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2010-05-26up
マガ9レビュー
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カティンの森
2007年ポーランド/アンジェイ・ワイダ監督先月、カティンの森70周年の追悼式に向かったカチンスキ・ポーランド大統領の乗った特別機が墜落する事故があった。あの歴史が繰り返されたかのような錯覚を起こす悲劇だった。
1939年9月1日未明。ドイツ国防軍の戦車部隊が対ポーランド国境を突破した。ドイツのポーランド侵攻に対して、英国とフランスは9月3日までに軍事行動を止めなければ宣戦布告すると通達。しかし、ドイツは戦線の拡大を止めず、第二次世界大戦の幕が切って落とされる。
英仏に対してドイツのヒトラーが強気を通せたのは、その10日目前の8月20日、ソ連のスターリンとの間で独ソ不可侵条約を結んだからである。ソ連軍はドイツ侵攻の17日後、ポーランド東部から雪崩を打って攻め入った。ポーランドは独ソ両国によって分割。世界地図から消滅する。
本作品は、ポーランド東部の古都クラクフ近郊、ソ連侵攻時から始まる。ドイツの攻撃を逃れて東へ逃げる非戦闘員に、東から逃げてきた人々がソ連の進軍を告げる。
主人公はアンナ。彼女の夫で、ポーランド軍将校であるアンジェイはじめ、1万人以上の軍人はソ連軍の捕虜となり、その多くがソ連西部、スモレンスク郊外のカティンの森に連行された。収容所に入れられると思っていた彼らは、ソ連軍によって次々に射殺される。
ソ連はポーランドを占領するに当たって、誇り高き将校たちを目障りな存在とみていた。そして、この戦争犯罪をナチスドイツの仕業だと喧伝した。戦後のソ連支配下のポーランドでも、みなが真実に気づきながら、本当のことに口をつぐむ。
この映画を見終わった後、しばらく立ち上がれなかった。心臓をわしづかみにされたようで、何をどう論じていいのか。真実の隠蔽、冷酷な打算、異議を唱える者に対する仮借なき弾圧……。人々の怒りと絶望の深さを思うと、沈黙せざるをえなかったのである。
ソ連政府がスターリンの命令によるものであったことを認めたのは、ゴルバチョフ時代の末期である。
映画の冒頭の「両親に捧ぐ」は監督の献辞だ。監督の父親もソ連軍の捕虜となり、虐殺された。
1950年代後半の戦時下ポーランドの3部作(「世代」「地下水道」「灰とダイヤモンド」)から約半世紀。「カティンの森」は、アンジェイ・ワイダ監督によるポーランド現代史への落とし前のように思えた。この映画完成当時、ワイダ81才。衰えなど微塵も感じさせない、監督の執念が結晶したような作品である。
(芳地隆之)
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