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2012-04-25up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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メディアの罠
権力に加担する新聞・テレビの深層
(青木理、神保哲生、高田昌幸/産学社)
新聞やテレビの報道で、しばしば「国際競争力」なる言葉に出くわす。日本の企業に、あるいは教育界に対して、記者やキャスターが「現状のままではグローバルな競争に勝てない」などと警告するのである。自分たちの業界は新規参入に対する規制に守られていながら、他の業種に対しては「競争に勝ち抜け」なんて、よく言うよなあと思う。テレビで朗々と国際情勢を語るジャーナリストと、コスト削減のプレッシャーを受けながら、日々、技術の向上に精進している町工場の経営者や労働者と、どちらがグローバル経済にさらされているのか。そんな思いを拭いえないのである。
硬直した記者クラブ制度、お上からお墨付きをもらった途端に繰り出される金太郎飴のような報道、民に対する傲慢さと官に対するへりくだり……。マスメディアの活動に目を凝らせば、批判の種に事欠かない。しかし、マスメディア批判をした後は必ずと言っていいほど、徒労感を覚える。この国における「社会の公共財」たるジャーナリズムの不在を改めて痛感するからだ。
メディアに対する不信感が――とりわけ福島原発事故に関する「大本営発表」ぶり以降――私たちのなかで募っていくなか、その原因と信頼回復のための処方箋を示そうとするのが本書である。共同通信社勤務を経て独立した青木氏、AP通信社などでの記者歴をもつ神保氏、そして北海道新聞から現在は故郷である高知県の地元紙で新たに活動を開始した高田氏が、それぞれの経験を基に新聞・テレビの業界の現状について語りあう。
ことは単純ではない。権力の懐に入り込んで取材することと、それに取り込まれてしまうことの境界線はどこにあるのか。夜討ち朝駆け取材の現場を想像すれば、記者の日々の活動を簡単には批判できないはずだ。私たちは、マスメディアの企業体質と、地面を這うように活動する記者の存在を区別して考えるべきなのかもしれない。だからこそ、神保氏の持論「フリーでもやっていける能力のない人は組織ジャーナリズムの記者もすべきではない」は説得力がある。
クロスオーナーシップ(同一資本が新聞、テレビ、ラジオなど複数にまたがる業種のオーナーになること)に見られる、新聞とテレビががっちりスクラムを組んだ高コスト体質の業界は今後ももつのだろうか。たとえば青木氏の「大手の新聞社やテレビ局は一度潰れた方がいいのかもしれない」という言葉は創造的破壊を期待したものと思うのだが。
マスメディアが世間から厳しい批判を浴びるのは、多くの人々が真のジャーナリズムを渇望していることの表れだろう。マスメディアの経営陣の方々には、そのことをぜひ知っていただきたい。そうすれば自分たちの目を向ける相手は誰なのかがわかるはずだから。
(芳地隆之)
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