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2011-12-28up
社団法人国際演劇協会日本センターは、私たちの日常生活ではなかなか視界に入ってこない国や地域の芝居を発掘し、朗読のかたちで紹介している。演劇を通して国際交流を図る同センターの活動のひとつだ。
つい最近では「紛争地域から生まれた演劇シリーズ3」と銘打って、『ボイラーマンの妻』(中国の文化大革命を時代背景とした愛憎劇)、『罠』(カメルーンの劇作家が描くアフリカの架空の国で起こった政治の混迷)、『ナパジ・ナパジ』(1950年代にオーストラリアの砂漠で行われた英国による核実験で被ばくした先住民の物語)の本邦初訳が披露された。
今回の「ドラマリーディング ドイツ編」は、日本と国の規模や政治体制、経済システムが比較的近いドイツの現在を、様々な角度から切り取った短編戯曲の紹介である。日本との違いよりも、共通点=同時代性を感じさせる作品が多い。
しかし、ドイツの現代演劇は一筋縄ではいかない。最初の上演である『画の描写』(ハイナー・ミュラー作)と『言葉のない世界』(デーア・ローアー作)は、難解極まりないものだった。前者は、ブルガリアの女子中学生が描いた舞台のスケッチを作者が描写するのだが、30分近くに及ぶテクストにはピリオドがなく、間断なく文章が続く。後者は、アフガニスタンの地に立った作者の経験を基に綴ったモノローグ。語り手の想念が現実と入り組むような構成だ。
両作品とも一字一句読み取ろうとすると、頭が混乱する。言葉を意味ではなく、音として聞こうとしたら、それらは不協和音を奏でながら、音楽のように響いてきた。劇場に集う観客は、同じ言葉を聞きながら、各自違ったイメージを膨らませることだろう。
一方、最後の上演となった『氷の下』(ファルク・リヒター作)は、株主重視、労働者軽視の経営に傾斜するドイツ企業に勤める中年男性の怒りや悲しみを、ユーモアやアイロニーに満ちた演出によって見せ、聴かせる。舞台の朗読者はみなiPadを手にすることで、比較的自由になった自分の身体を巧みに動かし、言葉の世界を具象化させていた。
こぢんまりした空間で繰り広げられる朗読劇。派手な物語ではないが、世界を知るためのささやかなツールとして大切にしたい。
なお、来年2月にはドイツ同時代演劇リーディングシリーズのひとつとして『HIKIKOMORI』なる作品が、東京のドイツ文化会館で上演される予定である。
(芳地隆之)
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