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2012-04-04up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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限界集落の真実――過疎の村は消えるか?
(山下祐介/ちくま新書)著者は、少子高齢化で集落が消滅した事例はないという。集団移転事業、公共工事、廃鉱による廃村、自然災害による分散転居など人為的あるいは自然条件によるものが原因か、あるいは地場産業が国際的な市場経済の波を受けて衰退していってしまった結果であるケースの方が多い。狩猟採集や農耕を基盤とした集落の経済が、効率が悪いと切り捨ての対象のように言われ始めたのは、グローバル経済が日本に浸透してきた10年ほど前からである。
とはいえ、地方における過疎化は深刻だ。人口はいまも首都圏、中部経済圏、関西地域に集中しており、地方が大都市に従属する構造は変わっていない。その典型的なかたちのひとつは原子力発電所の立地だろう。長く弘前大学で教鞭をとってきた著者は、地元青森県の下北半島にも足を運び、過疎と原発に挟まれた現状をつぶさに調査する。ただし本書の主眼はそうした構造を告発することにあるのではない。「今回の震災では『原子力ムラ』などという言い方もなされているが、むらは必ずしも閉鎖的ではない。この使用法には、地方への蔑視も入り込んでいるようなので、避けた方が良いかもしれない」と記しているように、「むら」に住む人々が主役となる集落再生の道を模索するのである。
いまは都会で暮らしていても、いつかはふるさとへ、と思っている人は少なくないだろう。それにはふるさとに家産があることも大きい。農地や山林などの財産、あるいは漁業権などの権利があることはUターンのための重要な要素だと著者は指摘する。
現在、人口が集中している大都市では子供の出生率が低下しており、今後、急速に高齢化が進むだろう。とすれば、限界集落の問題は地方のそれではなく、日本全体にとっての課題であるはずだ。ただし、それを克服すべく実際に動くのは国ではない。
「暮らしのことを一緒に考え、暮らしの側から社会を変えていく力になるのは、やはり市町村などの基礎自治体である。県や国が、集落にとって全く外側に位置するのに対し、基礎自治体だけが唯一、暮らしの側から発想し、集落とともにものを考え、実践できる、身内としての上位主体である。言い換えれば、暮らしや集落の側からすれば、最も身近な公であり、クニだといえよう」
限界集落について、マスメディアの扇動的な報道の過ちを指摘し、現状を正しく伝えようと努め、未来を展望する。堅実な本だ。
(芳地隆之)
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