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2012-02-08up
2012年憲法どうなる?どうする?「第3回:半田滋(ジャーナリスト)その2
「『PKO武器使用基準の緩和』などの動きは、現場の自衛官の声を代弁するものとは言えません」
半田滋(はんだ・しげる) 1955年栃木県生まれ。東京新聞論説委員兼編集委員。1993年、防衛庁防衛研究所特別課程修了。1992年より防衛庁(省)取材を担当。米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど自衛隊の活動にまつわる海外取材の経験も豊富。07年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『自衛隊VS.北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊~肥大化する自衛隊の苦悶』(講談社+α新書)、『「戦地派遣」 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『ドキュメント防衛融解 指針なき日本の安全保障』(旬報社)などがある。
平和国家としての国是でもあった武器輸出三原則が、国民的議論どころか国会での議論もないまま、昨年末に緩和されました。憲法審査会も動き出していますが、どのような議論がされているのかあまり聞こえてきません。国民やメディアが震災や原発問題に関心が集中している間に、国のあり方そのものに関わる重要問題が、なし崩し的に変わろうとしているのではないか、という危機感があります。このコーナーは、憲法改正や安全保障に関する5つの質問について、様々な分野の専門家にお聞きしていきます。シリーズでお送りします。
東日本大震災の際の救助活動における自衛隊の働きは大きく、改めてその存在感と必要性を感じました。また南スーダンへのPKO派遣なども今年に入ってから行われています。憲法9条を改正しないまま、現在のように自衛隊の活動の広さや位置づけが変わってきていることについて、どのように考えますか?
Answer自衛隊の海外派遣は、今のままでも十分に国際社会から求められる役割を果たしている。「武器使用基準の緩和」などを言う政治家の声は、現場の自衛官たちの思いを代弁しているとは言えません。
◆変わる自衛隊の存在意義
冷戦終結以後、自衛隊の存在意義は大きく変わってきています。過去のような対外的な脅威はほとんどなくなっていて、去年の「防衛計画の大綱」でも、「我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低い」と述べられている。海空自衛隊はそれでも、「動的防衛力」という言葉に象徴されるように、軍事力を増強し続けている中国の監視という形でむしろ活動を拡大しようとしているけれど、陸上自衛隊は組織としてはほとんど存在意義をなくしていると言えると思います。予算もどんどん削られて、所有する戦車や大砲の数も、かつての3分の1にまで減っていますね。
一方で、昨年の東日本大震災では、陸空海あわせて10万人体制で被災地派遣が行われ、災害救助隊としての自衛隊が非常に役立つという認識が共有された。今、自衛隊への民生支援要請は年間600件以上あるんですが、中には自治体などが「業者に頼むお金がないから、自衛隊にただでやってもらおう」とする安易なものも少なくない。先日は北海道で、「エゾシカの駆除をやってほしい」なんてものまであり、実際に自衛隊が狩りの手伝いをしました(笑)。
そうしたものに比べれば、災害救助は直接的に人を救えるし、自衛隊員自身にとっても「自分たち以外にはやれない活動だ」ということで頑張れる、やりがいのある活動です。個人的には、だったらもう銃を置いて、災害救助隊になってもいいのでは? とも思いますね。ただ、「もともと国防のためにつくられた」ことが、やっぱり自衛隊員の原点、拠り所になっているのも事実。「1000年に一度の災害が起こったんだから、次は1000年に一度の大侵略がないとは限らない」なんてことを口にする自衛官もいますし、「国防」というレゾンデートル(存在価値)は、彼らにとってどうしても離せないものなんだと思います。
◆「武器使用基準の緩和」は、現場の声ではない
PKOについては昨年、武器使用基準の緩和をめぐる論議も起こりました。でも、実はこういうことを言うのは現場の自衛官ではなく政治家。彼らのほうがむしろ、自衛隊の活動を危ない水域へ導いていると言えると思います。
例えば、1992年にできたPKO協力法では、自衛隊はPKOには参加するけれど、兵力の引き離しなどを行うPKF(平和維持軍)の本隊業務には参加できないという「凍結」がされていた。それが2001年に米同時多発テロ事件があって、テロ特措法ができて自衛隊がインド洋での給油活動に派遣された、それと前後してPKO協力法の改正が行われ、この「凍結」が解除されたんです。
だから今、自衛隊は法的にはPKFの本隊業務にも参加できる。その場合に今の武器使用基準ではまずいだろうというのが緩和を求める政治家の主張ですが、実際にはこれまで、一度もPKF本隊業務への参加は行われていない。それは使用基準の問題ではなくて、そんなことはどこからも望まれていないからです。昨年、パン・ギムン国連事務総長が日本に来て、南スーダンPKOへの自衛隊派遣を要請したけれど、それもPKF本隊業務ではなくて「施設部隊を出してくれ」ということ。つまり、日本の高い技術力が活かせるようなところで頑張ってほしいということなんです。一部では本隊業務に参加すべきだという議論もあったけれど、まさに求められた部隊が、求められた役割を果たしに行こうとしているのに、わざわざそうじゃないことをやろうという政治家は何を考えているのか。まったくものが見えていないと思いますね。
そもそも、PKF本隊業務に参加しているのは、バングラデシュやスリランカ、アフリカの小さな国など、「国連から日当がもらえるから兵隊を出す」という途上国がほとんど。そんな中でもし、日本が本隊業務に参加するなんて言ったら、「何のために」「武器使用の演習場のつもりか」と、いろんな誤解を生むし、まったく不必要な摩擦を起こすでしょう。そんなことは、わざわざやるべきじゃないです。
また、イラクのサマワに自衛隊が派遣されていたときは、「自衛隊はオランダ軍に守ってもらっているのに、オランダ軍に何かあったときには自衛隊は駆けつけられない」という話が、もっともらしく真実味を持って流れました。しかし、そもそもあのときのオランダ軍の役割は、サマワを含むムサンナー県全体の治安維持だったんです。「自衛隊が攻撃を受けている」から駆けつけるのではなくて、そこでトラブルが起きているから駆けつけるというだけのこと。逆に、日本とイラクの暫定統治機構との取り決めによって、自衛隊の役割は医療指導など3項目の人道復興支援活動と定められていたんだから、それ以外のことをやるのはルール違反になる。各国の軍隊や自衛隊が、ちゃんと決められたルールの中で仕事をしてこそ、現場はうまく回るんですよ。
事実、現場で活動する自衛官たちの声は、一部の政治家の主張とは非常に温度差があります。彼らは、「駆けつけ警護ができなくて恥ずかしい」とか「自分たちの身が守れない」とか、そんなことはさらさら思っていません。憲法の規定やPKO五原則などについても本当によく勉強していて、「こんな事態が起こったらどうするか」というケーススタディを繰り返している。その上で、武器使用基準は今のままでも、求められる活動は十分できる、と言っているんです。もちろん、自衛隊という組織の維持拡大のために政治家の言うことに迎合する指揮官・将官クラスの自衛官もいるけれど、それはごく一部に過ぎません。
そんな状況で、あえて緩和やPKF本隊業務への参加を言いつのる政治家には、やはりどこか別の狙いがあるとしか思えません。例えば「俺が政治家をやってるこの国は、もっと強くなきゃいけないんだ」みたいなイメージがあるのか。あるいは、自衛隊に武器を持たせて前線でドンパチをやらせた上で、「この国の憲法では自衛隊が自分の身さえ守れないじゃないか」と言って、改憲に結びつけるのが狙いなんじゃないか。そう考えてしまいます。
◆世界に誇れる国際緊急援助活動
誤解を恐れずに言えば、僕は今回の南スーダンPKOへの参加などは、現地の国造りや人材育成に非常に役立っているし、もっと広げてやったほうがいいと思っています。施設整備や輸送といった、後方支援の活動ですね。特に、今回の南スーダンは、首都ジュバ周辺の道路整備を担当する自衛隊と、ナイル川の岸壁整備を担うJICAが、初めて連携して活動する。日本による、今までになく本格的な「国づくり」支援で、非常に意義があると思います。
それから、大規模な自然災害などの際に派遣される「国際緊急援助隊」にも、自衛隊部隊が丸腰で参加していますが、これも平和憲法に照らして積極的にやるべき活動だと思います。実は、こうした活動に参加する国というのは、世界的にもそれほど多くない。というのは、最近はどこの国も国防費の削減を進めていますが、海外に軍隊を出すとなると、莫大な予算とエネルギーが必要になる。それでもPKOはまだ国連から手当が出るので、むしろそれを目的に派遣する国がいくつもありますが、国際緊急援助隊に関しては1円の見返りもなく、しかも経費も自分たちで負担しなくてはならないんですね。
例えば一昨年、パキスタンで大きな水害があって、日本は国際緊急援助隊として陸上自衛隊のヘリコプター部隊を派遣し、物資や人の輸送作業を担いました。このとき、他に活動に参加していたのはアメリカ、アフガニスタン、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国。しかし、アフガニスタンはパキスタンの隣国だし、アメリカはそのアフガニスタンで戦争をしている以上、パキスタンとの関係構築は欠かせない。そうした関係性抜きに参加したのは、日本とUAEだけだったんです。
災害が起これば自腹で駆けつけ、何の見返りも求めないでまた帰っていく。そうした、まさに善意の活動を担っている国は世界でも非常に少数だし、日本はそれをもっと誇っていいと思う。実際、これまでの国際緊急援助隊での自衛隊の活動は、戦前戦中にアジア諸国に広まった日本軍の悪いイメージをどんどん払拭してきました。まさに憲法9条を持つ日本に、自衛隊にふさわしい活動だし、今後もより積極的に参加していくべきだと考えています。
◆ソマリア沖へは海上保安庁巡視船を
また、2009年には「海賊対処法」が成立し、海上自衛隊の護衛艦が海賊対策のためソマリア沖海賊へ派遣されました。
しかし、これについては、派遣の目的が海上の治安維持なのだから、本来は自衛隊ではなく海上保安庁が対応するべきケースです。「海保には海賊対策にあたるだけの能力や装備がないから」という理由で、「やむを得ず」海上自衛隊が派遣されたということになっているけど、実際には海保にそれくらいの能力は十分あります。海賊対策にあたれるレベルの巡視船が海保には「しきしま」一隻しかないから、というけれど、ヘリコプター搭載型の巡視船は、「みずほ」や「やしま」など全部で10隻以上あるんだから、それを交代で使えばいい。アメリカだって軍隊だけではなくて沿岸警備隊も出しているんですから、同じようにやればいいはずです。それなのに、どうしても自衛隊を海外に出したい人たちが、「海保ではできない」とウソをついてまで押し進めたのが、このソマリア派遣だったと思います。
そして、現在の与党である民主党は、そのとき海賊対処法の成立には反対していたはずなのですが、政権交代後も海上自衛隊のソマリア沖での活動は継続されている。同じように民主党が反対していたインド洋での多国籍軍への給油活動は、新テロ特措法の期限切れとともに終了ということになったのに、なぜかこちらは中止されなかったわけです。この論理矛盾を解消する意味でも、やはり自衛艦に替わって海上保安庁の巡視船を派遣するべきなのではないでしょうか。
ソマリア派遣問題を機に、「しきしま」と同クラスの巡視船を増やす必要性が指摘され、現在建造が進んでいます。少なくとも、それが完成してきたら「しきしま」と2隻ペアで派遣することができる。ほかのヘリコプター搭載型巡視船も使って、交代で任務にあたらせればいいでしょう。それでもどうしても足りない、海保だけでは無理だということになれば、そこで初めて海上自衛隊の派遣を検討すればいい。そうでなければ、現政権としても筋が通らないのでは? と思います。
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