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2013-01-23up
下北半島プロジェクト
下北半島発・一人芝居「こころに海をもつ男」を東京で上演したい!
第28回
おかげさまで公演は大成功に終わりました!
1月19日に北とぴあで行われた愚安亭遊佐さんの一人芝居『こころに海をもつ男』は、たくさんのお客さんに来場いただき、大成功のうちに終了しました。企画からわずか半年あまり、通常芝居の企画はそんな短い時間では準備しないものでしょうが、演劇にはズブの素人の私たちゆえ、勢いだけで実現してしまいました(今考えてもよくやったと思います)。こんな私たちの企画にのってくださった愚安亭遊佐さんと遊佐企画スタッフの方たちに感謝申し上げると共に、マガ9読者のみなさんや告知など協力くださったたくさんの方たちにも感謝! 支えていただき、ありがとうございました!
「人で溢れるくらい入れてしまえばいいんだよ」。公演前日の愚安亭遊佐さんのこの言葉に私は驚いてしまいました。ホールを借りている運営側としてはそんなことはもちろん困りますし、個人的なことでいうとただでさえ人前が苦手な自分にはそんな言葉は全く別世界のものであったからです。しかし同時に、妙に納得してしまいました。「人で溢れ」返るほどの会場。そのただごとでない熱気。注がれる無数の眼差し。見る側と見られる側という関係性のなかにある役者にとっては、観客が多ければ多いほどそれは芝居を委縮させるものではなくむしろ躍動させる、本質的にそういうものであるのだろうかとなんだか腑に落ちるものがあったのです。
そうして迎えた当日。それは確信に変わりました。満員御礼、観客で埋め尽くされた会場は決して大きくない舞台に現れたひとりの役者へと視線を注ぐ。役者もまた、その観客らに目をやる。そのときの愚安亭さんが実にまたたのしそうなのです。観客をぐいぐいと海の辺の小さなまちへ、勝間田頑蔵の人生へ、芝居の世界へとひきこんでゆく愚安亭遊佐と、ひとつ、またひとつと舞台で繰り広げられる一挙一動に観客が反応し、笑い、悲しみ、涙を落としてゆく。そのたびにその空間では、人間の感情が交差してゆく。伝播してゆく。それが舞台にも届く。そして芝居はまた、止まずに躍動する。
この芝居をこれまでの過去をみつめなおしてゆくきっかけとすることや下北半島に関心をもってもらうということが今回の企画の狙いではあったのですが、それ以上に、言葉にすると陳腐なのだけれど、前を向いて生きていこう、切り拓いていこうという力をいただいたように思います。見られた方はいかがだったでしょうか。(Y子)
***
休憩を挟まず2時間にわたる芝居を愚安亭遊佐さんが演じ終えたとき、客席からは大きな拍手とともに「笑顔」がわきました。『こころに海をもつ男』は、青森県六ヶ所村で起きた「むつ小川原開発」と核燃料再処理施設建設の悲劇を描いた芝居です。そこだけ聞くと難しい顔になりそうですが、多くのお客さんが笑顔でした。
公演から一夜明けた日曜日、私の頭のなかでは舞台のさまざまな場面や、お客さんの表情、拍手の音が代わる代わるに浮かんでは消え、ぼんやりとした時間が過ぎました。達成感なのか、疲労感なのかよくわからないまま、静かにしていると、少しずつ今回芝居を主催して気づいたことがまとまっていきました。
「むつ小川原開発」という言葉は、子どもの頃から時々耳にしていましたが、ずいぶん昔のこと。どこかで親世代の頃の“済んだこと”だと思っていました。あまりに大きな出来事でイメージがつかみにくく、今から振り返るのはおっくうだったからかもしれません。
『こころに海をもつ男』は、そんな怠惰な私の目を開かせ、当時を生きた人の気持ちをリアルに想像させました。主な登場人物が漁師・勝間田頑蔵とその妻の2人であることが、絶妙でした。巨大開発というと、「地元の雇用」「地域住民の暮らし」と大きなくくりで考えたくなりますが、そうなると問題がぼやけます。一方で、だれか一個人の問題すぎると共感しにくいことがあります。
大勢でなく個人でもなく、夫婦2人の人間模様を演じる愚安亭さんは、開発が奪っていくのは「みんな」ではなく「私とあなた」の関係性。つまり “ごく当たり前の日常”であることを見せてくれました。
公演の数日前、私は久々に鎌仲ひとみ監督の『六ヶ所村ラプソディー』を観る機会があり、六ヶ所村の核燃料再処理施設に「もう決まったことだから共存するしかない」という住民の言葉がひっかかっていました。巨大権力に既成事実を作られ、抗うことを止めてしまった地元の人。その姿に、3・11から2年近く経って何となく原発の話題が減ったことへ危機感をつのらせましたが、『こころに海をもつ男』の公演を主催して、ふに落ちました。
開発も原発も、相手が巨大であるからこそ、その恐ろしさや被害の甚大さがあいまいになっている気がします。巨大権力が何を奪おうとしているか見えなくなった時は、小さな人間関係が壊されていないかに立ち返ることが大事なのではないでしょうか。
日が暮れるまでそんなことを繰り返し考えていると、電話がなりました。愚安亭さんからです。
「今回のように嬉しかったことは、今までなかった。私で力になれることがあったら、いつでも言ってほしい」
力強い言葉でした。今回の芝居を企画して良かったなあ、と素直に感じました。「下北半島」を基軸に、大切なつながりが生まれました。
最後になりましたが、ご来場いただいた皆様、そして支援してくださった方々に改めてお礼を申し上げます。寒い冬の日、愚安亭遊佐さんの『こころに海をもつ男』を観に来てくださり、どうもありがとうございました。私たちはイベントのプロではありませんが、これからも地道な活動を続けたいと思っています。次の下北半島プロジェクトがありましたら、ぜひまたお付き合いいただければ幸いです。
(A子)
参加者の声の一部を掲載します。(敬称略)
心打たれました。今の問題には歴史と人の物語があることを知りました。アフタートークの対談で落語がお好きとわかって、常に芝居にユーモアと笑いがある理由も納得。(手塚洋子)
まるで創作落語のようでした。ひとり芝居の限られた中で海が広がるような表現世界を見せていただき、感銘を受けました。六ヶ所村には1989年に行き、後の原発事故を暗示するような話を見聞きしてきましたが、残念ながら現実となってしまいましたが。今後も問題作を出されるなど、活躍される事を期待します。(匿名希望)
久しぶりの遊佐さんの舞台。かなり高齢になられたので、声量など心配していましたが、まったくそんな必要のない気迫のこもった演技で素晴らしかったです。(柾木博行)
私もむつ市の生まれで、下北半島が開発に翻弄されてきた不条理さや悔しさを感じています。慣れ親しんだ方言や、昔の暮らしぶりに安らぎを覚える一方、現在の下北の状況を思うと、既にあるものとどうつき合っていくべきか、あらためて考えさせられました。感動しました。(川端康正)
2時間があっという間にすぎました。エネルギッシュで説得力のある舞台。しかも笑いもまじえて、すばらしい公演でした。(匿名希望)
自給自足の村が開発により貧困が生まれ、土地と結びついて暮らしていく人達がこわれていく様、東京で生活する身には色々と考えさせられました。下北半島にも足を運んでみたいと思いました。(椎名健治)
熱演、心よりありがとうございました。すばらしかったです。(丹波順子)
六ヶ所に生きてきた人々の心、裸の生きる姿にふれる事が出来たと思います。本当に豊かなものは何なのか、自然についてなど考えさせられました。素晴らしい公演をありがとうございました。下北半島プロジェクトに感謝。(金生来道)
すごい! このお芝居はロングランでたくさんの人に見て欲しい。蘇ってご飯を食べるシーン、泣けた。人間の根源的な姿に心打たれた。(匿名希望)
すばらしかったです!! 重いテーマなのに、そこに下北の人々の生き生きとしたくらし、心の動きがユーモラスな表現で描かれていたのが、かえって良かったです。村の風景、人々の営みが愚安亭さんの後ろに見えるようでした。人ってお金で変わっちゃうんですね。大事なことがわかりました。台詞、構成も良かったです。失礼ながらかわいらしい方だなと思いました。(なかだえり)
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