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2010-05-12up
マガ9レビュー
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北国の帝王
1973年米国/ロバート・アルドリッチ監督この映画を見たのは10代半ばのころだった。貨物列車の荷台の上で、ハンマーと斧をもった2人の男が対峙するクライマックス・シーンがあまりに強烈だったせいか、それ以外のシーンをほとんど忘れてしまった。
いったいどんな映画だったのか? 約30年ぶりに見直してみて、作品のもつアナーキーな力に恐れ入った。
舞台は1933年の大不況下のアメリカ。無賃乗車を図る男(彼らは「ホーボー」と呼ばれていた)と、ホーボーを見つければ、腰にぶら下げているハンマーで躊躇なく殴り殺す車掌との戦いを描く。
通称「Aナンバーワン」はホーボーのベテラン。仲間からは「北国の帝王」という称号を受けていた。しかし、その彼でさえ、無賃乗車は無理だろうといわれていたのが、ジャックが車掌を務める機関車「19号車」である。Aナンバーワンが19号車への挑戦を宣言すると、ホーボーだけでなく、他の車掌や機関士たちも、どちらに軍配が上がるかの賭けを始めた。
荒唐無稽かつシンプルなストーリーである。にもかかわらず、まったく退屈しない。Aナンバーワンを演じるリー・マーヴィンとジャックに扮するアーネスト・ボーグナインの圧倒的な存在感ゆえだ。リー・マーヴィンの風貌は、腹の据わった男とは、まさにこんな人物だろうと思わせる。目玉をぎらつかせるアーネスト・ボーグナインからは、車掌という任務からはるかに逸脱した狂気があふれ出す。
この映画から時代や社会に対する批判的な視線は見受けらない。純粋なアクションとしてつくられており、バイオレンス映画の巨匠といわれるサム・ペキンパー監督が「北国の帝王」の脚本を読んで、映画化に意欲をもっていたという話も肯ける。
とはいえ、体臭までが伝わってきそうな2人の個性的なキャラクターを生んだのは、まさに大不況という時代であり、そこに生きる者のぶつけどころのない怒りだ。空威張りするのが精一杯の、キース・キャラダイン演じる若きホーボーが、ラストでAナンバーワンに貨物から突き落とされるのは、彼に本当の怒りが欠けていたからである。
それにしてもロバート・アルドリッチ、むさくるしい男を描かせると抜群の冴えを見せる監督であった。
(芳地隆之)
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