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2010-10-20up
鈴木邦男の愛国問答
第61回
北朝鮮に行きたい!
昨夜、北朝鮮から帰ってきました。「後継者」が決まり喜びに沸くピョンヤン市の現状を見て来ました。「よど号」グループにも会ってきました。
…と、「衝撃のレポート」をお届け出来るはずだったのに。残念です。又も行けませんでした。10月15日(金)から19日(火)まで、行く予定でした。今度もダメだろうな。と思っていたら、「大丈夫ですよ、行けます」と団長さんは言う。余りに簡単に、即答したので、「あるいは」と思った。団長さんは北朝鮮には太いパイプがあるし、うん行けるかなと思った。書類も提出し、旅行代金も振り込んだ。〆切のある原稿は事前に出しておかなくちゃ。ともかく忙しかったし、慌ただしかった。15日(金)は朝8時に関空集合だ。じゃ、前日に大阪に行かなくては、と思っていた。
ところが、数日前に連絡が入った。「申し訳ありません。鈴木さんだけビザが下りませんでした」。やっぱり、ダメだったのか。旅行代金はすぐ返してくれた。
今まで20回以上、ビザを申請しているが断られている。もう、ギネス級だ。「お前はブラックリストに載っているんだから、何百回申請してもダメだよ」と周りの人達に言われた。でも、不思議なことに1度だけ入国できたのだ。08年の春だ。北朝鮮に太いパイプと人脈を持つ人が橋渡しをしてくれた。5日間、労働党の偉い人たちと、じっくり話し込んだ。観光などほとんどしないで話し合いだ。拉致の話や、日本国民がいかに怒っているか。さらに、国交のこと。「よど号問題」などだ。いろんな提言もした。激論もしながら、真面目に話し合った。
「よど号」グループにも会いたかったが、「それは次回に」ということで我慢した。「やはり鈴木さんはブラックリストに載ってました。だから入国も出来なかったのです」と言う。じゃ、そのリストから外して特別に入国させてくれたわけだ。「共和国が入国を拒否している三つの元凶があるんです」と言う。共和国とは、北朝鮮のことだ。その北朝鮮に、「政治家、マスコミ、右翼」。この三大元凶は入れないという。「共和国を誹謗中傷し、敵対行動をしている人間たちだから」と言う。政治家、マスコミは影響力があるが、右翼はないだろう。「いや、最も敵対行動をしている」と言う。何かあると右翼の黒い車が押しかけて騒いでいる。そんな映像をテレビで見てるからだ。
「だったら、この三元凶を入国させて、大いに議論し、北朝鮮を見せたらいい。世論は変わりますよ。批判もするが、感動する点もあるはずですし」と言った。大国アメリカを相手にして、キリキリ舞いさせている。凄い外交上手の国だ。日本とは大違いだ。又、国民は貧しいが、それでも毅然としてるし、老人も背筋が伸びていた。勿論、限られた範囲で、許された範囲でしか見てない。だから、「甘い」と言われても仕方ないが。
それまでには17回ほどビザを申請し、やっと08年に入国できた。これでブラックリストからは外れたから、次からは行ける。そう思っていた。ところが、それから6回ほど申請してるが、全てダメなのだ。複雑な国だ。
ビザが出るかどうかは、普通は日本で分かる。「下りる」となると、まず北京に行き、そこにある北朝鮮大使館でビザをもらって、北朝鮮に行く。パスポートには一切、記載されない。国交がないからだ。中国やロシア、東欧経由で北朝鮮に行くが、パスポートには載らないから、実際に、どれだけの日本人が行ったのか分からない。何十回も行ってても、本人が言わなければ誰にも分からない。ちょっと危ない話だ。
何度も行った人がいるし、今もいる人もいる。なかには、入国したが、何かのトラブルで帰れない人もいるだろう。危ない話だ。だから、キチンと国交したらいい。そして日本大使館を置き、新聞社の支局も置いたらいい。何かあったら、日本人も大使館に飛び込める。北朝鮮に何人が来ているかも分かる。
その上で、拉致被害者の奪還交渉をしたらいい。「北朝鮮を許さないぞ!」と、日本国内にいて、日本人向けに言ってるだけでは解決はしない。交渉のテーブルを作るべきだ。
国交をし、羽田から平壌に直行便を出したらいい。安全に行けるなら、北朝鮮に行ってみたいと思う日本人は多いだろう。そうしたら北朝鮮も変わる。実は金総書記も、3人の息子たちも日本の文化は好きなのだ。長男は日本に来て、ディズニーランドで遊んでいた。ところが、二男、三男も密かに来ていたという。だったら、日本の力で(アメリカの協力をえて)、北朝鮮にもディズニーランドを作ってやればいい。
又、「寅さん」や「釣りバカ日誌」も好きだという。アニメや音楽も好きなのだ。マジックも好きだ。金総書記の料理人だった藤本健二さんに聞いたのだが、金総書記は、「共和国の全人民に寅さんを見せてやりたい」と本気で思ったそうだ。お父さんの金日成さんも寅さんが大好きだった。金正日さんは、テレビで全人民に見せようとした。人情があるし、人間のやさしさ、思いやりがある。こんないい映画はないと思ったのだ。ところが側近が反対した。「この映画を見て人民が働かなくなっては困ります」と。
なるほど、寅さんは自由人だ。全国を放浪している。仕事をする時はするが、気が向かなければフテ寝している。こんな所だけを真似られては困る。側近の忠告を入れて、この案は実現しなかった。その前に、日本が「寅さん」上映館を何十館も作ってやればよかったのだ。「釣りバカ日誌」や「ゴジラ」やアニメなども無償で提供してやったらいい。これは「文化攻勢」だ。それで北朝鮮も変わる。
料理人の藤本さんとは去年の1月、大阪のテレビ「たかじんのそこまで言って委員会」で初めて会った。この時、「後継者は三男のジョンウン氏です」と断言していた。初めて言ったのだ。北朝鮮研究家などもいたが、全員「ありえない」「嘘だ」と言っていた。でも僕は藤本さんの発言にリアリティを感じた。そして、局の人に頼んで、終わってから二人で会い、飲んだ。この人は〈本物〉だと思った。13年も金総書記や息子たちの傍にいたのだ。命がけだ。信頼も勝ち得ている。かなり深いところまで知っている。その後、一水会の講演会にも来てもらい、話してもらった。
「藤本発言」から2年近く経った。藤本氏の言ったことが本当だったのだ。だから今は、テレビに引っぱり凧だ。『北の後継者 キム・ジョンウン』(中公新書ラクレ)も緊急出版した。いっそのこと、この藤本さんを「拉致問題担当大臣」にして交渉してもらったらいい。金ファミリーとは最も親しいし、ぜひやってほしい。
*
ただ「許さない!」とこぶしを振り上げるのではなく、
きちんと国交を持った上で、拉致問題についての交渉テーブルをつくる。
至極まっとうな、説得力ある主張だと思うのですが…
それにしても、「全人民に寅さんを」、
万が一実現していたら、どうなっていたのでしょうか?
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
「鈴木邦男の愛国問答」
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