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2012-06-06up

原発のある地域から

昨年、「下北半島プロジェクト」で青森県下北半島を訪れたマガ9スタッフ。短い時間でしたが、核施設のある六ヶ所や東通も訪れ、地元の方ともお話しする中で、主要産業であり雇用の場でもあった原発を、即座に否定はできない事情や空気があるということを感じました。と同時に膨らんできたのが、他の原発立地地域はどうなのか? という関心。日本各地の「原発のある地域」で、反対運動をしてきた方のお話などをシリーズでお送りします。

第2回(静岡県・掛川市)元「浜岡原発を考える静岡ネットワーク」役員 内藤新吾さんに聞いた‐その2

内藤新吾(ないとう・しんご)牧師。 1961年兵庫県生まれ。2011年3月まで日本福音ルーテル掛川・菊川教会(静岡県)で牧師を務め、同時に浜岡原発の反対運動に携わる。現在は同稔台教会(千葉県松戸市)に勤務。著書に『キリスト者として原発をどう考えるか』(いのちのことば社)。「原子力行政を問い直す宗教者の会」事務局4人の1人。

昨年、二度にわたって下北半島を訪れ、地元の人たちとも話をする中で、強く印象に残ったのは、多くの人が口にする「地元での声のあげにくさ」でした。原発はないほうがいいと思う。違う経済のあり方を目指したい。でも、それを表立って言うのはあまりにリスクが高すぎる--。外側にいる私たちには時に想像しきれない「空気」がそこにあるのだということを、改めて感じさせられました。
けれど、立地地域以外の場所だけでいくら「脱原発」を叫んでいても、何かを変えられるはずはない。原発のある地域で、まずは一緒に考えよう、考えていいんだという空気をつくりだしていくには、どうしたらいいのか。そのヒントをお聞きしたくて、3・11の直後まで暮らしていた静岡県掛川市で、浜岡原発への反対運動を続けていた牧師・内藤新吾さんを訪ねました。

つながりを大事にしながら、
「原発に頼らない」道筋を示していこう

——昨年3月11日の東日本大震災、そして福島第一原発での事故を受けて、全国で原発の安全性への疑念の声が急速に高まり、「脱原発」を求める声も大きくなりました。浜岡原発周辺での変化はどうだったのでしょうか。

 一気に状況が変わりましたね。それまで、とにかく「大丈夫だ、大丈夫だ」と言い聞かせ続けられていた根拠、安全神話が完全に崩れたわけだから。県庁や中電への抗議行動にも、それまで反対運動に参加したことのない、ごく「普通」の人たちが大挙してやってくるようになりました。特に、昼間時間がとれるからか、赤ちゃんを抱いた人など、女性の姿が目立ちましたね。イデオロギーなども一切関係なく、とにかく心配だから止めてと、誰もがごく普通の意見として口にするようになったということだと思います。

——5月6日には、菅首相(当時)が中電に対して浜岡原発の停止要請を出し、中電も9日にその受け入れを発表しました。

 あのとき、一番驚いたのは御前崎市の石原市長の反応でしたね。菅首相の停止要請の直後にテレビ局が取材に行ったときは、「何の断りもなく一方的に決めて…」と、ものすごく怒っていた。それがその1週間後、もう一度取材に応じたときはニコニコ顔。「国民の安全、安心を考えればやむを得ない」「これからは原子力に依存しないエネルギー政策を」とまで言ったんです。
 たった1週間で何があったんだろうと思ったけれど、実は僕は以前から、御前崎市役所へも何度も足を運んで、市の原発担当課と会っていろいろ話をしたり、市長に文書を言付けたりしていたんです。別に「原発をやめろ」と噛み付くのではなくて、このあたりは他に産業もないし、中電にはいてもらわないと経済が成り立たないよね、大変だよね、という話をした上で、「だからこそ早く原発をやめてガス発電に切り替えるべきだ」と。原発を止めても今ある発電所を廃炉にするには20年30年とかかるし、ドイツなどの例を見てもその間は廃炉作業にかかわる作業員でむしろ町は賑わって、飲食業や宿泊業も何も困らない。その間にガス発電への切り替えを進めていけば、むしろ原発事故の危険性がなくなって安心した企業がたくさん入ってくるはずだ、という説明をずっと続けていたんです。これまで、ほかに誰もそういう「助け舟」の意見を市に対して出さなかったからか、ちゃんと耳を傾けてくれてましたよ。
 もしかしたら、そういう話が職員を通じて市長の耳にも入ったのかな、と思った。そうでもないと、1週間であんなに態度が変わったことの説明がつかない(笑)。原発がなくなっても、なんとかなるという道筋が見えたんじゃないのかな。

——ただ反対を言うだけじゃなくて、そういう「助け舟」を出していくことも重要ですね。

 もちろんです。僕は中電の株主でもあって、毎年株主総会にも出席してるんだけど、そこでも中電に対しては「もともと浜岡原発は稼働率が低いんだし、燃料電池の開発に力を入れたり、ガス発電主体に切り替えたりしたほうが絶対に儲かるよ」という話をしていました。「中部電力さんが転んだらこの地域の経済も打撃を受けるから、ぜひ安定した経営をしてほしいんだ」と。

——今、廃炉についての話が出ましたが、浜岡原発の1、2号機は3・11以前から廃炉が決定されていたんですよね。今、その計画はどうなっているんですか?

 2036年に廃炉解体が終了予定となっているけど、具体的な計画はまだ決まっていません。営業運転は2009年に終了して、燃料棒はすでに抜かれて冷却段階に入っているけれど、これくらいの期間ではまだまだ廃炉作業には入れないようです。原子炉の圧力容器自体が長年放射線を浴び続けて高濃度の放射性物質になってしまっているし、その線量がある程度下がってからでないと。
 中電は、その廃炉費用を2機で900億円と見積もっているけど、僕はこれはあまりに安すぎると思う。今、東海原発第1号機ですでに廃炉作業がはじまっているけど、このコストがやはり同じ900億円程度なんですね。でも、東海第1号機は出力わずか16.6万kW、浜岡原発の1、2号機はあわせて138kWもあるんだから、規模がまったく違うんです。しかも、東海第1号機の廃炉作業もまだ途中で、なかなか進まないでいる状態だし。
 廃炉には十分にお金をかけないと、本当に危ないと思います。作業員の数が減らされれば1人あたりの被曝量が増えてしまうし、安全管理もいいかげんになって、廃棄物処理もきちんとなされなくなる可能性がある。特に廃棄物の処理については、ゼネコンやその下請け孫請けと、外部の会社が入ってくるだろうし、そうなれば処理行程の追跡もできなくなってしまう。以前台湾で、廃炉になったアメリカの原発から出た廃棄物が、違法に転売されてマンションや学校の鉄材として使われて、住民にガンや流産が増え、失明したり心臓病になったりする子どもも続出するという事件があったけれど、同じようなことが起こってしまうかもしれません。
 御前崎市の担当課にも、「900億円なんて安すぎる、もっと高く取らないと駄目だ」という話をしていたんですよ。

——停止している3号機以降についても、中電や政府は再稼働させるのをあきらめたわけじゃないんですよね。

 政府は、防潮堤の完成とストレステストの実施を条件に、再稼動を認めると言っていますね。あと、中電は以前から進められていた6号機の建設計画を一時凍結すると発表したけど、それとセットで発表されていた使用済み核燃料の中間貯蔵施設計画はそのまま。これも「原発はとにかく動かし続ける」という意思表示だとも思えます。

——私たちが昨年、「ミツバチの羽音と地球の回転」の上映会を行った青森県むつ市でも、中間貯蔵施設の建設計画が進行中です。むつ市のある下北半島では、他にも数多くの核施設が点在していますが、浜岡での反対運動を続けてこられた内藤さんの目に、下北半島の状況はどのように映りますか?

 下北半島は、原発立地の中でも非常に特殊な場所だと思います。人口が非常に少ないのに、そこに原発交付金という大金がばらまかれている。ということは、原発マネーに関連している人の割合がそれだけ高いわけで、浜岡のケース以上に声があげにくい。あそこで反対運動をやっていくのはほとんど無理だろうとも思います。
 ただ、地元だけの力では無理でも、周りから応援をもらうことはできますね。それぞれ「原発反対」を掲げている六ヶ所村の「花とハーブの里」や大間の「あさこはうす」にも、若い人たちがいっぱい応援に行ってるでしょう。そういうつながりを大事にして、広げていくことですよね。数少ない、昔から反対運動を続けてきている人たちを、決して孤立させてはいけない。「たくさんの人たちがかかわってるんだ」という形をつくらなくては。その上で、最初は集会や勉強会をやってもなかなか人が集まらないかもしれないけれど、それでもあきらめず、やり続けていくこと。継続していくことが大事です。
 それと同時に、とにかく知恵を絞って、原発なしでもやっていける経済のあり方を示していくことも必要ですね。「それがあればなんとかなるか」というものが見えないと、なかなか地元の人たちが一緒に声をあげてくれるようにはならないと思う。

——やはり「助け舟」をセットで示していくことですね。

 下北半島なら、地熱発電の潜在能力もあるはずですから、それを利用するというのも一案ですね。もちろん、発電以外の産業を考える、探すことも重要でしょう。
 あと、これは産業ではないけれど、今なら福島の放射線量の高い地域に暮らす子どもたちの避難や保養を、下北半島で積極的に受け入れるというのはどうでしょう。福島の人たちだって、大阪や九州よりは同じ東北地方の中のほうが動きやすいはずだし、ニーズはあるんじゃないでしょうか。できることなら大勢が移住できるといいですね。
 そういうことを、地元の人たちだけじゃなくて、外部の人たちも一緒になって呼びかけて、国にそのためのお金を出させる。何か発言すればマスコミが取材に来るような影響力のある人を動かして、賛同してもらうとか。「それいいね」という人が増えていけば、決して不可能な話ではないはずです。
 とにかく、ただ「反対」を言うだけでは何もひっくり返らない。具体的なプランを示して、それに賛同してくれる仲間を増やしていくことが必要なんだと思います。

■インタビューを終えて(仲藤里美)

 内藤さんに初めてお会いしたのは、今年1月に横浜で開かれた「脱原発世界会議」。原発立地地域からの声をテーマにした分科会に、静岡での浜岡原発反対運動についての報告をするために出席されていたときでした。「ただ“反対”を言うだけでは、地元の人たちはついてこない」「生まれたときから原発があるのが当たり前の若い世代へのアピールの仕方を考えないと駄目」。下北半島を訪れて以来、もやもやと頭の中で考えていたことを、明確な言葉にしてもらったような気がして、その場でインタビューをお願いに行ったのでした。
 現在は千葉・松戸市の教会で牧師を務める内藤さんは、大勢で押しかけた私たちを、気さくな笑顔で迎えてくれました。いい意味でしぶとく、したたか。粘り強く、あきらめず、なんとしてでも継続する。そんな内藤さんの「闘い方」を見ていたら、つまらないことでくじけたり、立ち止まったりしてる場合じゃない! という気持ちになりました。お話しいただいたたくさんのことから学びながら、自分たちなりの「しぶとさ」「したたかさ」を身につけていきたい。そんなことを考えたりしています。

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