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2012-01-18up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.187

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ひまわり

(1970年イタリア/ヴィットリオ・デ・シーカ監督)

 昨年末、デジタルリマスター版が劇場公開されたのを機に、およそ30年ぶりに再見した。懐かしいテーマ音楽とともに、当時の記憶が掘り起こされつつも、初めて見たときにはあまり気に留めなかったところもあった。

 ひとつは主人公、ジョバンナを演じるソフィア・ローレンの自分の感情をストレートにぶつける姿だ。それは彼女の意志の強さの表れでもある。ロシア戦線へ出征したまま、行方知れずになった夫、マルチェロ・マストロヤンニ演じるアントニオの生存を信じるジョバンナは、戦争が終わって20年以上が過ぎたある日、ソ連行きを実現させる。

 もうひとつはソ連でのロケだ。広大なひまわり畑はヨーロッパで撮影したそうだが、冷戦の真っただ中、当時のモスクワの映像には強いインパクトがある。赤の広場周辺を歩くジョバンナがすっかり町に溶け込んでいることにも驚いた。

 ジョバンナはアントニオと再会する。アントニオにはロシア人の妻があり、娘もいた。ジョバンナはその場を立ち去る。彼女を追ってアントニオはイタリアの地を再び踏むが、ジョバンナは夫の不実をなじる。だが、ジョバンナはアントニオがいた過酷な冬将軍に襲われる戦場を知らない。敵国兵であるアントニオの命を必死になって救ったロシア人女性の献身も知らない。

 誰が罪を犯したわけでもないのに、登場人物たちの抱える悲しみは深くなっていく。平和な時代だからこそ、戦争の傷は見えにくく、孤独感だけが増す。戦争はそれが終わってから20年以上の歳月を経ても、人間の心を苦しめるのである。

 『ひまわり』を最初に見たとき、ソフィア・ローレンが苦手だった。自分の知る国内外の女優とは、その風貌や容姿があまりに違うからだった。それゆえあまり感情移入ができなかったことを覚えている。

 ところが、今回は違った。ソ連に帰るアントニオをミラノの駅のホームで見送る、白髪の目立った彼女の内面はいかばかりか。そんな思いが何度も胸をよぎった。こちらが少しは大人になったせいか。

 情感を込めた演出はデ・シーカ監督にふさわしくない気もするが、監督は「戦争の悲劇はその場では終わらない」ことをできるだけ多くの観客に伝えたかったのではないか。 物語を貫く普遍的なテーマを、ヘンリー・マンシーニの音楽とともに味わってほしい。

(芳地隆之)

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