マガジン9
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2011-06-22up
今井一さんに聞いた「原発国民投票」は、日本で行えるのか?(その2)
6月12日、13日とイタリアで全廃した原発再開の是非を問う国民投票が3.11以降世界で初めて行われ、投票率は54.79%で、脱原発賛成94.05% 反対5.95%という結果になりました。福島原発事故を受け、日本でも「原発国民投票」に対する関心が高まっています。日本で「原発国民投票」を行うことは可能なのか? その場合どのような手続きが必要なのか? など「国民投票」に詳しいジャーナリストの今井一さんにお話を聞きました。
今井一(いまい・はじめ) ジャーナリスト。ソ連、東欧の民主化に伴い実施された「国家独立」や「新憲法制定」に関する国民投票を現場で見届ける。その後も、日本各地の住民投票や、スイス、フランスなどで実施された国民投票の現地取材を重ねる。著書に『住民投票』(岩波新書)、『「憲法九条」国民投票』(集英社新書)、『「原発」国民投票』(集英社新書/8月刊行)、「9条」変えるか変えないか──憲法改正・国民投票のルールブック』(現代人文社/編著)など多数。「みんなで決めよう『原発』国民投票」 呼びかけ人の一人。
●国民投票法の「市民案」を
───前回は、日本でもスウェーデンのように投票結果に法的拘束力を持たせない「諮問型」の国民投票であれば行うことは可能だというお話をお聞きしました。では、実際に原発国民投票を、ということになったとして、具体的にはどのような仕組みが必要なんでしょうか?
先ほども触れたように、諮問型の国民投票であれば憲法改正は不要ですから、国民投票のためのルール——「原発」国民投票法の制定が必要になります。
───法律の制定ですから、法案をつくって、衆参両院を通過すればいいということですよね?
そうです。そして、そのときに大事なのは、国会議員に「作ってください」とお願いするのではなく、市民が自分たちの手で草案を作るということ。主権行使のためのルールですから、主権者である我々の手で作って、国会に「このとおりにやりなさい」と持ち込むべきだということです。
そのために今、<みんなで決めよう「原発」国民投票>という市民グループを立ち上げて、市民案の作成など、国民投票の実現に向けた活動を進めています。
───しかし今の国会が、法的拘束力のない諮問型とはいえ「原発国民投票」実施のための投票法を制定するでしょうか?
一番困難なのはこの法律を作らせることです。しかし実は、2007年の憲法改正国民投票法制定に至る議論の中で、現与党である民主党は、自民党・公明党が出した併合修正案に反対する最大の理由として、「対象が憲法改正に限定されていること」を挙げていたんです。
そして最終的には、次の四つについて国民投票の対象を拡大すべきだ、という案を提示しました。(1)憲法改正の対象となりうる問題 (2)統治機構に関する問題 (3)生命倫理に関する問題 (4)その他国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に法律で定める問題 の4点です。(2)は例えば日米安保、(3)は脳死や臓器移植や死刑について、そして(4)は簡単に言えばそれ以外で重要な問題、ということですよね。
この(4)にかけるテーマとして、原発以上にふさわしい問題はないですよ。しかも今、民主党は与党で国会でも多数派を占めている。それなのに、これだけ主張していたことにぴったりのテーマについて、行政府として、あるいは立法府で多数を占める勢力として国民に提案しないのはおかしい。
●大事なことは国会ではなく
主権者である「私たち」が決める
私は、原発を今後どうするかというのは、この国をどうするかそのものと言っていいほど大事な問題だと考えています。広瀬隆さんが1986年に出した『東京に原発を!』という本の解説で、野坂昭如さんが「原子力発電を論じることは国家そのものを論じると言ってよく、しかもこれほど国家の体質をあからさまに浮き彫りにする存在はほかにない」と言っていますが、そのとおりだと思います。原発を残すのか、なくしていくのかということは、間違いなく憲法改正にも匹敵する問題です。
その憲法改正については、憲法96条で「国民投票で決める」と定められています。であれば、原発についてもそうあるべきだと思う。国会だけで決めることではなく、国民に「どうしたらいいのか」を問う、そうしないと、今後また何か問題が起きたときにも「私が決めたんじゃないのに、なぜ責任を負わなくてはならないのか」ということになってしまう。
例えば、今後も原発を維持するのだとしたら、また原発事故が起きたときに、住んでいる土地が汚染されてしまった人たちはそこを出て行かなくてはならないし、それ以外の人たちも被害者への補償は税金で負担しなくてはならない。逆に、原発をなくすとしたら、さまざまな部分で節電への努力などが必要。そのどちらになっても、自分たちで決めたんだから責任を持って自分たちでやっていくんだ、ということにしないとダメだと思うんです。政府や議会が勝手に決めて国民に協力を求めるんじゃなくて、主権者が自分たちで決めて、自分たちが責任を取るということです。
───主権者が選択するという意味では、通常の選挙でもいいんじゃないの? という意見もあると思いますが、それについてはいかがですか。
先ほども申しましたが、原発のことを争点にして賛否を決める国政選挙なんか現状ではあり得ません。共産・社民を除いて現職議員のほとんどは、原発推進か容認だろうし、自民党と民主党が小選挙区で争うのに、「脱原発」、「原発推進」を公約として明示するとは思えない。両方とも「原発容認」ですよ。きっと「危険な原発は認めませんが、世界一安全な原発を推進します」なんて、インチキ公約を出すにきまってます。そんな選挙でどうやって原発の問題に決着をつけるのか。つけられるわけがありません。だから選挙は選挙でやって、原発は原発で国民投票にかけるべきです。それは例えば日米安保の問題も同じ。自民党も民主党も日米安保に賛成で、辺野古への普天間基地移転に賛成。そんな状況で、どうやって選挙で国民が現行安保の是非を「選べる」のかということです。
───では、原発に限らず、そうした大事な問題は基本的に一般の選挙ではなく、国民投票で決めるべきだというのが今井さんの意見ですか?
そうです。そして、日米安保や死刑制度など、さまざまな「大事な問題」の中で、とにかく今、優先順位が高いのが原発だということ。神戸大学の石橋克彦名誉教授なども「近いうちにまた大きな震災が起こる可能性が非常に高い」と言っています。だからまずは原発の問題について決着をつけて、それから次の問題を考えようということです。
一度国民投票をやって、主権者が「自分たちで選択できる」実感を得たら、そこが突破口になって「だったらほかの問題も自分たちで決めよう」となるんじゃないかと私は思っています。大事なことは自分たちで決める」ことの意味を見出し、主権者としての自覚を強めることです。
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