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2011-10-05up

〈マガジン9×グリーンピース〉コラボ企画:シリーズ「3.11以降を生きる vol.3」
河合弘之弁護士インタビュー(その1)「原発差止め訴訟で20連敗し続けた理由」

浜岡原発差止訴訟弁護団長をつとめ、さきごろ「脱原発弁護団全国連絡会」を設立し代表をつとめる河合弘之弁護士は、長年、ビジネス弁護士として活躍する一方で、巨大利権構造の中にある電力会社や、「原発政策」は国策であることから結果的に国に対して真っ向から挑む闘いをし、死力をつくし闘ってきました。しかし結果は敗訴に次ぐ敗訴。それはなぜだったのでしょうか? そして裁判と社会運動は、車の両輪であるという河合氏が、現在は監事もつとめている国際環境NGOグリーンピースへ期待することなどを伺いました。

河合弘之(かわいひろゆき)1944年、旧満州生まれ。東京大学法学部卒業後、1970年より弁護士開業。さくら共同法律事務所所長。ビジネス弁護士としてM&A訴訟の草分け的存在として活躍する一方、中国残留孤児の国籍取得を支援する活動や、浜岡原発差止訴訟弁護団団長、大間原発差止訴訟弁護団共同代表を務め、現在も訴訟は進行中である。2011年7月16日、全国各地で原発裁判に取り組んできた弁護団による「脱原発弁護団全国連絡会」を立ち上げ、その代表にもなっている。近著『脱原発』(青志社)。グリーンピース・ジャパン監事。

巨大な利権構造との闘い。
 徒労感と屈辱感で一杯の10年間だった

編集部  これまで日本で行われた原発に反対する裁判が20件あり、敗訴を続けてきたということですが、その理由は何だと考えますか?

河合  裁判件数については、数え方にもよりますけど、だいたい20件ぐらいでしょう。そのうち僕が関わったのは、浜岡原発と福島原発と大間原発。上関原発には、裁判というよりは運動面から少し関わりました。
 敗訴の理由はいくつかありますが、まずは裁判官にも原発の「安心・安全・必要キャンペーン」が、完全に刷り込まれているからです。それは何十年にもわたって行われてきました。だからそれに対して反対を言う人たちは、極端なことを言う変わった人たちであると、原告団の市民や弁護士を裁判官は「オオカミ少年」のごとく見ているのです。

 このように一方的に偏見をもたれている類型の裁判は、おそらく他にはありません。少なくとも民事事件ではないでしょう。裁判が0からのスタートじゃなくてマイナス100から始まる。バスケットボールの試合で言えば、100対0から始める試合のようなものですよ。それが敗因のひとつ。

 理由の二つ目は、裁判官に権力へのすり寄り志向がある、ということでしょう。原子力政策は権力政策ですから。裁判官のことなかれ主義や行政依存体質も指摘しておきたいと思います。
 また、いわゆるカギ括弧付きの「権威ある御用学者」が、全面的に電力会社や行政に協力しているため、被告となる電力会社は「権威ある御用学者」を、何人でも証言に立たせることができます。まるでそれは、「絨毯爆撃的立証」です。

編集部  河合さんの近著『脱原発』(青志社)には、福島原発の裁判訴訟において、東京電力に書類や図面を提出するように請求しても、ずっとのらりくらりと生データを隠し続けた上にようやく出てきたものは、95%が黒塗りだった、と書かれていて驚きました。

河合  東電はデータや資料は、徹底して出さないようにしていましたね。企業の経営的秘密であるということを理由にして。しかしそれは東電だけじゃなくて、国も経産省も他の電力会社も全部同じ体質でした。そしてそういう状況の中で、裁判をやってきたのです。

編集部  事故があった今でも、東電や国はいろんなことを隠し続けていますが、裁判でもそうだったのですね。想像以上にひどい…。

河合  「原子力ムラ」というのは・・・ムラなんて言うと何か牧歌的で素朴に聞こえるけど、もう巨大な利権構造です。それはね、日本経済の半分、もしかしたらそれ以上を占めるような利権構造ですよ。なぜかと言えば電力会社というのは、原発そのものにも、巨額なお金が動いていますが、それ以外のことでも莫大にお金を使っています。仕事もそこから発注されます。ゼネコン、原発を作るメーカー、広告会社、メディア、金融機関も金を貸し付けて利益を得る。そうやって見ていくと、本当に巨大な利権構造なんです。

 そういう巨大なものと対峙する、そこで働いている莫大な数の人たちや利益をもらっている人とも対峙することになる。だから「何で俺たちの邪魔をするんだ」という敵意と憎悪に囲まれながら、圧倒的に不利な条件の中、裁判をやることになるのです。正直、裁判をやってきたこの10年間、徒労感と屈辱感でいっぱいでした。それが普通の環境問題とまったく違うところですね。

人類にとって最大の敵は、何だろうかと考えた

編集部  先生は長年ビジネス弁護士としてこれまでやってこられたわけですから、そういう巨大な権力や憎悪に囲まれながら行う原発訴訟の世界に飛び込むことに躊躇はなかったんですか?

河合  まあ、損を覚悟じゃないとできませんよね。大事な大口顧客はいなくなる。もしくは来るべき大口顧客が来なくなるんだから。僕は、金銭的なことだけを考えたら、そうとうな損をしていると思います。

編集部  そういった裁判をやることになった、そもそものきっかけを教えてください。

河合  僕はビジネス弁護士としての仕事以外に、お金にはならないボランティア的な仕事もしていました。中国残留孤児の国籍取得を今まで1300件ほどやってきましたし、戦時中にフィリピンに移住した日本人の残留孤児の救済もやりました。やっていると凄く感謝されるんですよ。周りからも褒められる。これらは日本の戦前の戦争政策や戦後処理の責任の問題の追及ですね。それはやらなきゃいけないし、現にやっているんだけど、もっと本質的な問題、人類に普遍的な問題に取り組みたいとずっと思っていました。人類にとっての最大の敵とは? それを考えていたら、「原発事故というのは破滅的である」と思い至ったわけです。ならばそれにいつか取り組みたいと。それが抽象的で総論的な動機です。

編集部  原発が人類にとっての最大の敵だと考えたのは、なぜでしょうか? 

河合  やはり一番頭にあったのはチェルノブイリの事故ですね。あのような原発事故がもし日本に起こったら? と想像しました。

編集部  すると25年前ですね。

河合  しかしその当時は考えてはいましたが、すぐには行動に移さなかった。具体的になったのは15年くらい前ですね。というのは、そのころたまたま核科学者で反原子力運動のリーダー的存在だった高木仁三郎さんと巡り会ったからです。僕が顧問弁護士を務めていた方で、高木さんの活動を応援したいから匿名で寄付をしたいという人が現れて、僕はその橋渡しというか、寄付のお金を高木さんに手渡していたんです。何度かそういうことがあって、ある時高木さんが「このお金は本当は、あなたのじゃないの?」と言い出した。そう疑われてもしょうがないんだけど、実際僕のお金じゃなかった。でも、僕も高木さんと何回も会ってじっくりとお話を伺っているうちに、「すばらしい生き方をされている方だ。高木さんと組めば、以前から私がやりたいと思っていた原発の問題にも取り組める」。そう思って、へりくだった言い方をすれば「高木先生に弟子入りさせてください」と、もうちょっと格好つけた言い方をすれば、「高木さんの闘いの仲間に入れてくれませんか」と申し出たんですね。そしたら彼は、「まあ、どうぞ」と言いながら、「またひとり苦しい闘いに引っ張り込んじゃったなあ」と笑いながらおっしゃった。

 それから高木さんが設立し代表をつとめていたシンクタンク「原子力資料情報室」に出入りするようになって、海渡雄一弁護士とも知り合うわけです。海渡さんは、それまでにも多数、原発の危険性を主張する訴訟を起こしていました。
 その海渡さんから、福島第一原発3号機に関する裁判を手伝って欲しいと声がかかりました。2000年に「東京電力MOX燃料差止裁判の会」が結成されます。これは、福島の市民団体「ストップ! プルトニウム・キャンペーン」や海渡さんが理事を務めていた環境国際NGOの「グリーンピース・ジャパン」、そして「原子力資料情報室」が集まって結成したものです。一般に賛同を呼びかけたところ、862人が賛同し、申立人に名を連ねる事になりました。そこで、同年の8月9日、東京電力福島第一原発3号機で予定しているプルサーマル計画で使用されるMOX燃料の使用差止めを求める仮処分の申請を行いました。これが私が反原発裁判に取り組んだ最初です。

(その2につづきます)

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