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2010-06-23up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第18回

2010年6月18日@東京地検地下一階検察広報室

「東京地検検事正として、東京地検の陣頭に立ち、厳正公平、不偏不党の立場を堅持し、各種事件の捜査、公判にあたっていく所存であります。みなさまのご理解とご協力をお願いする次第であります。私からの冒頭の挨拶は以上です」
(東京地方検察庁・鈴木和宏検事正)

●なぜか撮影も録音も冒頭の3分のみ

 6月18日、東京地検で鈴木和宏検事正の就任記者会見が行なわれた。これは6月10日の会見「一部オープン化」以来、初めて写真撮影、録音が許可された会見だ。
 ただし、撮影・録音が可能だったのは冒頭の3分間のみ。その後の質疑応答は録音が許可されていない。私はこれまで何度も撮影や録音を認めるよう要請してきたが、いまだに認められていない。なぜなのか。
 地検側は録音を認めない理由を「事件の案件など、言ってはいけない固有名詞などを言ってしまう可能性があるから」だとしているが、この日の会見は就任会見だ。言ってはいけないことなどあるのだろうか。そして、会見に出席する記者にとって、もっとも重要な質疑応答部分が録音できないのはとても不思議だ。
 冒頭、鈴木検事正の挨拶(ペーパー読み上げ)が終わると、会見の司会進行を担当する松並孝二総務部副部長はカメラマンたちに向かってこう呼びかけた。

「はい、それでは冒頭の挨拶をこれで終わらせていただきますので、申し訳ございませんが、カメラ担当の方々、撤収をしていただけないでしょうか」

 この時点で会場で撮影をしていたスチールカメラマン7名、テレビカメラ6台は会見場を後にすることになった。ICレコーダーの録音もここでストップ。ここからは私のメモで会見の模様を再現するしかない。

●記者としてはダメでも同行カメラマンとしてなら参加OK

 実はこの日の会見には、フリー記者一人につきカメラマン一人の同行が認められていた。カメラマンの事前申請は、私が1枚の参加申込書に同行カメラマンの名前を書くだけだ。そのため私は東京地検に「記者」としての参加登録を断られていたフリージャーナリストの寺澤有氏に撮影をお願いすることにした。寺澤氏は日本雑誌協会加盟の雑誌に「撮影:寺澤有」とのクレジット入りで何度も写真を発表してきたからだ。
 当日、私は「同行カメラマン:寺澤有氏」と書かれた申請書を持って地検の入り口に向かった。ひょっとしたら入場を拒否されるかもしれないと心配していたが、寺澤氏も私も身分証明書の提示だけですんなり入館することができた。なぜ地検が記者としての寺澤氏の参加を拒み続けているのか、私にはさっぱり理由がわからない。
 この日の会見で、大手メディアの記者たちからは「検察官を志した理由は?」「一番印象に残っている事件は?」「北海道のどこ出身ですか?」「趣味は?」「座右の銘は?」などの質問をしていた。おそらく『新検事正の横顔』というような記事を書かなければいけないのだろう。

●不可視化された場で「可視化の質問」

 空気の読めない私は「取り調べの可視化」について質問した。本来、記者会見とは『公の場』『オープンな場』であるはずだ。しかし、東京地検ではそうではない。撮影も録音も許されない「不可視化された場所」で、私は可視化の質問をした。われながら、なかなかシュールだと思った。

畠山 「取調べの可視化について伺います。先日発表された民主党のマニフェストでは、前回の衆院選のマニフェストにあった『取調べの可視化』の文言が抜けています。その一方で、民主党の玄葉光一郎政調会長は『衆院選のマニフェストも有効』との認識も示しています。取調べの可視化にむけて、地検の準備はどこまで進んでいるのか。それとも『可視化はできない』と説得するための準備が進んでいるのか」
鈴木 「可視化の録音・録画については、これまで既に裁判員裁判対象事件に関して一部行われていると承知しています。検察としては、供述の正確性を期すため必要な限り録音しているという例も聞いています。一部可視化がやられているという言い方をしてもいいかなと思いますが、全面可視化はどうなのかと。法務省で勉強会なども開かれている。現場の立場としては、いろんな勉強会をしているという行政の中身を見守っている。可視化について、やらないように準備するとか、やるように準備するというのはコメントできません」

 私の質問に続けて、ジャーナリストの江川紹子さんも質問。

江川 「鈴木さんご自身では、被疑者の弁護人から可視化の請求があった場合にはどうするのか?」
鈴木 「個人的に全面可視化についてどう考えるかというのは、公の会見なのでなかなか申し上げられない。今この状況の中で個人の意見を言うのは差し控えるしかないかな、というのが正直なところ。今やっている録音録画も現場の判断でやっている。もちろん取り調べの対象者から嫌だと言われたら難しい。それなりに現場の判断でやっているんじゃないか」
江川 「身柄をとられていない人が録音したいと言った場合、なぜ録音録画をしてはいけないのか?」
鈴木 「自分の都合のいいところだけ編集をいくらでもできるじゃないですか。一から十まで聞かれて困るんですか、困るからダメと言っているんじゃないんです。隠し撮りされて、全体の流れで聞けばやむを得ないとか仕方ないということがあっても、前後を切って、そこだけポンと出されるというのはマズイです。かと言って、全部発表しろと言うこともできない。相手方がどういうふうに思っているかわからないが、信頼関係がないと成り立たない。検察官だって、可視化の議論の中でいろいろ出てくる。自分の個人的なこととか、経験とか、いろんなことを言うわけですよ。(すべて録音していいということになると)取り調べができなくなるんじゃないか。それはちょっと遠慮してほしいな、と」

 ちなみにこの日の会見では、読売新聞の記者が「足利事件の教訓をどう活かしていくか。(鈴木検事正は)小沢事件を指揮してきたというが…」と質問。
 鈴木検事正は「小沢事件についてどうか、という……いや、小沢さんについてかな(苦笑)」と、一瞬言いかけた「事件」をすぐに訂正していた。
 間違ったとしても、すぐに訂正をすればいい。録画、録音をされていれば、緊張感のある記者会見になると思うがどうだろうか。

2010年6月21日@首相官邸

「本日の会見は40分間を予定しています」
(官邸報道室)

 会見が始まる前、記者会見場に報道室担当者のアナウンスが流れると、「え〜!」という空気が流れた。セミオープン化された官邸での記者会見は過去3回、いずれも1時間が確保されていた。それが今回は20分も短縮されて40分。当然、質問の数も限られてしまう。結局、この日参加した7人のフリー記者のうち、質問ができたのは今回初参加の江川紹子さんだけだった(記者クラブ、外国通信社、ネットメディアなど全体で122人の記者が参加。11人が質問)。
 この日の会見は第174回通常国会を終えたことを受けて開かれたものだ。その前の週には民主党のマニフェストが発表され、民主党代表としての菅直人首相が「消費税10%」に言及していた。当然、会見では消費税増税のことが何度も質問された。その大事な会見を20分も短縮するなんて、あまり質問されたくないということだろうか。
 まだ菅直人政権は始まったばかりだが、情報公開に対する姿勢は決して「積極的」とはいえない。「原則」は何度も主張するが、一番大事な「決断」がないのだ。
 実は就任翌日の九日、菅内閣は内閣記者会に対し、首相への取材や官房長官の記者会見の回数を削減する提案を行っている。
 その要点は「首相へのぶら下がり取材を現状の一日二回から一日一回に減らし、首相の記者会見を月に一度程度開く」「官房長官記者会見を一日二回から一回に減らして午後に開き、官房副長官の記者会見を一日一回、午前中に行う」の二つ。首相、官房長官の記者会見にはフリーランス記者などの参加も認めるとしている。
 フリーランス記者の参加を認める、という点では「オープンな方向」に向かっているかに思える。記者クラブだけに限定せず、多様な視点での質問を受け付けようとしているかに思える。ただ、これは「ポーズ」で終わってしまう可能性もある。
 なぜなら私が官邸報道室、内閣記者会の双方に確認したところ、「いつまでに結論を出すかは未定」だというのだ。つまり、現状では何も変わっていない。これまで通り「ずっと検討中」という状態が続く可能性が残されたままなのだ。
 昨年9月18日、外務大臣記者会見のオープン化を記者クラブ側に打診した岡田克也外相は、記者クラブ側への申し入れからわずか10日で「開放」を決断した。会見を開放する代わりに、週に2回、たっぷり1時間の会見時間を取って、記者たちからの質問に答えている。
 しかし、時事通信の報道によると、菅直人首相は決断の時期を明らかにしないまま、22日、内閣記者会に対し、朝の首相公邸前での首相への「ぶら下がり」取材を今後許可しないと秘書官を通じて通告した。理由は、「(記者団の質問に首相は)どうせ答えないので」ということだ。
 これでもし首相が「月に一度程度の会見」を十分な時間を取って開かなかったとしたら、『公の場では質疑応答をしたくない』ということだろう。
 菅首相の、一日も早い決断を願う。

追伸:6月24日に公示される参議院選挙取材のため、7月11日の投開票日までは記者会見への参加が難しくなります。個人的な都合で誠に申し訳ありませんが、しばらくの間、「永田町記者会見日記」の連載をお休みさせていただきます。ご了承下さい。
 なお、選挙期間中は、ふだん永田町にいる政治家のみなさんが、日本全国津々浦々、いろんなところに繰り出します。読者のみなさんも、ぜひ政治家の「ナマ」の姿に触れていただき、これまで以上に政治の「おもしろさ」「奥深さ」に気づいていただければ幸いです。

 現場より愛を込めて。フリーランスライター・畠山理仁拝

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検事のことばって、固いなあ〜という印象をまず持ちましたが、
「取り調べの可視化」について、畠山さんと江川紹子さんが、
「公の場」で質問したことは大きな収穫だったのではないでしょうか。
しばらく連載はお休みとなりますが、再びパワーアップしてもどってきますので
畠山さんのツイッターにエールを送りましょう。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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