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2013-07-03up
2013参院選を前に~今、私が言いたいこと~
今、私が言いたいこと
佐藤有
参議院議員選挙が迫っている。だが、過去の参議院議員選挙に比べても、与党の失点も少なく、野党側が勝てる感じはしない。特に、政権交代前の参議院議員選挙と同じ人間が首相をしているにもかかわらず、である。明らかに、安全運転をしている。
そんな自民党政権・安倍内閣が、つい少し前まで熱くなっていたのが改憲である。正式には、壊憲というべきものである。内容については、詳細に論じている人がたくさんいるのでそちらに譲りたいが、「大きなお世話」、「あなたたちに言われる筋合いはない」、というのが率直な感想となる新憲法草案である。各条文を読んでみると、生き方を選べない、行動の自由がない、「必要あるの?」「ちょっと待って」「本当に?」「それって本当に正しいの?」「大丈夫なの?」「憲法が簡単に変わってしまわないの?」「自分たちのことは自分たちの好きにさせてよ」と言いたくなって仕方ない。はっきり言って、憲法という名にもふさわしくないものである。新聞社やシンクタンクが発表している憲法草案・私案のほうがマシである。
だが、残念なことに多くの国民が、憲法とは何かについて知らないのではないだろうか。
憲法とは、国家権力を制限し、国民の人権を保障する法である。つまり、国民が守るのではなく、守らせる法である。ここに、立憲主義がある。日本国憲法は、特に個人の尊重こそが究極の目的であり、そのための手段が法の支配である。私は、この理念に共感しているからこそ、護憲派・立憲派であると自認している。
だが、私が護憲派・立憲派であろうとも、あらゆる憲法改正に反対するわけではない。よく勘違いされるが、とにかく今の憲法であれば未来永劫までそれで良いというわけではない。今の憲法は、あくまで現時点で理想とする日本社会の設計図にすぎない。憲法が描く日本社会になった暁には、憲法を改正すべきである。つまり、現実を高い理想にもっと近づけるのである。逆を言えば、憲法に描いた理想の社会になってないのであれば、あるいは現実の必要性が国民にとって存在しないのであれば、憲法を変える必要は一切ないと考えている。
実際問題、護憲を是とする人達も、今の憲法のままで良いと思っている人はそんなにいないと考えられる。というのも、天皇制をなくすべきという意見、社会権を充実させるべきという意見、あるいは両院の関係を見直すという意見、国と地方の関係についてなど、様々な意見があるだろう。だが、それでも護憲派にも、改憲派と称する人たちにも注文をつけたい。まず、日本国憲法と言えば9条である、という発想自体からいいかげんに脱却すべきある。例えば、第9条3項として、「自衛隊を設置し、その任務は海外派遣のない専守防衛と、人命救助を伴う災害救助とする。」という条文を加えることも立派な改憲である。これも、立派な非軍事平和主義としての国際貢献であるが、それ以上に、解釈改憲だの、理想と現実の乖離だの言われるよりは良いと思われる。
まず、憲法とは何かが知られていない現状を変える必要がある。この前提のもとで、「護憲か改憲か」という疑問を投げかけるのは、意味があるとは思えない。そして、「護憲」「改憲」という言葉を使うのもやめる時が来ているように思う。極論を言えば、いい加減に、護憲・改憲という二分法から卒業すべきである。あくまで、立憲か、非立憲すなわち壊憲である。そのためには、まず憲法とは何かを全国民が理解しなければならない。法律とは違い、我々が守る(遵守する)ものではないということを、共通認識にしなければならない。しかし、護憲派に対しても良いイメージが持たれておらず、憲法を変えることを容認する世論、すなわちそのような日本人が多いのが現実である。その理由の1つに、憲法は社会的マイノリティのものであるという誤った印象があるように思えてならない。繰り返すが、憲法は特定の人々のものではない。
今、在特会の活動をはじめとする、誤った「愛国」が流行っている。だが、強く言うこと、相手を蔑視すること、自分を強く見せることが「愛国」だと思われている風潮がおかしい。不適切かもしれないが、あたかも吠えて威嚇する動物のようでもある。どう考えても、上には上がいる、でも下には下がいる、だから下にいる人を見下す、という思考回路があるように思えてならない。例えば、グローバリゼーションをアメリカナイゼーションという人もいる。だが私には、チャイナナイゼーションだろうが、ロシアナイゼーションだろうが、インディアナイゼーションだろうが(政治体制や経済体制の内容には違いはあるかもしれないが)、あまり結果に差がないように思える。要するに、強いものや多数派にヘコヘコして隷属し、卑屈になること、これが日本人のDNAなのではないかと思えてならない。つまり、個人の尊重や立憲主義には程遠いのが日本人なのではないかという疑問を拭いきれないのである。
そして、若者や現役世代が将来に対しても希望がないからこそ、理想に燃えると物凄く冷めた目で見られる。「どうせ無理」「好きにすれば」というのが、若者の本音かもしれない。そして、これが、他者や社会に対する無関心を生んでいるのかもしれない。それでも、私は彼ら彼女らに耳を傾けたい。おそらく、そのような若者にじっくり考え、議論するだけのスタミナがあるとすらも私は思えない。嫌な顔をされるだけだろう。要するに、今の若者や現役世代は、じっくり考えることすらも慣れていないだろう。
今の日本社会は強いリーダー、あるいは強さを求める社会になっている。アベノミクスも、経済をマインド・すなわち心の問題、気持ちの問題にすり替えられているようにも思える。家族の絆、地域の絆に続いて、夫婦の絆、友達の絆、恋人の絆というものが強調される時、今の世論は疑問なく容認してしまうだろう。大切なものだからこそ、国家や社会という大きな力で支える必要があるにもかかわらず、実質的な自己責任が押し付けられ、心の問題とされてしまうのではないだろうか。
はっきり言って、今の若者は優しい・大人しいと評されるが、他方で不公平や差別に鈍感なのではないか。ひいては想像力が及ばない若者が増えているのではないだろうか。特に、ITやネットの普及も関係しているのかもしれないが、デジタル(=二分法)的な思考のもとで、ロジカル(変に理屈)っぽい思考回路、そしてとにかくネガティブな若者が多いようにも思える。なおかつ、決して少なくない話題であるが、結婚観や雇用観が保守化していると言っていいだろう。若者が憲法について関心を持つためにどうすべきかを、本気で考えるべき時に来ている。「権力を縛る」という意味や、政治と生活の関係などについて、言葉を紡いでわかりやすく説明し、若者の想像力を育まなければいけない。この点は、例えば、法律家の人たちにも頑張ってもらいたいし、応援したい。何より、家族、友人といった身近な人と憲法のことを普通に語れるかどうか、この壁を越えなければいけない。
幸い、希望はある。今年25歳になった私と、同世代の人たちとの飲みの席で、自民党新憲法草案について、「自分の生き方を自分で決められなくなるもの」であることを話し、どう思うかを聞いてみた。すると、「そんなの大きなお世話だ」という答えが返ってきた。特に、女性のほうが反応は非常に鋭かった。自民党新憲法草案が女性に厳しいものであるし、女性のほうが囚われずに物事を考えているからなのかもしれない。どんなに厳しくても、自分の意志で自分の人生を過ごすこと、やれるだけやってみようと行動すること、そしてこれらが脅かされることに対して拒否感を持つこと、これが若者ではないのか。過度な悲観はむしろ、状況を悪化させるだけである。
繰り返そう、日本国憲法において本当に問われるべきは、9条でも14条でも25条でも36条でも68条でも92条でも96条でもない(もちろん、これらは日本が歴史に学んで記述した条文であるから重要なことには変わりはない)。決定的に重要なのは99条と13条である。99条と13条なくして憲法たりえないのである。
好きではない表現だが、今の「右の人々」が保守(主義)の再生などと称して「国民の手に憲法を取り戻したい」のであれば、明治時代の「そもそも憲法創設するの精神は、第一、君権を制限し、第二、臣民の権利を保護するにあり」という伊藤博文のアイデアに立ち返るべきである。たとえ、「昔はよかった、だけど今はダメだ」という発想に立とうとも、明治の日本に憲法ができた時、立憲主義の精神はすでにあったのである。つまり、この事実認識がない時点で、「右の人々」は、「右っぽい人々」であって、右でも何でもない。
権力者だろうが経営者だろうが資本家だろうが多数派だろうが、とにかく力を持つ者に対して、歯止めをかけるのが日本国憲法の精神である。
1人ひとりが主体的に、自らの幸福を追求し続けることができること、これこそが日本国憲法における最重要の価値である。これが脅かされるような壊憲には、断固して反対する。これこそ、私が立憲派として言いたいことである。
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