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2011-11-23up

下北半島プロジェクト
映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を下北半島で上映したい!

第15回

最近思い返すこと。

 数年前のお正月、私は父方の祖父母の家にいました。いつもの年と同じように家族や親戚と餅つきをし、祖母こだわりのお手製お節料理をいただき、だらだらと正月番組を観る。なんでもないいつものお正月、になる予定でした。ところが、その年はそうもいかなくなったのです。それは、元日早々から大規模な断水が起こってしまったからです。

 1月1日に、川から浄水場に水を送る管が破裂。浄水場に水が送られなくなりまもなく処理機能が停止。その日の夕方頃には完全に水の供給が止まり、断水。この影響は広範囲におよび、約93,000世帯(約24万人)が一時、水を使えない状況に陥りました。祖父母の家はもう少し早くに回復したように記憶していますが、水道が完全に復旧したのはなんと1月6日のことでした。(どこかで似たような経験がある気がしますね。)

 水が使えなくなるとどうなるか。汚れた食器は台所に置きっぱなし、トイレは流せない、お風呂には入れない、手も洗えない顔も洗えない歯も磨けない。…この体験は衝撃的でした。干ばつでもあるまいし水が使えない。生理的にも絶対的に必要な水が使えない。水がないこと・自由に使えないことの深刻さを初めて実感しました。また、どこか自分たちの及びもしない機能が不具合を起こすと、暮らしに必要なことが自分たちでは全く出来なくなってしまうことの不可思議と恐怖。水を飲む、という基本的な行動さえも制御されたこのとき、よくも悪くも「自分たちは管理(コントロール)されてるんだ」となんだか頭の中が止まってしまうような、そんなことを思わずにはいられませんでした。

 一方、そこから車で30分ほどの里山で暮らす母方の祖母の家は、断水地域内だったにもかかわらず何事もなかったかのように平気で水が使えていました。蛇口をひねると水が出て、皿も洗えるしお風呂にも入れる。なぜか。彼女の家は井戸水を引いていたからです(さらに言えばトイレはいわゆるボットンでした)。

 水道管が破裂して水が止まっても、それを素早く補うシステムがあればいいのかもしれません。井戸水なんかよりもちゃんと浄水場から水道管を通ってきた水のほうがいいのかもしれません。けれどもこの体験は私の世界の見え方をまるで違うものにしました。井戸水を引いて生活してきた祖母がとても逞しく思え、同時に自分たちがよかれと思って手に入れてきた生活の脆さと、首根っこを捕まえられているような怖さを思いました。自分の手元で生活をつくることをどこかの誰かに委ねているから、手間もかからずお金で買えば解決され「便利」であったり「快適」であったりするのでしょう。しかし、それを盲目的によしとすると、その原理をエンジンに私たちはひたすらに突き進んでしまう。例えば、節電節電と言っていたのに駅構内の紙面広告や自動販売機がどんどん液晶画面で彩られるようになっているように、「電化」がどんどん当たり前になっていく現実。じゃあそれを風力発電でまかなえばそれでいいのでしょうか。自然エネルギーでまかない続ければそれでいいのでしょうか。また、なんでもお金で買えればそれでいいのでしょうか。それは「買わなければ」生活できない、ということではないでしょうか。

 その祖母の家は山から拾ってくる薪でいまだに暖をとっています。薪ストーブ。そのストーブで燃やした炭火で炬燵。今はスイッチひとつにリフォームしてしまいましたが、数年前まではお風呂のお湯も薪で沸かしていました。ただ単にひと昔まえに回帰するということではなく(それもそれでいいと思いますが)、揺らがない生活、地に足のついた生活とはなんなのかを、今ある技術や習慣、知識などと照らし合わせながら考え直すこともこの震災によって求められているように思います。また、地に足のついた生活とは人とのつながりかたにもいえることです。危機的状況のときに助け合える関係こそに地に足のついたひととのつながりの真価があるのだと思います。そのような関係が誰にでもあれば、不安や恐れから敵同士になることも少なくなるのかもしれません。

 そんなことをここ東京でどう実践していくか、ということも考え中です。

(Y子)

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さまざまなものをお金で買い、
営みを人の手に委ねてしまっている生活のもろさ、怖さ。
3・11の後にも、それを強く感じた人は多かったのではないでしょうか。
すべてを昔のままに、というのではないけれど、
生活そのものをもう少し「つよい」ものにしていく視点も持ちたい。
「近代文明」は便利だがリスクも大きかった、と指摘する、
こちらのコラムもあわせてどうぞ。

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