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2010-12-01up
雨宮処凛がゆく!
就活どうにかしろデモ! の巻
デモ前。「骨折り損」の学生と。
11月、衝撃の数字が発表された。
それは来年春卒業予定の大学生の就職内定率。過去最低だというその数字は57.6%。今年の春には、8万7000人以上が進路が決まらないままに大学を卒業したという。
内定が貰えない場合、新卒ブランドを守るために大学院に進む者もいれば、就職留年する者もいる。また、就活の時期がどんどん早まっていたり、その時期が早すぎることが問題になったりと、何か「就職」を巡るあれこれがおかしなことになっているのは皆さんご存知の通りだ。そんな「就活」に関しては、「新卒至上主義って変じゃない?」というタイトルで、この連載の153〜156回でも触れてきたわけだが、当の大学生たちは自身の就活に必死で、世間に声を上げることはあまりしてこなかったように思う。
しかし、11月23日の勤労感謝の日、とうとう「就活」に苦しむ大学生たちが全国で立ち上がったことをご存知だろうか? この日、全国4カ所で同時刻に勃発した「就活」デモは以下の通りだ。
- 就活どうにかしろデモ 東京
- 就活くたばれデモ 札幌
- ここがヘンだよ就活パレード 大阪
- シューカツしたくないよぉ〜 パレード 愛媛
告知文には、以下のような言葉がある。
「私達は、早期化・過熱化する日本の就活制度に異議申し立てをするためのデモを企画しています」「就職活動ってなんかおかしいんじゃない? ただ単にそんな思いから、デモを行うことにしました。やたらと早い時期から、お金と時間をかけて行う就職活動。そこに学生の意志はあるのか? 働くとは一体どういうこと? 就職活動に不満・疑問を持っている人はたくさんいるはず! ぜひ、一緒に声をあげましょう!」
プラカードを持たせてもらう。
ということで、私が駆けつけたのは東京・新宿アルタ前出発の「就活どうにかしろデモ」。午後1時半、アルタ前に行くと、ダークグレーのスーツにコート、という「就活スタイル」の大学生が演説中で、すでに人だかりができていた。周りにも同じような就活スタイルの大学生(背中に「就活は骨折り損」という紙が貼られている)や普段着姿の大学生たち。そんな彼らの周りに散乱するプラカードに書かれた言葉は「エントリーシート燃やす」「醜活」「もう疲れた」「婚活より金かかるぞ」「就活は茶番です」「意識の高い学生(笑)」「就活産業(笑)」「研究させて・・・」「就活のバカヤロー」「平日昼に説明会?」「卒論書くヒマないぞ」「100社落ちたぞ」「ゆとり言うな」「就活期間長すぎ」「財布も口座もスッカラカンだ」「交通費よこせ」「既卒も大卒です」などなど、何か等身大の思いに満ち溢れている素晴らしい心の叫びたち。
そうして大学生たちが次々と「20社落ちた」「3年の秋から始まるのは早すぎる」「卒論も書いてないのに自己分析させられるのはおかしい」「企業も学生も今の就活はみんな気持ち悪いと思ってる」などとマイクで思いの丈を述べていくのだが、ある女子学生の発言が非常に胸に突き刺さったのだった。
横断幕。
地方出身だという彼女は、地元には仕事がなく、期間工の人たちがクビを切られて寮を追い出され路上死しているという現実に触れ、また周りの人を見ても親も非正規が多いという実情を語ったあと、「私はただ、普通に暮らしたいだけなんです!」と訴えたのだ。しかし、就活にも「女性」という壁が立ちはだかる。合同説明会のブースの椅子に座った途端に「うちは女の子いらないんだよね」と言われ、また別の場所では「うちは可愛い子じゃないといらない」と暴言を吐かれる。産休や育休について聞けば「産休はあるけど今までとった人はいない」と言われ、「理系の女は難しいこと言うから嫌だ」とか「文系の女は遊んでる」とか、そんな発言に晒されながらの就活についての不満をブチまけてくれたのだ。
何か、私はこの時点で激しく感動していた。自分たちでデモなどしたことのない大学生たちが(中には去年、早稲田で開催された「就活のバカヤロー」デモにかかわった人もいるそうだ)、就活の不安に晒されながら、こうして声を上げている。彼ら自身も何度も、「不安の中で声を上げることは厳しいことです」と繰り返していた。だけど、「『甘えるな』というのは思考停止だ」「もっと社会のせいにしていい」という力強い言葉が次々と彼らの口から飛び出してくる。
そうして異様な熱気の中、「就活のバカヤロー!」という横断幕を先頭にとうとうデモが出発! 新宿の雑踏の中、何台ものテレビカメラの前で大学生たちは叫び始めた。さぁ、リズムにのってみなさんもご一緒に。
「内定取り消し!」「お先真っ暗!」「金かかりすぎ!」「就活茶番!」「うそつき学生!」「宿代よこせ!」「勉強させろ!」「研究させろ!」「ゆとりをナメるな!」「内定よこせ!」「仕事をよこせ!」
そうして20社落ちて内定が取れていないという大学4年生が先頭でシャウトする。「俺は来年春からどうすればいいんだー!」「就職決まってない学生は人間じゃないのかー!」「人と会うたびに挨拶の前に『就職決まったの』って聞かれるぞー!」。デモ隊のあちこちからも叫び声が上がる。「今の人事の奴、甘えてるとか言うけど今の時代に就活やってみろ!」「競争させるな!」「助け合いをさせろ!」「勉強させろ!」「研究させろ!」
デモに出発!
驚いたのは、沿道の反応の良さだ。手を振ってくれる人や「その通りだ!」「頑張れ、学生!」などと声をかけてくれる人などなど、何か異様に温かく迎えられる大学生デモ隊。
そうして数々の大学生スターを生み出し、1時間弱のデモは終わった。何か生まれ変わったかのようにさわやかな笑顔の大学生たちはあちこちで取材を受けている。久々にデモに参加して、やっぱデモっていいなーと思った。そして大学生たちが「立ち上がる瞬間」に立ち会えたことがたまらなく嬉しかった。デモ前と後じゃなんだか別人のように輝いているのだ。やっぱり「声を上げる」ことは、人を劇的に変える。
これまで、日本の大学生はずーっと「行動しない」とか「主張しない」とか勝手なことを言われてきた。しかし、2010年、全国各地でこうして大学生が立ち上がったのだ。そのテーマが「就活」だというのが何やら時代を象徴していると言えないだろうか。
ちなみにこの日のデモには、「デモをしないのは日本だけ」というプラカードがあった。ほんと、その通りだ。
ということで、とにかく今回のデモをやらかしてくれた学生たちに、お礼を言いたい気持ちでいっぱいだ。ありがとう!
デモ中。
※12月9日、反貧困たすけあいネットワークのイベントがあります。出演者は、湯浅誠氏、河添誠氏、私、そして鳩山由紀夫氏、「たちあがれ日本」の与謝野馨氏、福島みずほ氏などなど超豪華! 詳しくはこちらで。
※12月19日、ビッグイシュー基金で「若者ホームレスの今」というシンポジウムを開催し、私も出演します。数ヶ月前から若者ホームレス問題についての会合を開き、話し合いを重ねてきました。
日時:2010年12月19日(日)15:00〜17:00
場所:東京都現代美術館 地下2階講堂
出演/
宮本みち子(放送大学教授)
稲葉剛(NPO法人自立生活サポート・もやい)
井村良英(NPO法人「育て上げ」ネット)
雨宮処凛(作家)
佐野章二(ビッグイシュー基金)
タケトモコ(東京都現代美術館「オランダのアート&デザイン新言語」展参加アーティスト)
※上記とはまったく関係ないテーマですが、12月1日頃、公式サイトのトップページにて、ずっと準備してきたあるイベントについて発表をする予定! こちらをチェック! 驚け!!
学生を取り巻く「シューカツ」状況は、
想像をはるかに超える厳しさに。
そんな中、ついに立ち上がった若者たち。
ここからまた、何かが動き出す、のかも!?
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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