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2012-05-16up
昨年、「下北半島プロジェクト」で青森県下北半島を訪れたマガ9スタッフ。短い時間でしたが、核施設のある六ヶ所や東通も訪れ、地元の方ともお話しする中で、主要産業であり雇用の場でもあった原発を、即座に否定はできない事情や空気があるということを感じました。と同時に膨らんできたのが、他の原発立地地域はどうなのか? という関心。日本各地の「原発のある地域」で、反対運動をしてきた方のお話などをシリーズでお送りします。
第1回(福井県・小浜市)真言宗御室派 棡山 明通寺 住職 中嶌哲演さんに聞いた:その2
真言宗御室派 棡山 明通寺 住職 中嶌哲演(なかじま・てつえん)1942年、福井県小浜市出身。東京藝術大学中退。高野山大学仏教学科卒。学生時代から広島の被爆者支援を続ける。68年、小浜市に原発建設の計画が持ち上がったことを機に、「原発設置反対小浜市民の会」を結成。事務局長を務める。93年「原子力行政を問い直す宗教者の会」結成に参加。2012年3月25日~31日まで、大飯原発再稼働に反対してハンガーストライキを実行。著書に『原発銀座・若狭から』(光雲社)、『いのちか原発か』(風媒社)など。
原発の再稼働が
強行されようとしている現状には、
「まだ懲りないのか」と言いたい
——地元住民の反対意見を無視して、国は大飯原発再稼働に向かっています。事故が起きた際にもっとも被害を受ける地元の声が、これほど軽視されていることには驚かされます。
原発に関しては、そもそも「地元」という言葉の定義に問題があります。現在の制度では、自治体と原子力事業所が結ぶ「原子力安全協定」で「立地自治体」と定義された自治体のみ、地元として原発の再稼働に意見を言えます。大飯原発は、おおい町(旧大飯町)が立地自治体にあたり、小浜市は「隣接自治体」に分類されて発言権がありません。
しかし、大飯原発の10キロ圏内の住民分布は70%が小浜市民で、おおい町民は20%に過ぎません。小学生が見たって、実質的な地元は小浜なのに意見を聞き入れてもらえないのです。小浜市民は過去に二度も原発を拒否しましたから、関電はなんとしても立地自治体にはしたくなかったのでしょう。
1983年、大飯原発に3、4号機の増設の話が持ち上がった時のことです。私たち「原発設置反対小浜市民の会」は、小浜市民9400世帯すべてにアンケートを取りました。回収率は28%。そのうちの86%が増設反対で、94%が安全協定を大飯町と同等の内容に改めるべきと回答しています。
翌年には、大飯原発10キロ圏内の小浜市民5600世帯に住民投票を呼びかけ、90%が反対票を投じました。投票率は53%です。小浜市民の声が生かされていたら、大飯原発3、4号機は存在しなかったのです。
——大飯町では反対運動はなかったのでしょうか?
もちろんありました。数少ない地元の有志が協力して、大飯町での住民投票が計画されました。その頃の大飯町は、すでに原発マネーによって原発反対と言えない雰囲気でしたから、匿名の住民投票条例を求めて署名活動をしました。
住民投票条例の制定請求には有権者の50分の1(2%)、当時の大飯町では95人ほどの署名が必要でしたが、最終的には660人(有権者の13%)もの署名が集まりました。投票をお願いにいった先で「匿名の住民投票が実現したら、必ず反対票を投じます。でも、住民投票を求める署名は勘弁してください」とジレンマに苦しむ人も少なくありませんでしたから、これだけの署名が集まったことは大きな成果でした。
しかし、結局、大飯町議会は住民投票の直接請求を否決。3、4号の増設は強行突破されました。
——原発のある地元の自治体でも、意見を通すことは難しかったのですね。「下北半島プロジェクト」は、東京で働く私たちが故郷・青森の原発問題を見つめ直そうと始めました。地元の外側からでも、何か働きかけることができれば、と思っています。
むつ市で『ミツバチの羽音と地球の回転』を上映するのは、大変なことだったでしょう。原発立地の地元で、よくぞ上映会を実現してくれました。このプロジェクトは、地元民じゃないからこそ、できたことかもしれませんよ。地元のしがらみから離れているからこそ、フリーの立場で介入できます。
これからは、地元の中も外も力を合わせて、原発がなくても自立できるためのビジョンを考える時代です。すでに広瀬隆さん、田中優さん、内橋克人さんら、さまざまな方々が脱原発に向けた具体的な手立てを示していますね。これまで草の根的に行ってきた運動が集まって、それぞれの知恵を合わせる時期に来ています。
全原発停止は、日本の原発政策が始まって以来、初めてのことです。推進側にはビッグピンチ。我々にとってはビッグチャンスです。このチャンスを生かして、原発立地自治体が自立する方策を考えなければなりません。
——青森県も含めて原発のある自治体では、原発関連産業が貴重な雇用の場になっています。代替産業をどう提示するかが、もっとも大切で、難しい問題です。
そうですね。「原発は危険だから止めろ」「命とお金のどっちが大事なのか」という単純な二者択一では、原発の地元はどうにもなりません。地元の雇用が本当の意味で保障され、永続して自立できるビジョンを示すことが不可欠です。
私は、当面の間は、原発を廃炉にするための雇用があると思います。原発1基を廃炉にするには30年以上の年月がかかるといわれ、そのための技術開発や、科学研究は必ず雇用を生むでしょう。一般の産業においても、廃棄物処理は1つの立派な職業分野です。労働者の安全確保や賃金には十二分に配慮したうえで、時間をかけて丁寧に廃炉作業を進めるべきでしょう。
かつて日本のエネルギーの主役が石炭から石油に代わるとき、国は臨時措置法を制定し、61年から07年まで40年もの間、炭鉱のあった町を手当てしてきました。炭鉱労働者が新しい職につくまでの生活を、国が保障したのです。いろいろ問題もあったと聞きますが、私は廃炉作業も同等の時間と予算をかけていいと思います。
ただし、単に新たな雇用を創出すればいいわけではありません。脱原発と同時に、中央が地方を支配する構図そのものを変える覚悟が必要です。
——構図を変える覚悟、ですか?
仮に廃炉作業や、原発関連産業以外の雇用ができても、都市部の大企業やメガバンクが主導となっていては何の解決にもなりません。中央資本は、地方の新しい市場で散々おいしい汁を吸い、用が済んだら立ち去ります。一時的な雇用は生まれるかもしれませんが、結果的には残骸としての箱モノだけが残るでしょう。地元の人材だって育ちません。原発と同じ、都市が地方を支配した構造だからです。
私たちは、原発をなくすだけではなく、雇用の中身も変えなくてはなりません。地元に根を下ろした企業や金融機関を中心に、地元の経済が回る仕組みを作ることは急務です。
——原発は、支配する側・される側の関係を象徴しているのですね。
原発推進の構図は、かつての戦争とも重なります。旧大日本帝国は、植民地支配したアジア諸国や太平洋の島々に傀儡(かいらい)政権を作り、住民を統治しました。私には、青森や福島、若狭のいずれもが、かつての植民地国と同じように見えます。国内植民地化といいましょうか。
原発立地自治体には、電力会社や地元の推進勢力による "ミニ原子力村"が作られます。これは植民地国の傀儡政権に相当し、お金の力で陰に陽に住民を抑え込む。こんな非民主的なやり方は、植民地への侵略とあまり変わらないと思います。また、それに無関心でいることは、侵略戦争が行われているのに大本営発表だけを鵜呑みにしてきた、かつての日本国民とまったく同じです。
福島第一原発事故では、多くの人が原発の危険性に気付いたはずです。それでも、原発の再稼働が強行されようとしている現状には、「まだ懲りないのか」と言いたい。かつての戦争推進勢力は広島への原爆投下でも懲りずに、長崎の過酷な犠牲を出しました。今、懲りずに再稼働を許してしまえば、必ず長崎のように二度目の被害が起こります。
今、私たちが力を合わせるべきは、なんとしても大飯原発の再稼働を防ぐことです。仮に大飯原発が再稼働してしまえば、雪崩を打つようにほかの原発も動かされるでしょう。大飯原発再稼働は若狭だけの問題ではありません。電力を享受してきた大都市のみなさんも含めて、国民一人一人が自分のこととして捉えてほしい。日本全体として、生き方を選択する時代になっているのだと思います。
■インタビューを終えて(越膳綾子)
中嶌住職のいる明通寺は、大同元年(806年)から続く名刹で、本堂と三重塔は国宝指定です。インタビューをしたのは、まだ雪が積もっている季節でした。静かな応接室で迎えてくれた中嶌住職はとても穏やかで、自身の半生を語り、「下北半島プロジェクト」の成功を喜んでくれました。今になって原発の危険性に気付いた私を責めることなく、「(自分も)本質はみなさんと変わらないんですよ」といってくださったことには驚き、安堵しました。 その後しばらくして、経産省前のハンスト会見で再会した住職は、インタビュー時とは打って変わって厳しさが全面に出ていました。身体を張って行動するというのは、こういうことかと息を飲む表情です。そして会見の最後に、一編の詩を読み上げました。
あとからくる者のために
(坂村真民『詩集・詩国』より)
あとからくる者のために
苦労をするのだ
我慢をするのだ
田を耕し
種を用意しておくのだ
あとからくる者のために
しんみんよお前は
詩を書いておくのだ
あとからくる者のために
山を川を海を
きれいにしておくのだ
あああとからくる者のために
みんなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくる
あの可愛い者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために
みな夫々自分でできる何かをしておくのだ
中嶌住職の脱原発運動は、目の前の損得や、自分たちの身の安全が目的ではありません。会ったこともない未来の人たちを守るためでした。あとからくる者のために、自分はなにができるのだろう? 一人ひとりがそう問い続けることで、何かが変わる気がしました。
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