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2013-01-30up

(新企画)「つながって考えよう」第1回「障害者差別禁止法から考える」(後編)おしどりさん&今村登さん

東京・江戸川区で、障害者の自立生活をサポートする「NPO法人自立生活センターSTEPえどがわ」の事務局長を務める今村登さんは、「おしどり」のお2人とは「マガ9」を通じて知り合った友人同士。先日は、今村さんが現在取り組んでいる、「障害者差別禁止法(詳しくはコチラ)」の制定に向けたフォーラムに、おしどりさんがパネリストとして出席、「差別」をテーマとしたディスカッションに参加しました。
初めて会ったときからすぐに意気投合して話が盛り上がったという3人。「原発の問題も障害者の問題も、実は全部つながってるんだよね、というところで意見が一致したんです」とおしどりマコさんは言います。さまざまな問題が、きっと根っこのところではつながっている。だったら、いろんな問題の当事者とつながり、話すことで、見えてくるものがあるのでは? ということで新企画がスタート。まずはおしどりのお2人と今村さん、それぞれの経験を振り返りつつ、たっぷり語り合っていただきました。

おしどり●  マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブ ラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。 ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人 に。マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。 2011年の福島第一原発事故以降、東電や政府の記者会見に通いつめ、福島などでの取材活動も続けている。「マガジン9」でコラム「脱ってみる?」連載中。

今村登●いまむら・のぼる  1964年長野県飯田市生まれ。1993年に不慮の事故にて頸髄を損傷し、以来電動車いすユーザーとなる。2002年に仲間と「どのような障害があっても自分の住みたい地域で自立生活を送れるようにする事」を目指し、NPO法人自立生活センターSTEPえどがわを設立、事務局長に就任。現在、東京都及び江戸川区自立支援協議会委員、JIL常任委員、DPI日本会議事務局員、東北関東大震災障害者救援本部広報担当等を兼任。障害者の自立生活運動を通じて見えてきた問題を切り口に、他の分野の問題点との共通点を見出し、他(多)分野の人々とのつながりを作っていく活動も手掛け始めている。

●きっかけは「人質バッシング」への違和感だった

マコ 前回、今村さんが現在事務局長をされているSTEPえどがわの立ち上げまでをお聞きしたんですけど、そのころからいわゆる障害者運動などにも、積極的にかかわられていたんですか?

今村 STEPえどがわを立ち上げた翌年、2003年に国の支援費制度(注)がスタートしたんですけど、当初は「施設から地域へ」をキャッチフレーズに、必要な人には24時間でも介助派遣をできるようにする、と言っていたはずの厚労省が、直前になって「1日4時間までという制限をつける」と言い出したんですね。それで、全国の自立生活センターをはじめ、多くの障害者団体に「厚労省前に集まろう」という呼びかけが回って、1週間、毎日厚労省前に抗議に行くことになったんです。それが僕の障害者運動の「デビュー戦」ですね。

(注)支援費制度…障害のある人が、事業者が提供するデイサービスなどの在宅サービス、施設サービスを自分で選択して利用し、市町村から支援費の支給を受けるという制度。2003年4月に施行され、2006年4月に障害者自立支援法へと移行された。

マコ デビュー戦(笑)。

今村 今思えば、あれはすごく意味があったんですよ。そうして抗議の意思を示したことで、「1日4時間」の制限はなくなったけど、何もしなかったらそのまま押し切られていたかもしれない。そうなったら重度障害の人が地域で暮らすなんて絶対無理な話になってたでしょうから。
 でもそのときは正直なところ、「障害者運動」にはあまりいいイメージを持っていなかった…というか、ちょっと「怖い」と思っていたんです(笑)。「○○はんたーい!」とかのシュプレヒコールにも違和感があったし…。仲間の1人にかわいい女の子がいたんで、それをモチベーションに通っていたようなものですね(笑)。

マコ それがどうして変わったんですか?

今村 ターニングポイントは、その翌年に起こったイラクの人質事件(注)なんですよ。あのときに、自分たちが勝手にイラクに行ったんだから国にサポートを求めるのはおかしいという「自己責任論」が言われて、すごいバッシングが起こりましたよね。

(注)イラクの人質事件…2004年4月、フセイン政権崩壊後も激しい戦闘が続いていたイラクで、日本人のボランティアら3人が現地武装勢力に誘拐・拘束された事件のこと。武装勢力は日本政府に対し「(人道支援の名目で現地派遣されていた)自衛隊の即時撤退」を要求したが、当時の小泉純一郎首相はこれを拒否。最終的に3人は無事解放されたが、その家族らが政府に対し「自衛隊の引き上げ」を求める様子がテレビなどで報道されると、「自分が勝手に危険な場所に行ったのだから自業自得」「救出に要した費用を国に返還すべき」などのいわゆる「自己責任論」が巻き起こった。

マコ あれはひどかったですね。

今村 当時、僕は安いという理由だけで産経新聞を取っていたんだけど(笑)、その世論調査では過半数の人が「自己責任だ」と答えていた。それにすごく違和感があったんです。僕らが取り組んでいた自立生活運動って、自己選択、自己決定、自己責任――自分の意思で選択して決めて、その結果は自己責任だというのを謳い文句にしていたんですよ。障害があるからって「守って」くれなくていい、僕らは自分の責任でやりたいことをやるから、ということだったんだけど、人質事件のときに使われていた「自己責任」という言葉はそれとは全く意味が違って、政府への批判をかわすような形で使われていた。それは違うだろう、と思いました。

ケン あの言葉はほんと、違和感ありましたね。

マコ 人質になった人たちのご家族が「自衛隊を撤退させて」と政府に詰め寄ったりしてバッシングされたけど、北朝鮮の拉致被害者家族とどう違うんだろうと思いました。本当は、(拉致被害者家族の)横田夫妻だって政府に罵詈雑言を浴びせたいかもしれないし、当然そうしたっていいはずなのに、それを「させない」風潮がすごく嫌でしたね。

今村 ただ、そうした違和感とか怖さの一方で、すごく腑に落ちた部分もあったんです。人質になった人たちのことを、多くの人が「人様に迷惑をかけた」という言い方をしている。要は「人の手を借りる=人に迷惑をかける」のは悪いことだという前提があるわけで…障害のある人たちが介護を受けたり、人の手を借りたりということも、あまり良くは言われないのも無理ないな、と思って。
 あと、家族の人たちへの非難についても、自分の身内や大切な人がそういう状況になれば、とにかく何とかしてくれと訴えたくなる気持ちは誰にだってわかるはずでしょう。それをバッシングしちゃうというのは、多分「自分だったら」という発想にならないから。だったら障害者問題についても、やっぱりそういう、自分に置き換えてみるという発想はほとんどの人がないんだろうな、と。
 そういう社会なんだから、障害のある人たちの社会参加へのハードルが高いのも無理はない。そんなふうに考えるうちに、北朝鮮の拉致問題とか、他のいろいろな問題にも関心を持ちはじめて…改憲の動きが気になって、「マガジン9」を知ったのもそのころです。

●「社会のことを考える」のが当たり前の社会に

マコ 私自身も、以前はデモとか社会運動とかって「大切なのはわかるけど…」という感じだったし、なぜかそういうことを口にするのは「特殊な人」「かっこわるいこと」みたいな風潮がありますよね。そうじゃなくて「社会のことを考える」のが誰にとっても、「ごはんを食べる」のと同じように当たり前、というふうになるといいな、と思うんです。

ケン 今はなかなか気軽に話せないというか、自分がそういうことにかかわってると思われたくない、みたいな空気がありますよね。

マコ 合コンの自己紹介で「好きな食べ物は○○です、興味のある社会問題は障害者問題です」とかみんなが言うようになるといいかもしれない(笑)。星占いで「今月のあなたのラッキー社会問題は原発です」とか(笑)。
 そういえば、原発事故後にいろいろ取材したり記事を書いたりしはじめたときに、「私もいろいろ考えたい、でもとても余裕がなくて無理だ」というようなメールをたくさんもらったんですよ。仕事が大変だったり、家族の介護に追われていたりするから、と。
 そういう「とても考える時間がない」という人たちも、ある意味では何かに「虐げられてる」んだと思うんですね。最初に「何が差別かやってる側もわかっていない」という話があったけど、それと同じで、しんどいけどそれが何のせいなのか、自分が何に虐げられているのか、気づいていない人も多いんじゃないかな。一人ひとりがそこを突き詰めていったら、いろんな問題に対して無関心でなんていられないんじゃないかと思うんですよ。

今村 今は、無関心に「させられている」という部分があるから。そこに気づくかどうか、ということなんだろうね。

ケン ちょっとしたきっかけがあれば変わるのかもしれないですね。僕らだって以前からいろんなことに接してきたのに、自分が地震に遭って原発事故が起こって、それで初めて「あれ?」って気づいた部分はあるわけだし。

今村 僕のきっかけはそういう意味では「障害」。僕は、障害者になってすごくラッキーだったという話をよくするんですけど…もし、怪我をせずにそのまま今の年齢になったとして、いまみたいに社会に対して意見を言ったりするような人間になってただろうかと考えると、そうは思えないんですね。3・11があってさえ、ただ流されていたと思う。もちろん、手足が不自由だとかいうことだけ見れば前の身体のほうがラクなんだけど、人生全体で見れば絶対今のほうが面白いと思うから、ラッキーだったな、と。
 でも、3・11の後、別にみんなが障害者にならなくても、「気づく」きっかけはすごく多くなっていると思うんですよ。首相官邸前の抗議行動がずっと続いてるのも、「気づいちゃった」人が増えたからじゃないのかな。

マコ そうですよね。私自身のルーツの一つは、おしどりをかわいがってくれてた夢路いとし・喜味こいし先生が、湾岸戦争のときにつくられた「我が家の湾岸戦争」っていうネタなんですけど…いとこい先生はイラク戦争のときにもあちこちでそのネタをかけてましたね。先生たちくらいのベテランになると、テレビ局とかも「やめてください」って言えないから、それを利用して(笑)。「こうでなくちゃなあ」と思いました。
 それで、おしどりを結成して間もないころ、いとこい先生に「戦時中の漫才」について聞いたことがあって。そのときに、こんなことを言われたんですよ。「第二次世界大戦のときには漫才師の多くも『お国万歳』をやった。そのときは間違ってるとも思わなかったし、自分たちに何ができたとも思わないけど、そうやってうっかり間違ってた、目の前のお客さんのためじゃなく国のためにしゃべってたという事実がある。そこはもう二度と間違わないようにしたいし、おまえらも間違わないようにしろよ」と。
 それもあって、社会問題をテーマにした硬派なネタも作ってきたけど、表舞台では出せなかったものもたくさんあります(笑)。ただ、そういうネタだけに特化するのも私たちは違うかな、と思う。「色がついてる」感じになりたくないというか…今でもすでに「ついてる」って言われてるかもしれないけど(笑)。

ケン 色は色でも、カラフルになったらいいんちゃう? もともと僕ら芸風的に「色モノ」って言われてたし(笑)。

マコ そうそう。だから、楽しいこともやりながら、社会のことも考えるっていうふうにしていきたい。音楽も聴く、ゲームもやる、それと同時にいろんな社会の問題も考える。それがスタンダードになっていけばいいな、と。

●どんな問題も、根っこのところではつながっている

マコ よく私たちは、例えば原発のことだけを特化して考えるんじゃなくて、自分の得意分野はこれだけど、一応どれもある程度はおさえてますよ、何かあれば駆けつけますよ、というスタンスでいたいという話をするんですけど、今村さんとは初めて会ったときから、そういういろいろな問題の当事者――原発による汚染地域に住んでる人とか、障害者も水俣病患者もアスベストの健康被害者も、いろんな形で虐げられてる人たちがみんな集まって協力して動けばいいんだよね、みたいな話をしましたよね。

今村 人質事件のときに感じたように、実はいろんな社会問題が根っこのところでつながっていると思うんですよ。キーワードは人権だったり差別だったり、つまりは全部「人権無視」ということなんですよね。戦争がその最たるものだけれど…。
 だったら、障害者運動を障害当事者やその関係者だけでやっていてもどうしても弱いし、影響力も持てないし、他の問題とつながって、連携してやっていけばいいんじゃないかと思うようになったんですね。

マコ 私たちも同じようなことを考えてました。
 以前、福島の飯舘村の人たちのところに、水俣病の問題に取り組んでいる人たちが闘いの「ノウハウ」を教えに来てくれたことがあるんです。水俣病は、今も続いている被害ではあるけれど、発生からもう数十年経っていて、国や企業を相手取って勝った裁判もいくつかある。「裁判に勝つにはこういうところが大事だよ」とか、そういうことを伝えにきてくれたんですね。
 原発も水俣病も、違う問題のように見えるけど、「虐げられている」構造は同じ。だから、ちょっと「ノウハウ」を教えてもらうだけですごく闘いやすかったりするんです。そんなふうに、いろんな問題の当事者がもっと知り合って、つながっていったほうが国や権力側は困るんだろうなと思って。

ケン ジャンルごとで固まってても広がりがないもんね。

今村 先日お2人にも、僕らが制定への働きかけを続けている「障害者差別禁止法」に関するシンポジウムに出てもらいましたけど、これも決して「障害者のためだけの法律」「障害者を特別扱いしろという法律」ではないんです。「法律で差別を禁止する」というと一般的にはとてもきついもののようにとらえられがちだけど、本来的には「社会参加の機会を均等にする」ためのもの。法案やその前提にある国連の障害者権利条約が目指しているのは、障害者といわれる人たちだけではなく、誰も排除しない、排除されない「インクルーシブ(包括的)」な社会を構築することなんですよね。
 「差別はダメだ」って、多くの人は言いますが、「んじゃ、どんなことが差別になるの?」っていうと、実はよく分かっていないでしょう。だから、差別をした人を「お前サベツしただろう!」って糾弾し制裁を加えるんじゃなく、差別を予防するために、何が「差別」なのか共通の物差しを示さなくてはならない。差別を罰則で抑制するんじゃなく、双方が話し合いのテーブルに着き、調停で解決していく、その積み重ねの中で、相互理解が進んでインクルーシブ社会が実現していくと思うんです。ま、「急がば回れ」ということですが、今はその話し合いのテーブルに着く前に、問題が起きるのは障害のせいだと、原因が本人に押し付けられて門前払いされちゃっているんですよね。
 その意味で、僕はこの法律がちゃんと制定されるかどうかが、3・11を経験した日本が変革の方向に行くのかどうかの試金石になると思っています。立法府の国会議員が、差別とか人権という観点をちゃんと持って動いていれば、当然制定されてしかるべきものだから。もちろんそこには、一般の人たちの意識もある程度は反映されてくるはずですよね。

マコ よくわかります。原発事故後の福島に暮らす人たちのことに、例えば東京にいる人たちがどれくらい思いを馳せられるか、ということとすごく似ていますよね。原発の問題も障害者差別の問題も、一見自分に関係がないように見えること、遠くの誰かが虐げられているということに対してアンテナを張れる人がどれだけいるかが試金石になるんだと思います。

今村 そうですね。脱原発も、被ばく労働を作業員に押しつけていたり、そもそも立地地域が過疎地域だったり、マイノリティの権利を大事にしない、「差別の構造」があるという点ではまったく同じです。その意味で、障害者差別禁止法ができない国に、脱原発はできない。「差別の象徴」ともいえる原発をやめられない国に、差別禁止法はできない。僕はそう思っているんです。

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構成/仲藤里美 写真/マガジン9

障害者差別禁止法って?

・どんな法律なのですか?

 2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」の批准に向けた国内法整備の一環として制定が検討されている法律で、そもそもどんなことが「差別」にあたるのか? を明確に示すことを目的としています。昨年9月に内閣府の差別禁止部会がまとめた意見書では、障害者にだけ何らかのサービスや制度を利用させない(もしくは現実的に利用できない)などの「不均等待遇」、障害者に平等な権利の行使または機会や待遇が確保されるために必要な措置(例えばバリアフリー設備など)を講じない「合理的配慮の不提供」が差別である、と定義されました。

・どうして必要なのですか?

 憲法にも障害者基本法にも「差別をしてはならない」と謳われているけれど、そもそもどんなことが差別に当たるのかは示されていません。差別を本当に予防するためには、具体的にどんな行為や状況が差別にあたるのか、共通の物差しやガイドラインをつくる必要があります。
 これは、障害者を差別した人を糾弾し、制裁を加えるためのものではなく、障害がある人もない人もともに生きられる「インクルーシブ(包括的)な社会」「共生社会」を目指すための法律なのです。

・今後どうなっていく予定ですか?

 差別禁止部会の意見書などを受け、本来ならば今年度の通常国会で審議される見込みとなっていましたが、昨年末の政権交代などもあり、見通しは不透明です。参議院選挙の結果などによっては、このまま国会に提出されることなく流されてしまう可能性もあり、制定を求める声を高めることが急務になっています。
 もっと知りたい人はこちらを!

※こちらは今村さん作成の特別資料。障害者差別禁止法とは何なのか、それと「脱原発」がどう結びつくのか、とってもわかりやすくまとめられていますので、ぜひ!
障害者差別禁止法(仮称)とは[PDF/312KB]
僕が原発に反対する理由 [PDF/2.14MB]

今村さん、マコさんケンさん、ありがとうございました!
いろんな問題を考えれば考えるほど、
そこにある共通の構図が見えてくる。
それを横断して、つないでいく役割を、
「マガ9」でもほんの少しでも担えれば、と思います。
また、今村さんによると、障害者差別禁止法制定を求めての、
障害当事者を中心としたアクションも企画中とのこと。
詳細が決まり次第、お知らせいたします!

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