、一次産業を支える小さな生き物を守ることは非常に大切です」
佐藤先生の専門はゴカイ(釣りのエサになる虫)の研究で、「ゴカイは非常に魅力的な生き物です」と笑顔で語ると会場は笑いに包まれましたが、私は妙に納得しました。
自然環境と人々の生活は、決して対立する概念ではなく、むしろ一体であること。生き物を大切にするのは、単に「美しいから」「貴重だから」という次元ではなく、私達を生かしてくれている愛すべき存在だからだということ。私が心配していた「病気の人や介護が必要な人の生活」も、安全な食べ物を生み出す自然なしに守られないということに、ようやく気付いたからです。山戸さんは、「『環境でメシが食えるか』というけれど、環境を守るからこそ、メシが食える」と言っていて、まったくだと思いました。
佐藤先生は「小さなプランクトンなど、弱い生き物の視点は非常に大切です。人間は強い生き物ですが」ともおっしゃっていました。この図式は、原発がはらむあらゆる問題に通底しているような気がします。何不自由なく電気を使える人の背景に、原発立地自治体の住民や、原発労働者、被ばくの被害で苦しむ人がいます。苦しい立場の人たちを守ることの大切さはわかっているつもりでしたが、小さな生き物を守ることも同じなんだなと思いました。
たぶん、自然保護の大切さはこれまでも聞いたことがあったはずですが、佐藤先生の話が特別に感じられたのは、生き物に対する愛情にあふれていたからだと思います。あまり注目されることのないゴカイを愛している先生の言葉には説得力がありました。やっぱり、上関や祝島には豊かに生きるためのヒントがいっぱいで、このイベントに来てよかったな、と素直に思いました。
さて、青森県の未来を考える「下北半島プロジェクト」ですが、昨年に引き続きまたイベントを開こうと考えています。前回は、むつ市の開催でしたが、今度は東京都内で準備中です。近いうちに、詳細をお知らせできる予定です!
(A子)
*
ということで下北半島プロジェクト、
次なるイベントに向けて動き出しました!
前回とはまた違った形で、
「地域の自立」や「原発に頼らない未来」について考える場にしたいと思っています。
近日詳細発表、ご期待ください!
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