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2011-01-05up
マガ9スポーツコラム
No.030
W杯の試金石としてのアジアカップ
1月7日からカタールで始まるサッカーのアジアカップは、2014年のブラジル・ワールドカップ予選に臨む日本代表を占うのに絶好の大会といえる。新しい監督とチームのコンセプトが見えるからだが、過去2大会とその後のワールドカップにおける日本代表の戦い方は対照的だった。
2004年に中国で開催されたアジアカップでは、同国で高まった反日の気運による激しいブーイングのなか、ジーコ監督率いる日本代表は決勝で地元中国を3対1で破り優勝した。
あの時のジーコ・ジャパンはプレッシャーに強い、粘りのあるチームだった。決勝トーナメント・準々決勝でのヨルダンとのPK戦は川口能活選手の奇跡的なセーブによる逆転、準決勝バーレーン戦では延長戦に玉田圭司選手がその日2ゴール目となる決勝ゴールを鮮やかに決めた。
完全アウェーのスタジアムで冷静に戦えたのはチームに団結力があったからだと思う。ところが2006年のドイツ・ワールドカップにおけるジーコ・ジャパンには、それがまったく感じられなかった。その理由のひとつは、ジーコ監督がアジアカップでは日本代表に加わらなかった中田英寿選手をうまくコントロールできなかったからだと思う。
とても印象的な場面がある。
予選リーグでオーストラリアに敗退、クロアチアと引き分けで、決勝トーナメントに進むには勝つしかないブラジル戦のことだ。選手入場前の控え室を映すテレビ画面で、中田選手はブラジルの選手と談笑していた。相手はアドリアーノ選手だったと記憶している。彼も中田選手同様、イタリア・セリエAでプレーしていたので、イタリア語で話したのだろう。にこやかな中田選手とは対照的に、他の日本人選手はうつむき加減で、表情は強張っていた。
中田選手は当時の日本代表のなかで、技術・体力・気力とも傑出していた。しかし、それが彼をチームの牽引役にするのではなく、アンタッチャブルな存在にしてしまっている。私にはそのように見えた。
ジーコ監督も選手時代にイタリア・セリエAでプレーしていたことがあるので、中田選手とはイタリア語で直接会話ができたという。中田選手はジーコ監督の掲げる「自由と創造」を重視するサッカーを誰よりも理解し、体現しようとした。しかし、それに他の選手はついていけず、チーム内に不協和音が生まれた。攻撃的にいくのか、守備的に戦うのか。選手間で意識を共有できず、終盤にガタガタと崩れて逆転負けを喫したオーストラリア戦はその象徴のように思えた。
2007年のインドネシア・マレーシア・タイ・ベトナム共同開催によるアジアカップでは、オシム監督が日本代表を率いた。当時のチームは団結力以前に、オシム監督が自らの目指すサッカーを各選手に叩き込む過程のような試合の連続だった。選手はフィールドを広く使って走りに走った。決勝トーナメント・準々決勝ではオーストリアと戦い、PK戦で辛勝(再び川口選手の神業のようなセーブの連発)。ドイツ・ワールドカップの雪辱を果たしたが、選手の気力・体力はその時点で限界に達していたと思う。準決勝のサウジアラビア戦(2対3で負け)、3位決定戦の韓国戦(PK戦で負け)での選手たちは、精根尽き果てたように見えた。
その後、脳梗塞で倒れたオシム氏から監督を引き継いだ岡田武史氏はオシム流のダイナミックなサッカーからコンパクトなパス回しへの転換を図る。それが2010年の南ア・ワールドカップで功を奏したのは、「走るサッカー」という基本を前任者から継承したからだろう。
監督と選手、選手間の関係は、ナショナルチームに選出されるプロといえども繊細だ。ザッケローニ監督はアジア大会で選手をいかに指揮するのか。昨年日本で行われた韓国戦では、日本選手の身体の当たりがずいぶん強くなったように見えた。何かごつごつした、いままで見たことのないようなアグレッシブなプレースタイルに少しわくわくした。
アジアカップ・カタール大会でどんな新しい発見があるか。注目したい。
(芳地隆之)
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