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2010-06-16up

フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~

第17回

2010年6月14日@金融庁会見室

「まあ、仲良くやってくださいよ(笑)」
(亀井静香前郵政改革・金融担当相)

 6月11日未明、政府・与党が郵政改革法案の成立を参院選後の臨時国会に先送りする方針を決めたことを受け、亀井静香氏は大臣の職を辞した。その第一報に触れた時、私は不安を覚えた。自ら体を張って記者会見オープン化の流れを作ってきた亀井氏が辞めてしまったら、再び会見が“閉じて”しまうのではないかと思ったからだ。

 私は鳩山前政権には大きな功績があったと思っている。それは戦後65年間、一貫してフリーランスの記者が排除されてきた官邸での首相会見を、一部ではあるがオープンにしたことだ。各省庁でも、すべてではないが大臣会見のオープン化が進んだ。

 ところが鳩山氏は6月2日に辞意表明をした後、質疑応答のある正式な辞任記者会見を行なわず、残念な形で官邸を去ってしまった。もしこれで亀井大臣も会見を開かなければオープン化の流れは大きく後退してしまう。私はそんな危惧を抱いたのだ。

 しかし、亀井大臣はきっちり辞任会見を開いた。しかも、記者クラブもフリーランスも合同で、質問や撮影に制限を設けないオープンな形で、だ。私は思わずツイッター上でこうつぶうやいた。「鳩は残念、亀はやるねん♪」。

 亀井氏の大臣就任以来、フリーや雑誌、ネットメディアの記者に対して行なわれてきた「第二会見」は、会見室ではなく大臣室で開かれていた。亀井氏がわざわざ一日二回、記者クラブ向けとフリー・雑誌向けに別々で記者会見を開いてきたのには理由がある。記者クラブ側が主催する会見室での会見では、フリーや雑誌の記者に質問をする権利が認められてこなかったからだ。亀井氏が第二会見を開き続けなければ、「記者会見がクローズドなものである」という大問題は『存在しない』ままであり続けたことだろう。

 それが最後の最後になって、ようやく一本化された。亀井大臣が記者会見のあり方を『正常なもの』に変えたと言えるだろう。

 私はこれらを踏まえて亀井氏に質問した。「最後の最後に合同の会見になったことをどう思うか」と。それに対して亀井氏は、ちょっととぼけながらこう答えた。

亀井 「あ、今回からこういうふうでやるんですね?」
畠山 「いや、まだどうなるかは(正式に)決まっていないようですが」
亀井 「それはこっちが頼んだわけじゃないよ(笑)」
畠山 「そうなんですか?」
亀井 「あなたたちが勝手に殴り込みにきたのか(笑)」
畠山 「殴り込んだっていうか、勝手にお邪魔している感じです(笑)」
亀井 「勝手に邪魔して一番前を陣取っちゃって(笑)」
畠山 「いや、空いていたので(苦笑)。最後の会見が合同になったことのご所見を」
亀井 「私は、もう、記者会見をやる場合はオープンにしたらいいと思ってますよ。それを記者クラブが、記者クラブって会員制かなんかしらんけどね、それだけで限定をされるとなると、私がとったみたいにね、二度も三度もやらにゃいかんかもしれんよね。時間の関係もあるし、体に限りもあるからね。まあ、そのあたりはやはりオープンにしていくということを考えられたらどうだと。私が押し付けることじゃありません、こんなこと。押し付けることじゃありませんからね。まあ、仲良くやってくださいよ(笑)」

 この会見の最後では、亀井氏が若い記者たちに向けて、まるで“遺言”のような言葉を残している。

「イタチの最後っ屁で言うけどね、みなさん方に失礼なことも言ったでしょ。あなたの新聞に今朝書いてあること、あんた賛成か。いや私は賛成じゃありませんという正直な人もいた。自分の担当分野については自分が責任をもって紙面を作るんだということがないとね、なんのための担当かわかりませんよ。
 意見は違いますよね、各社いろんなもので違う。論説の連中もアホみたいなのがたくさんいるからね。いかんけども、やはり、担当している分野についての本紙の記事については自分が責任を持たないと。
 そうじゃないっていうんならね、デスクのネクタイをこうやってでもね、自分の思うような記事を載せさせないと。それが番記者の番記者たる所以だと思いますよ。そういう誇りをぜひ持ってもらいたい」

 この言葉には会見場にいた記者たちも、ただ頷くしかなかった。

 今後、金融庁での大臣会見は、記者クラブ、フリーの記者も合同で行なわれる予定だ。亀井氏の残したものは、やはり大きい。

2010年6月10日@東京地方検察庁地下一階検察広報室

「会見中の録音はできません」
(東京地方検察庁広報官)

 びっくりした。

「なんだ、このコースは!」

 6月10日の午後4時前。私は東京地方検察庁の入り口で、思わずそう叫んでしまった。

 この日、東京地検では司法記者クラブ以外の記者にも参加が認められた第一回目の定例記者会見が開かれることになっていた。集合時間に遅刻しそうだった私は、地下鉄の駅から駆け足で東京地検に向かった。集合時間に遅刻したら、会見に参加できない可能性もあったからだ。

 なんとか間に合った。そう思って深呼吸をしていたら、さらに私の目の前に「走れ!」と言わんばかりの「コース」が続いていたのだ。

 地検の入り口で私の身分証明書を確認した職員さんは、こう言った。

「この通路にしたがって会場までお進み下さい」

 その「通路」は、両側すべてが銀色のポールと青いロープで仕切られていた。通路の幅は、約1.5メートル。そして約5メートルおきに職員や警備員が立ち、参加者がコースから飛び出さないように見守っていた。その数、少なくとも40人。私はマラソンコースを走るランナーのように、黙々と会場に向けて小走りした。私たちはそんなに警戒されるべき人間なのだろうか? これじゃまるで「推定有罪」だ。

 200メートルほど走って会見場に到着すると、一枚の紙が目に飛び込んできた。

「会見中の録音はできません」

 ええ〜! 記者会見は情報を「正確に伝える」ために開くものではないのか。正確を期すために録音するのは記者として当然ではないか。それなのに録音禁止。おまけに撮影も禁止。

 この日の会見には、大鶴基成次席検事、片岡弘総務部長、稲川龍也特別公判部長の三名が出席した。そこで私は「会見の運用方法」について質問をした。

畠山 「この記者会見は正式なものですよね? 先程、稲川特別公判部長からの説明にも数字等が出てきました。私は正確な報道をしたいと思っていますが、録音できなければ確認できません。これは『いい加減に書いてもいい』ということなんでしょうか。また、地検側が会見を録音して、その要旨を公開する予定はあるのでしょうか?」
片岡総務部長 「会見の要旨を公開することは本日は考えておりません。数字などについては後で確認いただければお答えできるようにしていきたいと思っております。言ってはいけない固有名詞を言ってしまったりということを恐れておりまして、今のところ慎重になっているとご理解いただければ」

 また、会見ではビデオニュースドットコムの神保哲生氏から、こんな質問も飛んだ。

神保 「過去の特捜事件の報道で、記者クラブは取材して書いていると思いますか?」
大鶴 「難しい質問なんですけど(苦笑)、正確な報道をお願いしたいなというのが正直なところです。誤解されたくないという思いもありますし、正確な報道をお願いしたいなと思います」

 新聞やテレビは、地検の記者会見がオープンになったことは報じた。しかし、会見でこうした質問が出ていたことは報じていない。報じたのはインターネットメディアの「J-CASTニュース」だけだ。

 これまでは記者クラブ側が「ニュースではない」と判断すれば、その情報が表にでることはなかった。しかし、会見がオープンになって多様な質問が出るようになれば、これまで表に出なかった部分にも光が当たる。早く撮影も録音もできる「普通の記者会見」になってほしい。

 会見終了後、私は地検の方々4名と名刺交換をしようとして4枚名刺を差し出してみた。興味深かったのは、4人が4人とも胸ポケットを探って「すいません、今は持ってきていないので…」とおっしゃったことだ。公務員の方々は名刺を自腹で作るとはいえ、あまりにも同じ反応で興味深かった。

 私はこうも聞いた。

「今日はどうしてコースができていて、40人ぐらい横に立っていたんですか? フリーの記者がコースを外れて悪さをするとでも思っていたんですか?」

 すると、地検の職員からはこんな答えが返ってきた。

「いやいや、道をお間違えにならないようにということです。警備員も、5人ぐらいしかいませんよ(笑)」

 残念。撮影が許されていたら正確な数を数えられたのに。

2010年6月15日@東京地検地下一階検察広報室

「報道機関側がどういう報道をするか、コメントは難しいが(苦笑)…」
(佐久間達哉東京地検特捜部長)

 6月15日午後2時45分、東京地検の検察広報官から、事前登録した私の携帯メールアドレス宛に一本のメールが届いた。

「本日午後3時40分から、当庁地下1階検察広報室において、臨時記者会見を開催いたします」

 メールによると、案件は事件発表だという。会見開始まで一時間もない。初めての「臨時会見」ということで、私はまたしても地検に走った。

 あいかわらず録音、撮影は禁止。この臨時会見に参加したのは、第一回目の定例会見とほぼ同じ約50名の記者。そのうち「記者クラブ外」の記者は8名だった。

 この日の案件は、東京都江東区の建築金物製造会社の代表取締役の男(47)を法人税法違反の容疑で逮捕したというもの。佐久間達哉特捜部長が出席した会見では、第一回の定例会見に続いて参加したジャーナリストの江川紹子さんが「被疑者は容疑を否認しているのか?」と質問。佐久間特捜部長は「被疑者がどういう弁解、供述をしているかはお答えをしない」と答えた。

 あれれ? 今回の件とは全く関係ないが、ちょっと違和感を感じた。小沢一郎前幹事長をめぐる「政治と金」の事件では、逮捕された石川知裕衆院議員の“具体的な供述内容”が洪水のように報じられていたよね?

 しかもまるで「取調べの場にいたかのような」内容が、連日、新聞やテレビで報じられた。その情報ソースのほとんどは検察側なのか被疑者側なのかはっきりしない「関係者によると」というもので、石川議員の弁護人が報道された供述内容について否定する場面もあった。あのやりとりって、一体なんだったのか?

 そこで私も質問。

畠山 「今、否認しているかどうかも含め、具体的な供述について述べるのは差し控える、ということでした。しかし、これまでの事件(小沢氏をめぐる事件など)では、具体的な供述が『関係者によると』という形でまことしやかに報じられることがありました。これについてはどうお考えになりますか?」

 佐久間特捜部長は、苦笑しながらもこう答えた。

佐久間 「報道機関側がどういう報道をするか、コメントは難しいが(苦笑)…。被疑者、弁護人が相談をされて、今回の対応事実について、弁護人の口を通じて弁解なり、自分の考えを述べるのはある。それを記事にされることはあるが、我々が少なくとも、身柄について、我々の方の判断で『供述しています』というのを公判前の段階で明らかにするというのはない、ということです」

 これまで司法記者クラブ向けに開催されてきた記者会見でも、撮影が許されることはまれだった。佐久間特捜部長はまもなく大津地検の検事正に転出する予定で、おそらくこれが東京地検での最後の会見になるだろう。佐久間部長が苦笑する顔、撮りたかったなぁ……。

2010年6月15日@内閣府地下一階講堂

「オープンな会見、週に2回じゃダメなんですか!」
(フリーランスライター・畠山理仁)

USTREAMで中継しました。

 民主党幹事長に就任した枝野幸男前行政刷新相のあとを受けて就任した蓮舫行政刷新相。蓮舫大臣といえば事業仕分けの際の名セリフ「1番じゃなきゃダメですか? 2番じゃダメなんですか?」で有名だ。

 その蓮舫大臣も枝野前大臣の方式を踏襲し、週に1回、オープンな形での記者会見を開くことになった。

 ご存知の方には釈迦に説法だが、記者クラブの記者はこの「オープン会見」の他に毎週火曜と金曜の週二回、記者クラブの記者しか参加できない会見の機会を持っている。ただ、この会見は閣議終了後、国会日程のわずかな合間をぬって開催されるため、実質、5分〜10分ととても短い。十分な質疑応答の時間はなかなか確保できないのが現状だ。

 そこで私は外務省の岡田克也外相のように、たっぷり時間をとって記者会見を開く考えがあるかどうか、蓮舫大臣の名セリフをリスペクトしつつ、「2回じゃダメなんですか?」と質問してみた。

 笑われた。記者にも大臣にも(笑)。大臣はにこやかな顔でこう回答した。

蓮舫 「まず、枝野前大臣のもとで、火曜日と金曜日の閣議後の定例会見以外に、こうしてフリーランスの皆様方と会見をさせていただく努力をして、結果、実現をして、多くの方が参加をしていただけていることには心から感謝を申し上げておりますし、これまでの政権ではおそらく考えられなかったことだと思います。
 その上で、さらなる要望があることも承知はしています。私自身もメディアの出身でございますので、思いはよくわかります。
 ただ、時間的な制約、あるいは警護上の制約、あるいはスペース上の問題等も含めて、そこはおそらくご理解を少しはいただける部分ではないかと思いますが、ただ、不断の前向きな見直しは常に私の中にはあると、いうことはぜひ覚えておいていただきたいと思います」

 はい。覚えておきます。

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畠山理仁さんプロフィール

はたけやま みちよし1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

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