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2010-12-08up
雨宮処凛がゆく!
『生きのびろ! 生きづらい世界を変える8人のやり方』の巻
12月5日、AKIRAさんと栃木の「ワカモノ・フェスタ」で対談!
この連載の78回にもご登場頂いた鈴木宗男氏が収監された。
「麻生邸リアリティツアー」の際には非常にお世話になったわけだが、そんな一連のかかわりの中で、鈴木氏に熱烈な支持者がいる理由が少しわかった気がする。とにかく報道などで言われている通り、めちゃくちゃ「面倒見がいい」のだ。ちなみに政権交代前、私と湯浅さんで鳩山元首相に会ったわけだが、それをセッティングしてくれたのも鈴木氏だった。ここ最近は会っていなかったが、私はあれほどいろいろな意味で「すごい」人、「面白い」人と会ったことはない。ちなみに以前、鈴木氏の北海道のイベントに出たことがあるのだが、帰りは空港まで一緒に車で行ったので同じ飛行機なのかと思ったら、鈴木氏は私のみANAだったかJALだったかに乗せ、自らは「私は安い方でいいんで!」と航空券が安い飛行機に乗り(しかも一人で)、驚いたことがある。そんな鈴木氏と初めて会い、ご飯を食べた時にはその存在感に圧倒されまくり、以後数日間は「食あたり」ならぬ「宗男あたり」とでもいうような体調不良に襲われたこともあった。
と、「収監」のニュースを聞き、そんなことをいろいろ思い出している。
さて、御存じの方もいるだろうが、アメブロにて「雨宮処凛のドブさらい日記」というブログを始めた。まだ始めたばかりだが、とりあえずよろしくお願いしたい。
前からやろうと思っていたのだが、〆切に追われていたりイベントが続いていたり酒を飲んだりライブに行ったり猫の機嫌をとったりと忙しく(後半は忙しい理由になってないことはわかっている・・・)、しかしずっと準備してきた「雨宮処凛presents バンギャル ア ゴーゴー」が形になってきたりで、一念発起したというわけだ。
また、今月頭に『生きのびろ! 生きづらい世界を変える8人のやり方』(太田出版)を出版したことも大きい。太田出版と言えば、私の代表作となった『生きさせろ!』を手がけてくれた出版社。あれから3年が経ち、いろいろ思うところがあって書いた一冊だ。
この3年間、この連載で触れてきたように「怒濤のワーキングプアの反撃」があり、リーマンショックがあり、年越し派遣村があり、政権交代があった。そんな中、湯浅さんが大ブレイクしたり内閣府参与になったりと本当に様々なことがあったわけだが、そんなもろもろについて、長いまえがきで「『生きさせろ!』から『貧困ブームの消費』の果てに」というタイトルで書いたのでぜひ読んでほしい。反貧困運動、プレカリアート運動がある程度の力を持ち、また、派遣切りに代表されるような「最悪の状況」が訪れたことによって「貧困」は可視化され、理解は一応進み、「自己責任論」を若干押し返すことはできたわけだ。が、今ここにきて、当事者の人たちなどと必ず話題になるのは「さて、これからどうするか」である。
現在、運動の現場では、個別具体的な「政策」の問題などが語られている。「財源」などについての勉強会も持たれているので私も一応参加している。政策などについて考えるのは、非常に重要なことだ。しかし、どうしたことだろう。高卒の私などは難しい話になるとたちまち堪え難いほどの眠気が襲ってきてしまうのだ。そうしてそれは、多くのプレカリアートにも共通する事態だと思う。格差社会の中で、もっと不利益をこうむりがちな人たちに理解不能な言葉で語られる「これから」のこと。いや、政策論議が悪いのではない。しかし、もっと簡単な言葉で当事者の人たちと「これから」のことを考えたい。ずっとそう思っていた。
以下、まえがきからの引用である。
少し前、30代の男性が私に行った言葉が耳に残っている。
「雨宮さん、バイトをクビになったり残業代が払われなかったりしたら労働組合に相談すればいいことはわかりました。生活がどうにもならなくなったら生活保護を受ける権利があるということもわかりました。この国で最低限、“死なない方法” はわかったんです。だけど、僕のような低学歴でこの年だと、結局は仕事が見つかってもバイトとか派遣しかありません。二ヶ月くらいで切られたらまた生活保護受けて、そういうふうに非正規の仕事と生活保護を繰り返してこの先ずっと生きていくのかと思うと、絶望的な気持ちになるんです。だからこそ、僕はこの社会をなんとか変えたいと思っています。でも、そのやり方がわからない。僕らのような人間がこれからどう生きていくか、それが大問題なんです」
そう、それこそが大問題なのだと思う。
人は「死なない方法」がわかっただけではなかなか生きていけない。「生きている」ということは、ただ息をしていたり心臓が止まっていなかったり、ということとイコールではないからだ。どうやって主体的に、できるだけ具体的な希望みたいなものを持ちつつ、生きていけるか。
それはこの3年間、「とりあえず家もお金もない人をセーフティネットに繋ぐ」ことに微力ではあるがかかわってきた者として、痛感しているテーマだ。仕事がなかなか見つからない人もいれば、うつ状態に長い間苦しんでいる人もいる。失業が長期化し、自信をなくして疲弊している人もいる。
ただ、数年前までは「死なない方法」さえも多くの人にとってはわからなかった。それが少しでも「こういう支援団体があるらしい」的な情報として伝わっただけでもすごいことなのだが、やっぱり当事者の人たちに伝わる言葉で「これから」のことを考えたい。
そんな思いで、8人の人に話を聞いた。8人に共通しているのは、「タダか、限りなくタダに近い額で社会・世界を変えている/変えようとしている」と私が勝手に思っている点だ。そうして誰も思いつかないようなやり方で、独自の生き方を極めている。
登場するのは、以下の8人。
「東京ガガガ」で街をジャックし、突然単身ハリウッドに乗り込んで周囲を巻き込みまくる映画監督の園子温氏。公園のテント村で「物々交換カフェ」を運営しながら暮らすアーティストのいちむらみさこ氏。家も飛行機も自力で作ってしまう年収10万円の韓国人メディアアクティビスト、パク・ドヨン氏。ホームレスを「都市の達人」と呼び、ゼロ円生活の極意を学ぶ建築探検家の坂口恭平氏。恋人の自殺から制度や仕組みを変えようと思い立ち、カネ・コネなしで立候補、見事当選した横須賀市議会議員・藤野英明氏。突然「職場が閉鎖する」と言われ、自主営業を始めた上野のサウナ「王城」の従業員たちで結成された「王城ユニオン」。全国各地にノウハウが伝授されている「シブヤ大学」の伊藤剛氏。そしてホスピスで約500人を看取り、路上死した人や身寄りのない人の遺骨を預かり、自殺相談を受け、時には深夜「家族が自殺した」という現場に駆けつけ、お骨を拾うところまでかかわる「葬送支援ネットワーク」「寺ネット・サンガ」代表にしてアクティビスト僧侶(勝手に命名)の中下大樹氏。
取材を終えたあとに気づいたのは、登場してくれる人たちには私と同世代の30代がとっても多いということだ。そういう意味では、はからずもロスジェネと呼ばれる世代が様々な時代の転換につまずき、彷徨ってきた軌跡も浮かび上がってくるのではないかと思っている。
また、巻末には「番外編」として「生きさせろ! リターンズ 外国人労働者化する若者たち」というタイトルで、時給300円で中国のコールセンターに「派遣」されてトンデモない目に遭った男性へのインタビューも収録。ちなみに私自身もこの「派遣会社」の説明会に潜入、その模様のルポもあるので読んでほしい。「インド勤務希望」ということで潜入したのだが、説明会でもらった資料によると「インドの空港に着いて何かあったらリンチェン、もしくはスダンシュに電話して下さい」(誰?)、「寮で何かあったら別の部屋をノックして下さい」、「病気になったら国立病院を利用して下さい。ただ、非常に混んでいるのでほとんどの方は利用しません」など、非常にアバウトすぎて片道切符感満載なのだった。
ということで、「これからどうするか」問題について考えるためにも、ぜひ読んでほしいと思っている。
生きのびろ! 生きづらい世界を変える8人のやり方
(雨宮処凛/太田出版)※アマゾンにリンクしています。
『生きさせろ!』から3年、
状況はどう変わり、どう変わらなかったのか?
その中で見えてきた「これから」への希望は?
それを考えるための道しるべが、ここにあります。
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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