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2011-01-12up

マガ9対談:2010〜2011 ニッポンの「明日の政治」を語ろう/中島岳志さん×辻元清美さん(その 9)
「理念」が見えない現政権の政治

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無所属になった政治家・辻元清美さんと、リベラル保守を自認する政治学者・中島岳志さんの対談です。「国民世論」にふりまわされる政治家が多い中、信念と理念をつらぬく政治家が希少価値となっています。日本の政治を立て直すため今、何が必要なのか。社民主義とリベラル保守は手を結ぶことができるのか? 10回にわたる対談で明らかにしていきます。

辻元清美●つじもと・きよみ  1960年生まれ。早稲田大学在学中の83年に「ピースボート」を設立し、民間外交を展開。96年の衆議院選挙に社民党から立候補し初当選。NPO法、情報公開法などに取り組み成立させる。2002年に議員辞職後、2005年の衆議院選挙で比例代表近畿ブロックにて当選。社民党女性青年委員長、政審会長代理に就任。2009年、衆議院議員総選挙において大阪10区(高槻・島本)から当選。社民党国会対策委員長に就任。国土交通副大臣に就任。2010年5月、国土交通副大臣を辞任。7月に社民党を離党。

中島岳志●なかじま・たけし1975年生まれ。北海道大学准教授。専門は、南アジア地域研究、近代政治思想史。著書に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)、『中村屋のボース−インド独立戦争と近代日本のアジア主義』(白水社)、『パール判事─東京裁判批判と絶対平和主義』(白水社)、西部邁との対談『保守問答』(講談社)、姜尚中との対談『日本 根拠地からの問い』(毎日新聞社)など多数。「ビッグイシュー」のサポーターであり、「週刊金曜日」の編集委員を務めるなど、思想を超えて幅広い論者やメディアとの交流を行なっている。近著『朝日平吾の鬱屈』(双書Zero)

辻元  その普天間の問題も含めて、民主党政権は政権交代以来ずっと「マニフェスト、マニフェスト」と言ってきたでしょう。でも、地球温暖化対策とか労働者派遣法とか郵政関係とかも、参院選で民主党が勝てなくて「ねじれ」の状態になっちゃったから、どんどん実現が困難になっている。つまり、政権交代して実現しますと言ってたことが、ほとんどできないという状況になりつつある。今、菅さんも元気がないと言われてるけど、中島さんは今の政権について、どう見ているんですか。

中島  まず僕は、民主党が、あるいはずっと「マニフェスト政治が重要だ」と言ってきた人たちの言う「マニフェスト政治」には大反対なんですね。
 どういうことかというと、まず「マニフェスト政治をやると政治主導になる」という議論がありますよね。これは政治学的に言うと、まったくのでたらめなんです。マニフェストという「国民との契約」をそのまま履行して、実現することだけが政治家の役割だとするなら、それ以上交渉の余地はないわけだから、政治家は非常に硬直化していきます。結果として、政治家が極めて官僚的な性質を持った人ばかりになっていく。つまり、脱官僚化で政治主導が進むのではなく、政治家のほうが官僚化してしまうんです。
 それから、日本で言っているマニフェストというのは、理念のない、ごちゃごちゃしたマニュアルみたいなもの。社会の未来は計算可能で、合理的に設計さえすれば必ずそのとおりになるという前提でつくられている。しかしこれは、常に交渉しながら落としどころを見出して漸進的に状況を改善していくという、政治の本質を奪うものだと思います。
 「本場」といわれるイギリスのマニフェストなどは、まず理念が書いてあるんですよね。そして、あくまでそこに「ぶら下がった」政策がいくつかセットになっている。民主党のマニフェストはその逆で、理念がなくて、場当たり的、応急処置的な政策だけが羅列されています。多分、財政なら財政、福祉なら福祉の分野が得意な議員が、その自分の得意な分野の政策だけをつくっているんでしょう。だから全体像がぼやけて、見えなくなってしまっている。

辻元  やっぱり理念という背骨がしっかりしてないから、個別バラバラな政策になってしまうんだと思う。
 私は、マニフェスト政治は「カタログ政治」やと言ってる。選挙になるとカタログが来て、有権者は「どっちのカタログがええかな」と見て、○をつけて送り返す。それで届いた商品が「思ってたのと違う」とか「まだ届けへん」とか文句を言ってる。それが果たして市民参加の政治か? と思う。 
 私は政治家1年生のときから「市民参加の政治を実現したい」とよく言ってたけど、それはやっぱり一緒に悩み一緒に考えていく、一緒に実践するもの。まさに「新しい公共」にもつながるものだと思う。だから、今のマニフェスト政治はあまり評価していないんです。「マニフェストをどれだけ達成したか」という話に終始して、政治が粗くなっちゃうんじゃないか、という気がして。

中島  そのとおりですね。しかも、今の菅政権について言えば、菅首相には一見理念があるようで、ないんじゃないかと思える。これは、ずっと野党政治家で来た人——というか、自分の体系的な理念を構築する機会を持たず、常にその場その場で何かの運動をやってきた人の一番弱いところかもしれないと思うんですけど。
 もちろん、哲学や理念ばかりでは頭でっかちになります。でも、現場ばかりを見ていても、今自分たちがどういう方向に向かっているのかわからなくなる。つまり、演繹と帰納、理念と現実を行ったり来たりできる人というのが理想的な政治家なんじゃないかと僕は思うんですけど、菅さんはこの「往復」ができないんですよね。例えば「新しい公共」のような大きいビジョンや理念を、きちんと理解できていないんじゃないかと思う。

辻元  たしかに、私も市民運動をやってたときや、野党で何か問題を追及していたときは、その一つのことを見て動いていたけど、この国全体、政治全体を見ようとすると急にしんどくなる。1人も路頭に迷う人のないようにして、戦争にも突入しない、この二つが政治の大きな役割だと思うんだけど、そのためにはどうしたらいいのか、を考えようとすると。
 以前は15分の質問の中でどう相手の弱点を突くかとかばっかり考えていて、それはそれでしんどかったけど、しんどさの内容が違うのね。社民党で野党をやっていたときより、今のほうがすごいプレッシャーとしんどさを抱えてるかもしれない。

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理念という「背骨」のない、ばらばらな政策の羅列。
そう思って現政権を見ると、
なんだかとても腑に落ちる気がするのですが、どうでしょうか?

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