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2011-08-10up
〈マガジン9×グリーンピース〉コラボ企画
2011年3月11日、未曾有の大地震と大津波が東日本東北地方をおそい、そして福島原子力発電所の爆発と崩壊。未だ収束の目処がたたないこれら自然災害と人災の中で、私たち日本人は、放射性物質と共に生きていくことを余儀なくされようとしています。
このような現実の前で、何を指針にすればいいのか? 市民の立場から何ができるのか? 未来をどう描けばいいのか? 信頼できる国際環境保護NGO「グリーンピース・ジャパン」と共に、様々な角度からシリーズで考えていきます。
vol.1
3.11の衝撃。その時、グリーンピースは?
震災直後、グリーンピース・ジャパンは、そしてオランダにあるグリーンピースの本部は、この未曾有の大災害をどのように判断し、動いたのでしょうか? 世界各地で活動するグリーンピースのスタッフが日本に集結し被災地に入り行った調査について、また永田町や外国人記者クラブで開いた記者会見が、どのようにメディアを動かし、日本政府に働きかけていったのか、についてのレポートをお送りします。
■「グリーンピース船舶の領海内での調査は不許可」——しかし海洋調査実施への世論の高まりを受け、政府が後追いで海洋調査計画を発表。
グリーンピースが実施した放射線量・放射性物質調査は、2回目以降、大気中の放射線量だけではなく、「食べ物」にもその対象を広げていった。4月の第2回調査では土壌とそこで育つ野菜のサンプリング調査を、そして5月初めに実施した第3回調査では、海洋汚染の実態調査を実施したのである。
特に海洋汚染の調査は、その時点ではまだほとんど行われていなかった。すでに4月から、福島第一原発の建屋内にたまった「低レベル汚染水」が大量に海へと排出されていたにもかかわらず、政府が実施する調査は海水それ自体のみ、しかも測定地点は近辺のわずか10カ所程度、という状況だったのである。
しかも、グリーンピースが調査の計画を立てた後も、実施に至る経緯は決して簡単なものではなかった。4月20日にオランダ政府を通じて申請した、調査船「虹の戦士号」を用いての海洋での調査計画書に対し、日本政府は約1週間後、「調査は領海外に限る」との決定を通達してきたのだ。
「もともと日本政府は、グリーンピースの船舶が入港するのを歓迎していなくて、受け入れてくれる船舶代理店に圧力がかかるといったことはこれまでにもありました。でも、今回はこれだけの緊急事態で、しかも日本の政府や企業を批判するキャンペーンをやるわけではない。あくまで調査・計測ですから、許可が下りるのではないかと期待していたのですが…」(佐藤さん)
領海外に範囲を限られては、十分な調査ができない。議論の末、虹の戦士号とスタッフをいったん台湾に送り、そこから出航して福島沖に船を停泊。領海外での調査を続けながら、領海内調査の許可を出すよう国内外でのアピール活動を行うことになった。
(c)Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace
ホームページ上での署名呼びかけには9000人近い人たちが賛同、一部のテレビ番組でも取り上げられるなど、この調査許可問題は大きな注目を集めた。結局、最後まで許可が下りることはなかったものの、許可申請中の4月25日、政府は突如、グリーンピースが提出した調査計画と酷似した内容での海水調査をスタート。さらに5月6日には、水産物調査も含めた総合的な海洋調査計画も発表された。「やはり、海洋調査を求める世論の高まりを政府が無視しきれなくなったということだと思う」と佐藤さんは指摘する。
■「今やらないでいつやるんだ」——経験値の高い本部スタッフのサポートを受けて、緊迫するぎりぎりの状況下で進められた海洋調査。
もちろん、この時期に福島近海に船を送るということは、放射能の危険性と隣り合わせの行動でもあった。再度原発で爆発などが起きた場合、海側に大量の放射性物質が飛散する可能性は非常に高い上、窓を閉め切っても、換気用の穴から外気が入ってくることは避けられない。
「少しでも危険性を低減するため、換気フィルターを特殊なものに変えて、船内に急遽除染室を設置して…。停泊中も、防護服を着てサンプリングに出るスタッフ以外は全員、船の中に閉じこもって、窓も開けられない、もちろん外には一歩も出られない状況だったと聞いています。乗り込むスタッフを選定する際も、それぞれが『自分たちの意志で行くんだ』ということを何度も確認しました」
(c)Noriko Hayashi / Greenpeace
また、「虹の戦士号」を日本に呼んで何らかの調査を行う場合、通常ならその準備だけでも3〜4ヶ月をかけて進められる。しかしこのときは、発案から実行までわずか1週間。すべての手配を他の業務と並行しながら進めなくてはならず、佐藤さんたち東京スタッフにとっても、限界まで多忙を極める日々だった。
さらには、原発の状況も毎日のように変化し、次々に新たな情報が伝えられるとともに、再度の爆発の危険性も指摘されていた時期。そもそもそんな危険を冒してまで船を送るべきなのかという意見も、グリーンピース内には少なくなかった。毎日1時間は、スカイプを通じて世界各地のスタッフとの議論が続いたという。佐藤さん自身も、24時間常にスカイプをオンにしているような状況だった。
それでも、政府が海洋調査をスタートさせるなど、いくつかの「成果」が見えてきたことが、スタッフの大きな励みになった。「やれば必ず何かが変わる。今やらないでいつやるんだ、という思いは誰の胸にもあったと思います。本部にいるスタッフが、『何か分からないことがあったらいつでも聞いてくれ』とサポートしてくれたことも大きかったですね」。佐藤さんはそう振り返る。
■「調べてくれ。そして本当のことをできるだけ広く伝えてほしい」——漁港で出会った漁師たちは、積極的に調査に協力してくれた。
さらに、この船での海洋調査と並行して、グリーンピースは漁港など、陸側を拠点として沿岸部の海洋調査も実施した。
「海洋調査をする場合、やはり汚染源にできる限り近づくことが原則。それに、私たちの目的は、海洋生態系の汚染状況だけでなく、それが近隣に住む人たちにどういう影響を与えるかを調べること。そう考えると、沿岸海域での調査はどうしても外せなかった」。調査を中心になって担った1人、グリーンピースの海洋生態系問題担当スタッフ・花岡和佳男さんはそう説明する。
(c)Noriko Hayashi / Greenpeace
宮城県・気仙沼市の本吉町にある日門港から千葉の銚子漁港まで、400キロ強。沿岸部を車で走り、魚や貝、海藻などのサンプルを集めた。といっても、漁業権の問題があり、花岡さんたちが自らサンプルを採取することは基本的にできない。当初は地域の漁協を通じて協力を求めたが拒否され、最終的には飛び込みで、漁港の近くで出会う漁師たちに直接協力を要請することにした。
漁港で船や網の修理などをしている漁師たちに近づき、グリーンピースのスタッフなんですが、と話しかける。その瞬間は怪訝な顔をされることもしばしば。それでも、「海洋の放射能汚染状況を調べている」と説明すると、誰もが快く協力を申し出てくれたという。「協力を、というよりはむしろ、向こうから積極的に『調べてくれ、公開してくれ』と言う方が多かった」(花岡さん)
通常なら、漁協に逆らう形でNGOに協力するといったことは、まず考えられない。しかし、震災から2ヶ月近く、特に福島県では多くの漁師がまったく海に出ることができず、収入を絶たれるという追いつめられた状況にあった。「調査してもらって、高い汚染数値が出たら、それは本当に『漁業の終わり』を意味するのかもしれない。それでも、せめてそれをやらないと、俺たちも先が見えないんだ。調査して、結果をできるだけ広く伝えてほしい」。花岡さんたちは、そんな声も耳にしたという。
花岡 和佳男(はなおか わかお)グリーンピース・ジャパン海洋生態系問題担当。米国、フロリダ州フロリダ工科大学在学中に海洋環境学及び海洋生物学を専攻。卒業後、モルディブでの海底調査や、マレーシアでのマングローブ林を伐採しないエビの養殖施設の立ち上げメンバーを経て、2007年よりグリーンピース・ジャパン海洋生態系問題担当のスタッフとなる。 Twitter キャンペーン『お魚ツイートプロジェクト』実施中。ご近所のスーパーにむけて、魚の放射線値検査とその結果表示、漁獲場所の表示を求めて呼びかけませんか? http://www.greenpeace.org/japan/sakana/ |
さらに、協力してくれた中には、漁師だけでなく地元のサーファーたちもいた。「これまで、自分たちはぬるま湯に浸かりすぎていた、と。次の世代に、自分たちが何を伝えていきたいのか、どうやってこの海を守っていきたいのかをしっかり考えなきゃいけない。そして、仲間をこの海に呼び戻したいんだ、とおっしゃっていましたね」と花岡さんは言う。
■「まだまだ不十分な点のある放射能汚染調査」——政府の調査を強化するきっかけや動機付けになればいい。
そうして地域の人たちの協力を得て実現した沿岸部での調査と、虹の戦士号による沖合調査。二つの調査から明らかになってきたのは、放射能汚染は海面だけではなく海底にも広がりつつあるという事実。そして、当初政府が主張していた「(汚染水に含まれる放射性物質は)海に放出されることで希釈される」という説の疑わしさだった。
グリーンピースは5月26日に記者会見を行い、二つの調査で採取した魚や貝類から放射性ヨウ素など高レベルの放射性物質が検出されたことを発表。地元の水産関係者への政府や東京電力による補償の必要性を訴えると同時に、それまで政府がまったく調査をしていなかった海藻類についてなど、調査対象のさらなる拡大を求めた。「その効果もあってか、徐々に政府による調査の拡大は進んできました。ただ、もちろんまだ不十分な点も数多くあります」と花岡さんは指摘する。
一つは、政府によって発表される調査データが、「食べ物」としての観点からのものにとどまり、生態系全体の汚染についてほとんど触れていないこと。今後の放射性物質の生体濃縮を予測する上でも、本来は生態系全体の調査が非常に重要になってくるはずなのだという。また、すでに指摘されているように、調査が「魚の皮を剥いだ状態」「内臓を抜いた状態」など、実際に消費者の手に届く段階とは異なる状態で行われていることなども大きな問題だ。
「その意味でも、今後もやはり調査は続けていく必要があると思う。もちろん、私たちだけでも十分な調査はできませんから、それが政府の調査を強化するきっかけや動機付けになればと思うんです」。花岡さんはそう話す。
(c)Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace
さらに現在は、より消費者に近い部分での活動として、スーパーマーケットなど小売業への働きかけも開始している。例えば、チェルノブイリ事故があった後、スウェーデンのあるスーパーマーケットでは、政府のそれより厳格な基準値を自分たちで定め、それを満たした食材しか販売しない、と発表した。日本でもそうした試みを広げられないかと考えているのだという。
「スウェーデンのスーパーがそうしたことを始めたのは、それが消費者からの信頼につながり、購買を拡大することにもなると考えたからです。日本のスーパーは今はまだ、消費者よりも政府の側を向いているような印象が強いけれど、これを消費者からの信頼を得る体制を構築するきっかけにしてほしい。消費者の側も、もっと『こうしてほしい』と声をあげて、いわば店を『成長させていく』関係をつくれればと思っています」(花岡さん)
■「3・11後」の社会で——個人のサポーターに支えられているNGOだからこそ出来ること、もの言えることがある。
震災と原発事故からまもなく5ヶ月。グリーンピースは現在、調査活動の継続とともに、ツイッターなどを通じて、国のエネルギー政策の転換と自然エネルギー政策の推進に向けた働きかけを始めている。他のNPOなどと共同で、福島県の子どもたちを安全な場所へ避難させようというプロジェクトも展開中だ。
また、今回の経験を今後につなげていくため、日本だけでなくアジア各地のグリーンピーススタッフに対し、放射能に関する知識やスキルを身につけるためのトレーニングも開始する。特に中国やインドなど、原発を推進し続けている国のスタッフに、「同じような事故が起こった場合にどうするか」を伝えるとともに、原発や放射線に関するアジアでの長期的なモニタリング体制の構築にもつなげていきたいという。
震災以後の活動を振り返って、「グリーンピースはもともと寄附を個人サポーターからのものだけに限っていて、企業からの寄附を受け付けていないのですが、そのことの意味の大きさを改めて実感しました。東京電力などに対して『もの申せない』メディアや団体がいる中で、そこを何も気にせずものを言えるというのは大きな強みだったと思う」と語る佐藤さん。「3・11後」の社会において、グリーンピースの担う役割はますます大きなものになりつつある。
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(c)Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace
Date | 事象 | 政府の対策 | GPジャパン及びGP本部の活動 |
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