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2010-07-14up
この人に聞きたい
森まゆみさんに聞いた(その1)
明るく楽しく「社会と闘う」!
「谷根千」の愛称で親しまれ、
「下町」ブームのきっかけともなった地域雑誌『谷中・根津・千駄木』。
昨年の最終号まで編集人を務めた作家・森まゆみさんに、
「町」について、そして広がる地元での活動について伺いました。
もり・まゆみ
作家・編集者。1954年生まれ。早稲田大学政経学部卒業、東大新聞研究所修了。出版社勤務の後の1984年、友人らと東京で地域雑誌『谷中・根津・千駄木』(谷根千工房)を創刊、2009年の最終号まで編集人を務める。主な著書に『円朝ざんまい』(平凡社)、『東京遺産』(岩波新書)、『起業は山間から』(バジリコ)、『女三人のシベリア鉄道』 (集英社)、『海に沿うて歩く』(朝日新聞出版)など。歴史的建造物の保存活動や戦争証言の映像化にも取り組む。
「みんなで町をつくる」意識が高まった
森さんは1984年に地域雑誌『谷中・根津・千駄木(谷根千)』を創刊されました。以来、昨年の最終号発行に至るまで四半世紀にわたって町をずっと見てこられたわけですが、最近特に感じられている変化のようなものはありますか?
『谷根千』を創刊してしばらく経ったバブルの時期に、たくさんの住民が地上げなどで町を追い出されるようにして出て行ったんですが、ここ数年は逆に「都心回帰」と言われるように、急速に人口が戻ってきていますね。
ただ、それとともに新しいマンションが次から次へと建てられていて。それを売るために「谷根千」の名前が商業利用されることがすごく多いのが気になっています。
商業利用ですか?
「憧れの谷根千に住もう」とか、「路地がある下町、人情の町谷根千」みたいなマンション広告のキャッチコピーをよく見かけるんです。最近「谷根千」の名前がついた歯科とか接骨院もできてきて、そういうものはしょうがないと思うんですけど、地域の生活を破壊する、もとからの住民の生活の質を下げるようなマンションに「谷根千」の名前が使われるのは嫌ですよね。
「路地の生活を楽しむ」とかいっても、それは後から建ったきれいな新しいマンションに住んで、その裏にある路地の雰囲気だけを楽しもう、というものでしょう。一方でそのマンションができることで、冬じゅう日が当たらなくなるとか、駐車場へ入れる車が路地を通るとか、いろんな問題が起きてくる。まあ、そこを買って住む人たちまで敵視する気はないけれど、お金儲けのために「建てる」側の企業に対してはいやだなあと思いますね。
「谷根千」がそれだけの人気エリアになったということの裏返しという面もあるのでしょうが…。
たしかに、地域によっては自治体などがものすごいお金を使って町おこしをして人を呼んでいるところもあるのに、この辺りは、行政は一銭も使わないで、『谷根千』やその周りの人たちが作ったムーブメントによって町が元気になった、たくさんの人たちが住みたいと思うような町になった。そのことはよかったなあ、とは思うんですけど・・・。
ただ、これだけ人が来るようになると、私は逆にちょっと飽きちゃったというか(笑)。もともと場末とかいわれ、知られざる街だったから「いいよ」という意味があったわけで。今は、私はもう別に言わなくてもいいかな、と。
それはでも、森さんが言わなくてもちゃんと「いいよ」と言う人が出てきているということでもあるのでは?
そうですね。次の世代というか若い人たちは、かなりちゃんと育ってきていますから。「育って」というと偉そうな言い方になりますけど、町全体を使ったアートイベントの秋の「芸工展」とか、不忍ブックストリートの「一箱古本市」とか、千駄木大観音のほおずき市とか、うちの子どもたちも含めた若い世代が、ずいぶんいろんなことをやってます。おしゃれな喫茶店や工房やお店を自分でやる人も増えたんだけど、一方でチェーン店は意外に増えていないんですよね。
町に対して、「みんなでつくっていこう」という意識が高まったという感じでしょうか。
そうした意識は、すごく強くなっているように思います。研究会というほど堅苦しくなく、いろんなことを話し合おう、飲み仲間も作ろうというネットワークが、私の知らないのも含めていっぱい地域にできていて。今日もこの後、その一つの会合に行くところなんですよ。
地域発の市民メディア「映像ドキュメント」
森さんがかかわられている映像配信サイト「映像ドキュメント」も、地元を中心とした活動の一つなんですよね。『谷根千』に関連するコンテンツのほか、憲法9条や日米安保などに関連する記者会見、市民によるさまざまなアクションなどを映像で記録して配信されています。
白山辺りにテレビのプロデューサーや環境問題にかかわってきた人たちなどがいて、最初は「9条の会」の講演会の記録をなさっていたんですが、それだけじゃなくて一般の人たちの戦争体験も記録したい、と私のところへ来られたんですね。
『谷根千』でも以前「学童疎開」や「わがまちの空襲」を特集していたし、町の人たちの戦争体験を映像で記録したいという思いもあって、かかわるようになりました。その後だんだん話が発展して、地域のマンション紛争、八ッ場ダム、普天間基地の問題なんかを追いかけるのに忙しくなってしまって、戦争証言の記録はあまり進んでいないんですけど。
森さんも撮影に行かれているんですか?
行きますよ。読谷村議の知花昌一さんが首相官邸前で座り込みをされていたときにもインタビューに行ったし、最初は「谷根千最後の日」なんていう映像も作ったし・・・。ハンディカムのビデオカメラなんですけど、おもちゃみたいで楽しいです。本当は編集も覚えなきゃいけないんだろうけど、目の病気をしたし、そこまで1人でやらなくても、と思って。
私は運がよくて、必要なときには必ず助けてくれる人が現れる(笑)。『谷根千』で27年間集めた資料のアーカイブを作ろう、というときも、たまたま映像関係のアーカイブの専門家集団とご縁がで きて。それはうちのヤマサキ(『谷根千』をともに創刊・発行した山崎範子さん)がずっと積み重ねてきたご縁なんですが。今、千駄木にある蔵を、その映画保存協会とシェアして使っているんですけど、その一階を映画館にしているんですね。こないだはそこも使って「ダムとわたし」映画祭という催しをやったんですよ。その関係で、毎晩飲み歩いたりして、楽しかったです(笑)。
「闘う」ことで明るくなれる
『谷根千』は昨年で最終号を迎えましたが、それ以外にもどんどん新しいつながりが生まれて、広がっていっている感じですね。
『谷根千』をやめてからのほうが、かえって忙しいですね。「いつまでに出さなきゃ」というプレッシャーはなくなったけど。まあ、健康と相談でボチボチです。生活のためには別のところに原稿を書かなくてはいけませんから。
地域雑誌としての『谷根千』についてはもう十分やったと思ってるし、そこから生まれてきたものもすごく大きい。それに、私たちもまだ50代だから、これからもうひと花ふた花、違うことをやりたいと思ってるんです。
それも、お話を伺っていると、どんな活動についても、まずとにかく「楽しそう」なのが印象的です。周りにそうしてたくさんの人が集まってくるのは、森さんのキャラクターもあるのでしょうが。
うーん。私、基本的に楽天的なんですよね。それに結局、何をするときにも一番大事なのは「暗くならないこと」だと思うんです。まず自分が暗かったら、周りにも誰も来ないし。いわゆる「運動」をやってる人の中にも、「最近の子たちは・・・」なんて悪口を言いながら、「若い子たちはこういう活動に参加しない」とか文句言う人がいるけど、そんなこと言われて来ないの当たり前じゃないですか。やっぱり楽しくて、この人と一緒にいたら未来が見えてくる、というような人としか一緒にやりたくないでしょう。
でも本当は、今のこんなひどい世の中で生きていたら、暗くなっちゃって当たり前だと思います。そこで唯一暗くならない方法は暗い社会と「闘う」こと。闘うことでエネルギーが出てくるし、仲間もできるし、自分を肯定できるんだと思うんですよ。
女三人のシベリア鉄道(森まゆみ/集英社)
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「必要なときには助けてくれる人が現れる」のは、
なんとも明るくて気さくな森さんの人柄ゆえ?
次回は、「ここ数年、畑仕事をしに通っている」という、
宮城県・丸森町でのお話を中心に伺います。
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