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2011-11-23up
〈マガジン9×グリーンピース〉コラボ企画:シリーズ「3.11以降を生きる vol.4」
おしどり×グリーンピース(その1)「魚も野菜も、一体どのぐらいの汚染度なのか? 情報が隠されていると、消費者は選べません」
3・11以降、「原発事故の本当のことを知りたい」という思いで、さまざまな記者会見に参加してきたおしどりのお二人。グリーンピースの記者会見にもしばしば参加し、質問を投げかけているマコさんとケンさんですが、今回は直接グリーンピースのスタッフとテーブルを囲み、気になっていることをおおいに語り合いました。さて、どんな話が飛び出しますか?
おしどり●アコーディオンでのシャンソン演奏&針金アートで人気を集める、マコとケンの夫婦コンビ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。芸人としての活動のかたわら、3・11の原発事故後は政府・東電の合同会見などに通い詰め、鋭い質問で地元住民や原発作業員の内部被曝の問題などを厳しく追及。マガジン9での連載コラム「脱ってみる?」が話題に。
佐藤 潤一(さとう じゅんいち)●グリーンピース・ジャパン事務局長 1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中よりNGO活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato
花岡 和佳男(はなおか わかお)●グリーンピース・ジャパン キャンペーン・マネージャー、海洋生態系問題担当。米国、フロリダ州フロリダ工科大学在学中に海洋環境学及び海洋生物学を専攻。卒業後、モルディブでの海底調査や、マレーシアでのマングローブ林を伐採しないエビの養殖施設の立ち上げメンバーを経て、2007年よりグリーンピース・ジャパン海洋生態系問題担当のスタッフとなる。
鈴木かずえ(すずき かずえ)●グリーンピース・ジャパンエネルギー・核問題担当。第一次湾岸戦争の際にグリーンピース・ジャパンでボランティアを始め、1992年より職員に。アクション・コーディネイターなどを経て1995年より核問題担当。ノンフロン冷蔵庫の日本での商品化を実現させる「グリーンフリーズ」プロジェクト、東京電力福島原発プルサーマル燃料装荷差し止め裁判、福井県の原発へのプルサーマル燃料装荷反対運動などにもかかわる。2004年末に退職後、2011年に復職。
■スーパーマーケットでの「お魚調査」
——3・11の福島第一原発事故から8ヵ月以上が経ちました。今日はそれ以来、それぞれ違う立場から原子力の問題にコミットされてきたおしどりのお2人とグリーンピースの皆さんに、今気になっていること、感じていることなどをお話しいただくことで、今後の課題や私たちが取り組むべきこと、やるべきことについて考えていければと思います。
まず、グリーンピースの皆さんが3・11以降に取り組んできた主な活動について教えていただけますか?
佐藤
大きく分けると、三つのキャンペーンに特に力を入れて取り組んできました。
一つはまず、原子力に替わる代替案を示すということ。原発をやめて自然エネルギーに切り替えても、日本のエネルギーは大丈夫ですよ、ということをデータで示していくということですね。
もう一つが、原発事故による福島県を中心とした汚染の現状についての問題点を示す、追及していくということ。主に鈴木が担当しているように、福島の子どもたちを助けるための活動を進めたいと考えています。
そしてもう一つが、原発事故による海洋汚染がいかにひどいかを明らかにしていくための取り組みで、これは主に花岡が担当しています。
——その海洋汚染についての取り組みの一つが、10月20日に第1回が発表されたこの「秋のお魚調査」ですね。大手のスーパーマーケット5社について、サンマやカツオ、ブリなど、旬の魚を中心に放射性物質の調査を行ったという…。結果、全60サンプル中34サンプルから放射性物質が検出されています。
おしどりケン どのスーパーで、どこ産のどの魚からどんな物質がどのくらい出たのかがよくわかりますね。
花岡 はい。スーパーマーケットの店名もきちんと出して…もちろん検査自体は抜き打ちですが、「やりますよ」ということは事前にスーパーに伝えて、結果も発表前に各スーパーには伝えています。
おしどりマコ こうして見ると、岩手産や宮城産の商品のベクレル数もかなり高い。ベラルーシの子ども向け食品基準はこの数値だとアウトですね。
花岡 魚はやっぱり「野生」なので、生体濃縮もあるし、コンスタントに検出されてますね。
鈴木 文科省がHP上でも発表している「宮城県・福島県・茨城県沖における海域モニタリング結果調査」でも広範囲で汚染されていることがわかります。
花岡 しかも難しいのは、魚は野菜などと違って厳密なトレーサビリティがない。西日本産のものを選ぼう、と思っても、「どこでいつ獲れたか」を追跡することがなかなかできないんですよね。例えば「青森産のスルメイカ」といっても、青森県の西側で獲れたものなのか、東側で獲れたものなのかはわからない。同じ海域で獲れたものでも、水揚げ港がどこかによって表示は変わってきてしまいますし。
——最近、デパ地下のお魚屋さんで秋刀魚の産地ラベルに「太平洋産」という表示がされていましたが、ずいぶんカバーされている海域が広いな、と悩んでしまいました。
花岡 逆にある程度細かく表記しているところもあるし、二極化している印象は受けますね。どちらにしても、法律には違反しないので。
おしどりマコ これは野菜の話ですけど、4月くらいに一時期「国産」という表示が増えましたよね。それで「なんで切り替わったんですか」と聞いてみたら、「国の指示です」と言われて。そんな指示してるの!? と思って調べてみたら、4月5日に農水省が全国の小売業者に対して出した文書のことで…「野菜等の販売時における産地名の掲示等について、御配慮をお願いいたします」とあるんですよね。で、「配慮」って何? と。
——後から「できるだけ市町村名単位で表記するように」という意図だった、とも言われましたけど、「配慮」では…。
おしどりケン まあ、受け取り方はいろいろですよね。
花岡 ただ、魚については10月の初めに水産庁が、産地表記を水揚げ港ではなく漁獲海域に徹底するように、と求める通知を出したんですよ。「○○県産」ではなくて「○○県沖」となっていれば、その県の沖の海域で獲れたんだなということがわかるので、一つの目安にはなる。
おしどりマコ それはありますね。
ただ正直なところ、少々汚染されている魚でももうしょうがない、自分は覚悟して食べよう、という選択肢も人によってはありだとは思うんですよ。
おしどりケン 年代とかによってね。
花岡 でも、そのためにはやはり「その魚がどのくらい汚染されているか」という情報が必要ですよね。
おしどりマコ そうなんです。今の状態では、情報が隠されているから選択肢がない。どの魚を食べるかも選びたいし、「これはこのくらい汚染されてるけど、自分はもう年だし気にせず食べよう」という選択もあると思うんですよ。
花岡 僕が海洋汚染調査などを通じてお会いした漁師の方たちも「子どもには食べさせたくないけど、自分たちはある程度は食べる」とおっしゃっていましたね。
おしどりマコ やっぱり各商品に、ベクレル数とか年齢制限を表記してほしいです。
花岡
消費者のほうも、そういう表示にしたら売れるよ、買うよ、というのを店側にもっと見せていくといいと思うんですよ。グリーンピースでも、調査と並行して「スーパーマーケットさん、売っているお魚、放射能検査して!」というオンライン署名を呼びかけています(11月28日正午まで)。どのスーパーに、というのではなく、自分がいつも行っているスーパーに対して、魚の放射能検査をやってくれとアピールしよう! というものです。
あと、インターネットをやらない人は、「お客様の声」という投書箱などがどのスーパーにもありますよね。それにどんどん書いて出していこう、それがスーパーを応援することにもなるんだ、と呼びかけています。
おしどりマコ 「お客様の声」いいなあ。私も書こう。
——この検査は定期的にやっていくんですか?
花岡 今回が第1回ですが、11月12月と、定期的にやっていこうと思っています(*)。季節によって食べる魚も替わっていきますし、調査するスーパーも替えていきたい。
——西日本のスーパーでの調査もやる予定なんですか?
花岡 今はすでに第2回の調査を始めていて、それは東日本が対象なんですが、第3回調査からは西日本での調査も考えています。
おしどりケン 西日本でも同じような数値が出る可能性はありますよね。
佐藤 ありますね。流通網に乗って、全国へ流れていってしまうわけですから。日本のどこにいても、同じように内部被ばくしてしまう可能性はある。
おしどりマコ 今回の調査結果はグリーンピースのHP上への掲載のみみたいですが、記者会見で発表されたりはしないんですか?
花岡 検討中ですが、多くの人に情報を広めるためにインターネットでの発表は続けていきます。
佐藤 きちんと企業名も出して発表するのがグリーンピースのスタイルなんですが、それだとメジャーなニュースにはほとんど取り上げてもらえないんですよ。記者会見をやるとたくさん記者さんは来てくれるんですが、それと「記事になるかどうか」とはまた別なんですよね。
おしどりマコ ああ、5月に私もグリーンピースの海洋汚染調査結果の発表記者会見に行きましたけど、あのときもすごい人が来てて、質問もいっぱい出てて。でも新聞やテレビでは全然報道されなかったんですよね。
佐藤 逆に、ネット上でそれが「なんで記事にならないの」といって話題になっていくほうが多いくらいなんです。それもあって、今回もまずはサイト上での発表という形にしています。
*この座談会は10月25日に実施。その後、第2回調査の結果が発表されました。
■市民の「知りたい」の声に応えたい
——この「お魚調査」は、グリーンピースが新しく立ち上げた「シルベク」という施設で実施されたんですね。これはどういう設備なんですか?
佐藤
福島での現地調査と、「お魚調査」のような食品調査、二つを主に実施していくグリーンピースの「放射線測定室」です。「知る」と「ベクレル」から取って「シルベク」と名付けました。
もちろん、これまでにも「放射線調査チーム」がさまざまな形で調査は行ってきたのですが、放射能汚染というのはこれから数か月で終わるものではない。魚のこともそうですが、長期的なモニタリングが絶対に必要になります。それに対応していくために、改めて名前をつけて位置づけを明確にしたということですね。
おしどりマコ それは絶対に必要ですね。チェルノブイリのときも、市民団体が食べ物の汚染状況をきちんと調査していて、みんな政府ではなくてそちらの情報をもとに買い物に行っていたそうです。まだインターネットはなかったから冊子が配布されて、住民はみんなそれを持ってスーパーマーケットに行ってたと聞きました。
佐藤 まさしく「消費者が知りたい」ことに応えることをNGOがやっていくことの意味は大きいと思うんです。きちんと企業の実名も出して、「ここで買ったものはこうなんですよ」という事実を伝えられる。それがNGOの強みかなと思うので、継続して取り組んでいきたいですね。
おしどりマコ 政府の定めた暫定基準値は超えていなくても、その基準値がそもそもどうなのか、どんな調査なのかという不安がありますしね。
鈴木 日本では、お米は主食なのに暫定基準値が他の食品と同じ500ベクレルでしょう? 例えばウクライナなら、野菜は40ベクレルだけど主食のパンは20ベクレルに設定しているのに。(*数字は1997年の基準)
おしどりマコ 主食は下げるべきですよね。
花岡 あと、私たちNGOが、本来はこうして調査するだけではなくて、漁業や農業を早く復興させて、というところにも協力できればいいんですが…。
鈴木 そのためにも、まずはこれ以上原発からの汚染水を海に流さないでほしいですね。
おしどりマコ 今後も汚染水の海洋投棄の可能性はある、と東京電力は言ってましたからね。
佐藤
以前、汚染物質の海洋投棄の問題を担当していたことがあるんですが、どんな物質でももちろん「排水何キロあたり何ミリグラム以下」といった基準値はあるんですけど、薄めてしまえば全部基準値以下になってしまうんですよね。つまり総量規制、全部で何キロまで排出していいのかという規制がまったくないので、薄めればいくらでも出していいことになってしまう。
瓦礫などもまったく同じです。瓦礫1キロあたり何ベクレル以下といった基準があっても、総量規制がなければ、添加剤などを増やしてそれでクリアできてしまう。
おしどりマコ おかしな話ですね。
佐藤 そうです。だから「総量でどれだけ出ているのか」を気にしないといけない。
おしどりケン 自然界に排出された後、何日か経てば分解されてもとの数値に戻るから、そこでまた少し排出していい、といった形だったらまだしも。
佐藤 よく「EUの基準と同じだから」といった言い方もされますけど、それも全体量が少ないという前提の上での基準なので。現在のように、排水や汚染瓦礫が大量にある状態で、同じ基準で出していいとなると、大変なことになってしまう。
鈴木 世界に申し訳ないですよね。
■「がん患者が増える」が前提なのに、
因果関係は認められない
——さて、おしどりのお2人はずっと政府や東電の記者会見に通い、福島の方からもいろいろお話を聞かれていますが、最近耳にされたことなどで、何か特に気になっていることはありますか?
おしどりマコ たくさんありますけど、例えば先日、福島県の川俣町で開かれた東京電力住民説明会で、ある住民の方がおっしゃっていたこと。その方は、3・11以前からがんを患って福島県立医科大の放射線科にかかっていたそうなんです。それで、3・11以後に目の周りがすごく腫れて、目も充血してなかなかひかないというので、先生に相談してみた。そうしたら「行動記録を出して」と言われたので出したら、その人は第一原発の1号機で爆発があった12日も次の日も、ずっと水をもらうために何時間も外で並んでいたんだけど、「その時間がやばい」と。「この腫れはおそらく被ばくの症状だから、この記録はきちんと残さないとダメだ」と言われたんだそうです。
ところが、7月に県立医科大の副学長に山下俊一教授が就任して。そのとたん、そのかかりつけの先生が、「これは被ばくじゃない」と言い出した。それで、その人は「もうこの病院は信用できない」ということで、セカンドオピニオンを取りに国立がんセンターへ行ったんですね。そうしたら、「県立医科大はがんの権威だから、そっちへ戻ってください」といって、診察もしてくれなかった、と。
おしどりケン 専門の方がいるんだから、そっちで診てもらいなさい、と言われたそうです。
おしどりマコ 福島の人たちが福島以外の検査機関で内部被ばくについての検査を受けることも制限されているのかな、そうだとしたらちょっとひどすぎる、と思って。
鈴木 私たちも政府交渉の中で、内部被ばくを計るのに「尿検査ならすぐにできるからやってください」とお願いしたら、「精度の高い機器が不足しているから無理だ」という返事が返ってきたんですね。でも、不足してるならそれを海外に向けて宣言すれば、フランスでもウクライナでも、各国が「やりますよ」と言ってくれている。尿さえ採取すれば、あとはそれを送るだけで検査してもらえるはずなんです。それを「機器が不足している」と言いながら、自分たちだけでちまちまと検査しているというのは、意図的にごまかそうとしているとしか思えません。
おしどりマコ 意図的ですよね。
鈴木 先ほど山下教授の名前も出ましたが、その山下教授が、子どもを含めた福島県の健康調査のまとめ役なわけで…。事故当初、山下教授が「ニコニコしてれば大丈夫、放射線の影響はない」ということを言って、それを信じて子どもを外に出してしまったお父さん、お母さんも多かったわけでしょう。その気持ちを思うとやりきれないですよね。
おしどりマコ 子どもを自分の手で被ばくさせてしまったというので、自分を責める人が本当に多いです。学校も休みだったから、その放射線量が上がっていた時間帯に、ずっと外にいた子が多かった。
おしどりケン 水やガソリンをもらうために列に並ぶのに、子どもを連れて行った人が多かったんですよね。
おしどりマコ 先日、県民健康管理調査検討委員会の傍聴にも行ってきたんですが、このメンバーの選定も、座長である山下教授に一任されているので、なんとか座長を別の人に替えてほしいと思っています。今の検討委員会は、「福島ではこれからがんが増えてくる」ことを前提に、その患者を受け入れる機関をどう増やすか、どう早期発見早期治療をするか、という話し合いばかり。「がんになる人を減らす」という概念はないんです。
おしどりケン じゃあ、その「がんが増える」という根拠はどこに、ということになるんですけど、一方ではでも「放射線による影響はない、安全です」と言っているわけで、おかしいんですよね。
佐藤 「安全です」と言っておきながら、一方でこちら側では「どうやって患者を収容しましょう、どうやって病院を大きくしましょう」という話をしている…。
おしどりケン 無茶苦茶な話です。
グリーンピースは多くの消費者の方々とともに、政府および大手スーパーと対話を続け、魚介類消費における放射能汚染への取り組み強化を要請してきました。
【成果の一部】
10月1日:小売業界最大手のイオンが魚4種の放射性物質自主検査開始を発表。
10月5日:水産庁が、東日本沖の太平洋側で獲られる魚介類の産地表示徹底を通知(水揚げ港ではなく漁獲海域を表示)。
11月8日:イオンが、魚介類を含む食品の放射性物質自主検査品目数拡大と分析結果の公開、流通基準の厳格化を発表。
→「グリーンピース放射能測定室 シルベク」の情報はこちら。
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