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2012-02-01up
沖縄県宜野湾市の米軍普天間基地を「最低でも県外」へ移設するとした鳩山政権、福島第一原発事故の教訓を重視して「脱原発」の方向性を打ち出した菅政権。2009年の政権交代後に登場した2つの政権は、その主張が与野党、財界、マスメディアなどからの異常なまでのバッシングを招いて倒れた、と著者は見る。
福島は自らが使用しない電力を、リスクを負って首都圏へと供給し、沖縄は国家の安全保障に関わる過剰な負担を背負ってきた。福島(これは国内に原発が立地されている地方という広い意味で使われている)と沖縄の犠牲の上に成り立つシステムを変えることへの反発はかくも強い。政権交代によって明らかになったことのひとつである。
原子力事業はこれまでほとんどアンタッチャブルに進められてきた。沖縄では米軍基地は憲法すら優越する存在として君臨している。しかし、福島には放射能汚染、沖縄には戦闘機の轟音と墜落の危険性を甘受してほしい、とあからさまには言えない。だから、福島原発の事故現場で働く人々(その多くは東京電力の子会社・孫会社を通して集められた非正規労働者だ)を英雄視したり、大震災と津波を我欲にまみれた日本人に対する天罰だなどという発言が出たりする。沖縄には国の防衛への貢献を感謝する。これらは原発労働者や東北の被災者、沖縄県民が大多数の国民に代わって苦難を引き受けてくれたという論理であり、著者が『靖国問題』(ちくま新書)で指摘した、国のために殉死した英霊というそれと似ている。
本書で著者は自身が生まれ育った福島県の、住民たちが避難した跡地を歩き、原発事故で私たちが負うべき責任について考察する。積極的に原発に反対してこなかった自分も免責しない。そして過去の震災で何が起きたのか、敗戦後の日本が沖縄をどう位置付けたのかにまで遡る。読み始めは散漫な印象を否めなかったが、対象を様々な角度から照射していくことによって、少数者の犠牲の上に成り立つこの国の相貌が明らかになってくる。
いっそのこと米軍基地も原発も東京に集めてしまえばとさえ思う(広瀬隆氏『東京に原発を!』〔集英社文庫〕のように)。政治、経済、金融などこの国の主要な機能はすべて東京に集中しているのだから。
戦後の日本は原子力発電所と米軍基地を置くため国内に植民地をつくることで、問題を私たちの視界から外してきた。私たちの生活がいかなる犠牲の上に営まれているのか。まずはそれを見つめるところから始めたい。
(芳地隆之)
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