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2011-08-24up
世界から見た今のニッポン
第56回
東日本大震災の教訓
—分野横断的な研究の必要性—
ドイツの週刊誌『シュピーゲル』(8月8日付)が「日本は大惨事からどのような教訓を得たのか」というタイトルの記事を自社HPに掲載した。同記事は、東日本大震災による被害の規模が「想定外」と言われるなか、今回の危機からどういう教訓を引き出せるかを考える日本の研究者への取材を基に書かれたものである。彼らのなかには、原子力発電の安全神話を信じていたことへの自己批判の姿勢もみられる。以下、記事の概要を紹介したい。(翻訳:芳地隆之)
「想定外」は学者の敗北
宮城県の港町、田老町では、高さ10メートル、全長2.4キロメートルに及ぶコンクリート製の新旧の防潮堤が人々を津波から守るはずであった。しかし、3月11日に襲ってきた津波の高さは15メートル。防潮堤を軽々と乗り越えた。現在、田老町の新旧の防潮堤の間には家々のがれきが残されている。144名の住民が亡くなるか行方不明の状態である。
「想定外」=あらゆるシナリオの向こう側。理解できないものに名前をつける際、しばしば使われる表現だ。しかし日本の研究者はこの概念を使うことにためらいがある。「想定外」は自らの研究が敗北したように響くからだ。
「もちろん3・11の映像はショックだった」と語るのは防災科学技術研究所(NIED)兵庫耐震工学研究センターの佐藤栄児氏である。「でも、私は神戸の大震災から15年以上を経て、多くの進歩もあったと思っている」
2005年に設立された同センターでは、橋脚から6階建ての建物まで、様々なモデルをつくり、最大で阪神淡路大震災の1.3倍の強度の揺れを人工的に生じさせることが可能な巻上げ用プラットフォームによる耐震テストを実施している。
今回の東日本大震災の中であえて成果を探すとすれば、地震による家屋の損壊数の少なさだろう。マグニチュード9の規模であったにもかかわらず、最も被害の大きかった岩手県の内陸部での倒壊家屋はわずかに全体の2.9%であった。
研究交流の欠如
ただし沿岸部では2軒に1軒が倒壊している。いうまでもなく津波による影響である。
東北大学の津波工学専門家である今村文彦氏は、これまでの災害予測シナリオは不十分だったと言う。「私たちは過去400年の津波に関するデータをもって、シナリオを描いてきた。しかし、残念ながら今回の津波はそれらを大きく上回る規模だった」。多くの専門家によると、ときに津波の高さは30メートルに及んだことが明らかになっている。
一方、人と防災未来センター(DRI)で地震防災・リスクマネジメントを研究する佐伯琢磨氏によれば、津波も地震で起こりうるシナリオとして予測可能であった。にもかかわらずそれができなかったのは、津波と地震という2つの研究によるシナリオを融合させなかったからだという。
「問題は各研究分野間の横のつながりがないことにある」と言うのは前述のNIEDの佐藤氏である。「日本では各々の専門分野が独立しており、研究横断的なプロジェクトはほんのわずか」と同氏は言う。また、DRIの佐伯氏は「われわれの知識が他の専門分野の人々に届いていないという思いがある」と語っている。
日本には、地震に反応し、津波到達の30分前に警報を発する世界で唯一の津波早期警報システムがある。東日本大震災の日、同システムは当初、さほど高い波と認知していなかったが、住民に避難を呼び掛けた。しかし目撃者によると、多くの人々が逃げ遅れて、犠牲になった。警告が深刻に受け取らなかった可能性もある。地震と津波の研究交流がもう少し活発に行われていたらという思いは断ち切れない。
原発の安全性というタブー
地震や津波の研究者たちのなかで原子力発電所の事故の可能性に対する意識は薄かった。東京大学の菅野太郎氏は「(原発事故と地震の)両方のシミュレーションを論理的にひとつにまとめることを私たちはしてこなかった。そこに関心が向かなかった」と語る。というのも「原子力発電の安全性はタブーのテーマのようになっていた」からだ。
DRIの佐伯氏も、地震と津波による被害は計算に入っていたが、それによって併発する可能性のある原子力発電所事故への視点は欠如していたと言う。「私たちは日頃より電力会社の言う安全性を信じていた」からだ。
地震と津波、そして原発事故は日本の研究者に自分たちの設定するシナリオの限界を示しただけでなく、(過去の研究とともに)未来を予測することの重要性を認識させた。菅野氏は「私たち学界の人間は、未来に対する言葉が少なすぎたと思う」と言う。そして「私たちは、限界が越えられてしまったとき、どのような対策を講じるかを常に考えるべきだ」とも語った。
*
歴史に「もし」はないとはいうけれど、
やはり考えずにはいられません。
せめて、この大災害の教訓を、未来にどう生かしていくのか。
学者だけではなく、私たちすべてが考えるべきことではないでしょうか。
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