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2010-05-12up
雨宮処凛がゆく! 144
棄民たちの大逆襲! メーデー大成功!!の巻
高円寺メーデー
今年も怒濤のメーデー週間が終わった。あー、すごい楽しかった。今年は去年のように韓国に行ったり、一昨年のように勝手に一人で「全国ツアー」したりはしなかったのだが、それでもとても充実したメーデーを過ごせた。というか、もともとメーデーは「サボる日」「怠ける日」なのだ。しかしながらここ数年の私は、メーデー近辺が異様なハードスケジュールとなっていた。ちっともサボっていないのだ。毎年、メーデーの時に掲げられる横断幕には「万国の労働者、休め!」と書いてある。ということで、今年は昼間から酒を飲み、サボりつつメーデーを過ごすことに決めたのである。
まず5月1日に参加したのは「高円寺メーデー」。「高円寺解放」と書かれたトラックの荷台でバンドがライヴしながらのめちゃくちゃな大行進だ。異様にテンションの高い高円寺住民は、デモ出発直後からあっちこっちでダイヴ! ダイヴ! ダイヴ! 出演バンドは「パンクロッカー労働組合」他。とにかく人が飛びまくり、暴れまくり、トラックの運転席の上にまで人がよじ上っているという無法地帯。「メーデー」を掲げているわりには誰も「労働問題」とか考えてなさそうなメーデーは、大盛り上がりで終わったのだった。だってプラカードの言葉が「苦情反対」とか「地獄の軍団」とか「禁煙禁止」とかだし。素晴らしい。
「自由と生存のメーデー」出発前
そして2日は私も実行委員の一人である「自由と生存のメーデー」の集会。一応、第一部のパネリストとしての出演が控えているのにあまりの天気の良さに昼間からビールを飲んでしまい、正しく「サボりながら」セーフティネットやベーシックインカムについて話す。「いらない仕事???」と題された第二部では、駐車監視員やキャバクラのボーイ、NPO職員、介助、IT、アパレルなど様々な分野で働く当事者の発言を受けての大ラウンドテーブル。そのうちに会場の飲酒率はどんどん上がっていき、9時半頃に集会を終えた後は、みんなで渋谷の「宮下公園」になだれ込んで打ち上げに突入。ちなみに「ナイキ化」計画がブチ上げられた宮下公園では現在、「ナイキ化」に反対する人たちがテントを張って泊まり込み、事実上「スクオッティング」状態にあるようで素晴らしいことになっていた。都会のど真ん中に、突如として手作りの「解放区」ができているのだ。そんな奇跡のような場で、全国各地から集まった各地インディーズ系(独立系)メーデーの首謀者たちと語り合う。ちなみに全国のインディーズ系メーデー、今年も十カ所以上で開催されているようだが、実は私も全部は把握しきれていない。日本で一番くらいに「全国インディーズメーデー」に詳しいはずの私も全部を把握できないほどにメーデーは増殖し、そして各地で「定着」しているのである。これはすごいことではないだろうか。
さて、その翌日の3日はとうとうデモだ。今回のメーデーにはフランスのテレビ局の取材が入っていて、新宿中央公園でインタビューを受けた後に出発場所へ。デモ前の集会で、私は昨年のメーデーの際に来日してくれた韓国の「ソウル西部非正規労働センター」からの連帯メッセージを読み上げる。その後、福岡やつくば、広島などでメーデーをブチ上げた人々からアピール。そんな人たちに混じって挨拶したのは、たくさんのSPに囲まれた社民党党首・福島みずほさん。というか、07年頃からこのメーデーに参加している福島さんは気がつけば今年、「大臣」となっての参加である。福島さんの登場は、「棄民」たちのメーデーに大臣が来る、という不思議なねじれを演出してくれたのだった
そうして午後5時半、デモ隊はサウンドカーを先頭に新宿中央公園を出発!
恒例の「よこせ」コールを始めると、みんなが一斉に雄叫びを上げる。そうして私たちはひたすら叫んだ。「早起き反対!」「残業反対!」「労働反対!」「会社反対!」「社会人反対!」「セクハラ反対!」「パワハラ反対!」「就活反対!」「のんきに生きるぞ!」「会社爆発!」「バイト逃亡!」「家賃滞納!」「内定取り消し!」「年中休業!」「週休七日!」「時給100倍!」「プレカリアートは眠いぞ!」「プレカリアートは職場で寝るぞ!」「プレカリアートは平日昼間にウロウロするぞ!」「プレカリアートは昼間から酒を飲むぞ!」「鳩山はおこづかいをくれ!」。
今回のデモは二本立てで、最初の解散地は新宿西口だったのだが、西口の地下道から地上と続く坂道をサウンドカーを先頭にデモ隊が踊りまくりながら上っていく様は圧巻だった。まさに「無数の棄民が地下から地上へ這い出る」瞬間だ。路上芸術、集団芸術。しかもデモ隊後方には「パンドラの箱」(途中から煙を出したらしい)。プラカードや横断幕にに踊る言葉たちは「棄民逆襲」「学費が高すぎる!」「私も人間です」「病気になったらアウト」などなど。
そうして西口で一旦解散した後は、ダッシュで「アルタ前」に集合。もう一度ここからデモを始めるのである。なんのために二本立て? それは私もわからない。だけど勢いづいた私たちをもう誰も止められない。そうして「いうこときくよなやつらじゃないぞ!」というコールとともにボルテージ最高潮のデモ隊は再び出発!
ここからはあまり記憶がない。とにかく叫んで踊って暴れまくって「路上解放」しまくった、という断片的な記憶しかない。キャバクラ密集地では、キャバクラユニオンが「団体交渉に応じろ!」「給料払え!」と絶叫。
「パンドラの箱」、登場
今回思ったのは、この数年デモを繰り返してきたことによって、こういった取り組みが随分「定着」したということだ。沿道から手を振ってくれる人、飛び入り参加してくる人、私のことを知ってて「あ、ホントにデモしてる!」と驚く人。何か「メーデーに貧乏人が大暴れする」ことが「毎年の恒例行事」として認知され始めているのだ。それが「ああ、今年もまたメーデーに暇な貧乏人が騒いでるよ」という反応であっても、それはすごいことだ。だってそんな光景は、たった数年前の日本には存在すらしなかったものだからだ。もちろん、大きな労働組合なんかのデモはあったわけだが、本当に「生きさせろ!」「馬鹿にすんな!」「もう黙ってないぞ!」というような心からの叫びが炸裂するような、同時に「祝祭」の場でもあるようなデモが街頭に躍り出たのはここ最近のことだろう。
デモの後は、新宿中央公園に移動しての「公園飲み会」だ。買い出しの人たちが発泡酒やお菓子を手に戻ってくるたびに、プレカリアートたちの「酒と食料を巡る争奪戦」が起こる。そんな光景に同情したのか、ビールを差し入れしてくれるフランス人のテレビクルーたち。飲み会にはいつの間にか新宿中央公園の住民らしき人々も参加していて、「さっきのデモの時、すごいカッコ良かった」などとお褒めの言葉を頂く。また、メーデー首謀者たちと各地の情報もいろいろ交換。ショックだったのは、ある県にいるという20歳そこそこのカップルと2歳の子どもの家族ホームレスの話だった。このままホームレス生活が続けば、その子は学校に行くことができるのだろうか。また、「戸籍」とかはあるのだろうか。既に子連れホームレスは珍しい話ではない。
そうして深夜、帰るためにタクシーに乗ると、運転手さんに服装についてものすごく興味を持たれ、「ロリータ」について根掘り葉掘り聞かれた上に「そんな格好だけど仕事はしてるの?」などと個人的なことまでいろいろ聞かれ、更に「今日はなんのイベントだったの?」と聞いてきたので「メーデー」と言うとものすごく驚愕され、なぜか「まあ、悪いことしてるわけじゃないから、迷惑かけない程度に楽しめばいいよ」と励まされたのだった。
そうして、今年のメーデーは終わったのである。
松本さんと。ちなみにデモ中の写真はありません・・・。撮るの忘れた。
▼YouTubeにいろいろ動画が上がってるのでチェック!
自由と生存のメーデー 10 旗旗ver
自由と生存のメーデー1
100503_自由と生存のメーデー_2.mp4
自由と生存のメーデー3
自由と生存のメーデー2010 タモリコール直後
▼他にもいろいろ。
岩本太郎さんのブログ
ムキンポさんの写真
インディーズ系メーデー東京「棄民の逆襲〜パンドラの箱が開く」(PJnews)
「自由と生存のメーデー」新宿サウンドデモに350人(PJnews)
*
東京ではとびきりの晴天に恵まれた今年のメーデー・ウィーク。
毎年のことながら、コールやプラカードの文言の、
なんともいえないセンスがおかしくって、楽しい!
文中の「宮下公園ナイキ化」については、こちらに情報があります。
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雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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