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2012-02-08up
マガ9レビュー
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ペーパーバード 幸せは翼にのって
(2010年スペイン/エミリオ・アラゴン監督)舞台はマドリード。1936年2月にスペイン総選挙における僅差の勝利で誕生した共和国政権に対して、フランコ将軍率いる反乱軍がクーデタを起こし、国は内戦状態にあった。
スペイン内戦は、フランコに肩入れするヒトラーとムソリーニの独伊ファッショ政権、共和国を支援するため各国から集まった義勇兵による国際旅団、そしてスペインへの影響力を保持しようとする国際的共産党組織(ソ連が実質的に支配するコミンテルン)などの勢力が入り乱れ、複雑な様相を呈していた。
町の一座の喜劇役者であるホルヘは、反乱軍の爆撃で最愛の妻と息子を失った。その後、行方をくらまし、1年後に一座に戻る。その間、何をしていたか、彼は何も語らない。ただ、ホルヘの表情には深い悲しみが刻まれていた。
共和国は崩壊し、スペインはフランコ独裁下にあった。
ホルヘは妻子の命を奪ったフランコへの憎しみを忘れることなく、彼の相方であるエンリケとともに役者の仕事を全うしようとする。そこへ身寄りのない少年ミゲルが加わる。少年には芸人の両親がいたが、父親は戦争で亡くなった。母親は精神に異常をきたし病院に収容されている。少年に息子の面影をみるホルヘは、当初ミゲルを遠ざけていたが、やがて3人でコントをつくるようになる。微笑ましい舞台、厳しい時代――。
物語に波風が起こるのは、一座がフランコ将軍の前でヴォードヴィルをするよう命じられてからだ。一座の人間にフランコを支持する者はいない。この機会を利用して独裁者を暗殺しようという団員もでてくる。
一座の舞台はどのように進行するのか。俄然緊張感を帯びる終盤には、ミステリ小説ばりの展開が待っている。手に汗を握りながら、私たちはホルヘ、エンリケ、ミゲルの動きを追う。
主役のホルヘを演じるイマノル・アリアスがいい。普段の仏頂面と舞台の上で魅せる道化役のギャップに、喜劇役者の悲哀と矜持が感じられる。いや、登場人物たちの誰もが印象深い。優しい性格が顔に滲み出るエンリケ、痔に悩む陽気なロートル女性歌手ロシオ、母親を思いつつホルヘを父親のように慕うようになる少年ミゲル。フランコ将軍の下にいる大尉や、密偵として一座に潜入する兵士も単純な悪役ではない。
人生の濃淡は大きい。退屈で冗長な10年間もあれば、その後の人生を決定づけしてしまう数カ月間もある。この映画のラストは、ほんのわずかな月日が人生に大きな影響を与えることを私たちに教えてくれる。
(芳地隆之)
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