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2011-1-14up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第29回

私はなぜ「記者クラブのルール」を破ったか。
(その2)

●「多様な質問を認めない」記者クラブ主催の記者会見。

 ここで誤解のないように言っておく。私は記者会見のルールの変更について、自分だけが出席できて、質問・撮影ができればよい、という考えを持っているわけではない。
 私が質問権のないオブザーバー参加制度の撤廃を求めてきた理由は、自らの利益のためではない。そもそもフリーランサーは、会見に出ても社員記者と違って給料が出るわけではない。むしろ他の仕事を断っていくため、金銭的にも時間的にも損をする。私が条件緩和を求めるのは、大げさに言えば国民の利益のためだ。

 現在、総務省の記者会見からは、総務省記者クラブが定める「参加枠」から漏れるメディアがいくつも閉めだされている。
 情報通信を担当する総務省であるにもかかわらず、インターネット上で大きな影響力を持つ「ITメディア」などのインターネット媒体の記者は、公式の記者会見に参加して質問することができない。また、日本雑誌協会に加盟していない「週刊金曜日」などの雑誌社の記者や、地域に根ざしたタウン誌の記者なども同様だ。

 さらに言えば、こんなこともあった。
 昨年1月5日、NPOメディアである「OurPlanet TV」の白石草記者は、「総務大臣の記者会見がオープン化された」と聞いて記者会見に参加した。その際、「記者クラブのルール」を知らなかったため、普通に手を挙げて「マスメディア集中排除原則」について質問をした。

 すると会見終了後、当時幹事社だった朝日新聞の記者が白石記者のところへやってきてこう告げたという。
 「あなたはオブザーバーで、オブザーバーには質問権がない。質問されては困る。今度質問したら、会見への参加を認めないこともありうる」
 白石記者は、極めて厳しい態度で注意されたのだ。

 私はこの記者会見の場にもいたが、白石記者の質問は決して会見の進行を妨げるようなものではなかった。淡々と挙手し、大臣に指名されてから質問しただけだ。それなのに「オブザーバーだから」という記者クラブの勝手なルールで質問を制限する。これはあまりにも酷い仕打ちではないか。

 こうした「ルールメーカーとしての権威」をかさにきた行為は論外として、それぞれの専門分野で活躍する記者が会見に参加できないことは大きな損失だ。
 記者会見の場が深い見識に基づいた質問を投げかける場ではなく、目先の政局の話題に終始する場になっては意味がない。
 多様な記者による多様な質疑応答があってこそ、記者会見の場は意味を持つ。それを阻害している記者クラブは「怠惰」と言うしかない。「公の場」で開かれる記者会見の価値を、自ら下げているのが記者クラブなのだ。

 改めて言う。これは決して「メディア同士の勢力争い」などではない。「多様な言論」「国民の知る権利」を獲得するための働きかけだ。

●「私はクラス担任でもなんでもありませんので(苦笑)」
(片山総務相)

 1月11日の朝。総務省記者クラブの掲示板には1枚の紙が貼り出された。
 文書のタイトルは「総務大臣記者会見参加希望の皆様へ」。私の「ルール破り」がきっかけとなり、1月7日のクラブ総会後に総務省記者クラブがまとめた文書だ。
 その全文は、下記のようなものだった。

2011年1月7日 総務省記者クラブ

 総務省記者クラブでは、開かれた記者会見の実現に向け、大臣会見のオープン化の試行に積極的に取り組んでいます。

 さて、今般、個人のフリー記者による動画撮影というルール違反や、記者クラブ問題に関する同趣旨の質問が繰り返されるなどの事態があったことは、きわめて遺憾です。現行のルールを守っていただくようにお願いします。議事の円滑な運営にご協力をいただけないと判断した場合は、会見への参加を認めないこともあることは、かねてお伝えしている通りです。

 動画撮影などに関する現行のルールを変更するかどうかについては、鋭意記者クラブで協議します。

 なお、大臣会見の運用に関する意見や問い合わせは、幹事社にお伝えくださるようお願いします。

以上

 1年間にわたるフリーランス記者たちの働きかけで変わったもの。それは、「引き続き検討します」から、「鋭意記者クラブで協議します」という小さな文言の変化だけだった。

 現実に、いまだに記者クラブ側とフリーランスの記者とが「議論をする場」は設けられていない。私が「出入り禁止」を言い渡されなかっただけマシとも思えるが、実態は何も変わっていない。

●記者クラブとフリーランスの対立を煽っているのは誰か。

 私は今、総務省記者クラブから出された文書を見て、「記者クラブ病」はより重篤なものになったと感じている。

 それはこの文書に「記者クラブ問題に関する同趣旨の質問が繰り返されるなどの事態があったことは、きわめて遺憾」と書かれていたことに起因する。彼らはフリーランスの記者たちが同趣旨の質問を繰り返すことの「真意」をまるでわかっていないのだ。

 私を含むフリーランスの記者たちは、何度となく「記者クラブ問題」に関する質問をしてきた。その度に片山大臣は「(記者クラブとフリー記者の間で)よく話しあってください」「私はクラス担任でもなんでもありませんので(苦笑)」と根気強く答えてきた。
 そして大臣は、私のように記者クラブ問題についてしつこく問い続ける記者に対しても、無視することなく平等に質問の機会を与えてきた。
 記者クラブの面々は、こうした片山大臣の「優しさ」「忍耐強さ」の真意をわかっているだろうか。報道する側が甘えきっていることに、なぜ気づかないのだろうか。

 たしかに国民の中には、「政治主導」「リーダーシップ」という観点から、片山大臣の煮え切らない態度に物足りなさを感じる人がいるのも事実だろう。「とっとと大臣のリーダーシップで会見をオープンにしてしまえ」という声も散見する。
 しかし、少し見方を変えれば、片山大臣の姿勢は優しさに溢れている。
 「私自身は招かれている立場」「ルールを決める立場にない」と繰り返す大臣の答弁には、“多様な言論を認めるという、報道の大前提”に最大限配慮した姿勢が見て取れるからだ。

 そして不幸なことに、この姿勢はいつまで続くかわからない。万が一、大臣の気が変わったら状況は一変する可能性がある。

 会見の進行を完全に権力側に握られれば、「権力側にとって都合の悪い質問をする記者を無視して指名しない」という最悪の事態が訪れる可能性があるからだ。
 記者クラブは、権力側が「強権的」かつ「民主主義として間違った方向での政治主導」に転じる危険性に、あまりにも無自覚すぎる。

 最後にもう一度言っておく。フリーランスの記者の中にも、いろいろな考えを持った記者がいる。
 「記者クラブ殲滅」「記者クラブ解体」という記者もいれば、「記者室の開放」「記者室の廃止」「記者会見のオープン化だけでいい」という記者もいる。多様な言論が民主主義の基本だから、私はどの意見も否定しない。
 どの主張がもっとも国民の利益に資するものなのか、最終的に判断するのは、読者、視聴者、そして納税者である国民だろう。

 ただ、少なくとも私に限って言えば、記者クラブとフリーランスの対立構図を煽ることなど望んではいない。一日も早くオープン化が進み、報道に携わる者の「公平で自由な取材環境」が担保されることを望んでいる。
 そうすればさっさと政策に関する質問ができ、「政府が何を考えているか。そこに落とし穴はないか」を読者に伝えることが可能になるからだ。

 しかし、記者クラブ側はこの期に及んでも、いまだにその話し合いの場すら持とうとしない。記者クラブ側はいまだに“不当な権力”によって、非記者クラブ記者たちの自由な取材活動を制限し続けている。
 だからフリーランスの記者たちは記者会見の場で、繰り返し記者クラブの閉鎖的な体質に関連する質問をせざるを得ないという不幸な状況が生まれている。

 実際のところ、記者クラブとフリーランスの対立を煽り、「議事の円滑な運営」を“妨害”しているのは記者クラブの側ではないか。

 一日も早く「記者クラブ」が目を覚まし、本来の意味での「権力監視」を果すことを期待したい。

追伸:
加害者の側になってわかった「気持ち悪さ」。

 1月11日、CS放送・朝日ニュースター「ニュースの深層」に小沢一郎民主党元代表が生出演し、1時間にわたって番組のキャスターを務める上杉隆氏のインタビューに答えた。
 ここでは小沢氏の口から自身の考える国家観、政策がかなり詳しく語られたが、翌12日、記者クラブメディアは小沢氏の姿を伝えることはなかった。

 実はこの番組の収録にあたり、私は上杉氏からあることを頼まれていた。
 それは「スタジオ横のサブ調整室に入り、番組の模様をツイッターでリアルタイムにつぶやいてほしい」という依頼だった。(実際に私がつぶやいた内容のまとめはこちら。 http://togetter.com/li/88302

 上杉氏の依頼を受けて私が朝日ニュースターに駆けつけると、そこには40人ほどの小沢番の記者クラブ記者たちが集まっていた。そして彼らは上杉氏によって、控え室、スタジオ、サブ調整室入りを拒否されていた。
 そんな中、フリーランスの記者である私と村上隆保氏の二人だけが、スタジオ以外の自由な取材を許可されたのだった。

 はっきり言おう。ものすごく、バツが悪かった。番記者達に申し訳ない気がした。

 だが、このような仕打ちは、これまで記者クラブの記者たちが上杉氏をはじめとするフリーランスの記者たちにやってきたことの裏返しだ。
 しかもフリーランスの記者たちが差別されてきたのは、今回のようなテレビ番組やプライベートな記者会見の場ではない。「公的な記者会見の場」で、こんな差別的な扱いを受けてきたのだ。上杉氏の場合、その差別は10年以上にもなる。

 それにも関わらず、上杉氏は太っ腹だった。押しかけた番記者たちに、本来、視聴契約をして有料視聴すべき番組を、無料で視聴させてあげたのだ。私だったらその場で契約を迫って料金を徴収していたかもしれない。上杉氏はかなり優しいと思う。

 冗談はさておき、今回の舞台は上杉氏自身がキャスターを務める番組だった。私と村上氏だけを中に入れたのは決してスマートとは言えないが、私的な番組インタビューで誰を中に入れるか、あるいは入れないかを決めるのは番組側に権利がある。それはその場所が「一放送局」という「私的な企業の敷地内」で行われることだからだ。

 でも、今回、自分が初めて加害者の側になってわかった。他人を差別する立場に立つというのは、全然、気持ちのいいことではない。

 もうこんな立場にはなりたくない。
 記者クラブの皆さんも、筆者と同じ気持ちであることを祈る。

ダイヤモンド・オンライン『週刊・上杉隆』小沢一郎氏が「ニュースの深層」に生出演。番記者の現場立ち入りを禁じた筆者の真意とは
http://diamond.jp/articles/-/10731
●参考リンク

【総務省HP 大臣会見・発言等:2011年1月】
http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/index.html

【2011年1月5日片山善博総務大臣記者会見】
Ustream→ http://www.ustream.tv/recorded/11824836
YouTube→ http://www.youtube.com/watch?v=M8BP4Z2hezw

【2011年1月7日片山善博総務大臣記者会見】
Ustream→ http://www.ustream.tv/recorded/11859882
YouTube→ http://www.youtube.com/watch?v=srgl2QI_Ykk

【2011年1月11日片山善博総務大臣記者会見1】
Ustream→ http://www.ustream.tv/recorded/11944709
YouTube→ http://www.youtube.com/watch?v=gjLAo8HRlPs

【2011年1月11日片山善博総務大臣記者会見2】
Ustream→ http://www.ustream.tv/recorded/11945050
YouTube→ http://www.youtube.com/watch?v=YWRaGpPImh0

【記者会見・記者室の完全開放を求める会のブログ】
http://kaikennow.blog110.fc2.com/

←その1

「記者クラブ」との対立を強めたいわけではなく、
話し合いたいというフリーランス記者の意向が、
なぜなかなか伝わらないのか、はがゆい気持ちになります。
一方、事態が改善されないことの一因に、
世間の関心がまだまだ低いこともあるでしょう。
これらのことについて、畠山さんたちと一緒に考える絶好の機会があります。
関東近辺の方は「第5回マガ9学校」に是非、ご参加を!
(「第5回マガ9学校」は終了しました。たくさんのご参加ありがとうございました。)

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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