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2011-02-02up
マガ9スポーツコラム
No.031
日本代表の
スクラップ&ビルドが始まった
――アジアカップを振り返って――
私は前回のコラムで、サッカー・アジアカップが2014年のブラジル・ワールドカップを目指す日本代表の今後を占う試金石になると書いた。しかし、日本代表が優勝を果たしたいま、それは無理というのが正直な感想である。このチーム、パスミスを連発したかと思えば、素晴らしいゴールを決める、数的不利になった途端に果敢に攻め上がると、まったくもって予測不能な試合を展開したのであった。
ただ、全試合で共通していたのは、常に選手が落ち着いているように見えたことである。予選リーグの初戦(対ヨルダン)で1点先取された後、刻々と時間が過ぎるなかでも、彼らから焦燥感は伝わらなかった。ロスタイムでの吉田麻也選手の同点ヘディングシュートは、あらかじめ約束されたかのようなゴールにさえ感じられた。
続く第2戦(対シリア)では、試合前にザッケローニ監督が語っていた「縦へのパス」を選手たちが即、実践に移したことに驚いた。縦へのパスが多用されるので、狭いスペースでの接触プレーが増えた。ペナルティエリア近くでは、サイドへボールを出すよりも、個人技による突破が試みられた。そのためしばしば相手にボールを奪われ、カウンター攻撃にさらされることに。ゴールキーパー川島選手のレッドカード退場は、守勢に回ったときのもろさが招いたといえる。
しかし、選手たちはピッチ上で意気消沈するどころか、10人になってから、プレーをさらにアグレッシブにしていった。そして後半、本田選手のPKで勝ち越した。震えがくるような試合だった。
一方、第3戦(対サウジアラビア)は、5対0の大勝だったものの、サウジアラビアの選手は覇気がなく、日本選手には単純なパスミスが目立った。「これでは決勝トーナメントを勝ち上がるのは難しいのではないか」というのが試合後の印象だった。実際、準々決勝のカタール戦で、吉田選手がイエローカード2枚で退場となった直後にフリーキックから逆転された時は、「自分のいやな予感が当たった」と思った。
ところが選手は、ここでもポーカーフェイスなのである。落ち込む姿も、気負った気配もみせず、味方の選手がボールを奪うと、その瞬間に全員が前を向いた。そして香川真司選手が同点ゴールを決め、さらには逆転劇の演出をしたのは周知のとおりである。
「戦う気持を前面に」とか「絶対に負けられない戦い」といった掛け声をもって、日本代表を鼓舞するのはマスメディアの常である。しかし今回の日本代表の、ときに鈍感とも思えるような耐性の強さには、これまでのサッカーを語るマスメディアの慣用句がフィットしないように思えた。
南ア・ワールドカップの岡田監督は、守備への意識を極限まで高めることで、決勝トーナメントまで勝ち進んだ。ザッケローニ監督はチームを編成する際、これまでのスタイルを丁寧にほぐし、攻撃陣を起点として組み立て始めた。まるで日本代表をスクラップ&ビルドするかのように。アジアカップを「勝利を求めるだけでなく、チームを成長させる場」ととらえていたザッケローニ監督は、スクラップ&ビルドを試合のなかで実践したのだと思う。
準決勝の終盤で韓国に見せつけられた体力の差、決勝でオーストラリアに縦への攻めを封じられた時の攻めあぐねは今後の課題だろう。
それらは国際親善試合で日本代表が負けたときに、より明確になるはずだ。
ザック・ジャパンがどんな負け方をするかも見てみたい――そんな天邪鬼な物言いをさせるほど、このチームの行方は興味深い。
(芳地隆之)
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