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2011-10-19up

マガ9レビュー

本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.179

エンディングノート

(現在公開中/監督:砂田麻美、製作・プロデューサー:是枝裕和)

 愛聴しているラジオ番組でパーソナリティの小島慶子さんが絶賛していたのを聞いたと思ったら、毎日いちどはのぞく「ほぼ日」で糸井重里さんもほめている。こりゃ見なきゃということで見たら、あらま、それはそれはステキな映画でした。

 ここで描かれているのは、突然がんを告知された男性が亡くなるまでのあれこれ。タイトルどおりエンディングノートをつくり、末期の“to doリスト”を着々とこなしていく。でも、これがぜんぜん暗くない。ていうか、笑える。もちろん泣ける。ぼろぼろ泣けちゃうんだけど、今回その部分は割愛。

 まず笑えるのが、主人公である砂田知昭さんのキャラクター。一流企業の役員まで勤め上げた熱血サラリーマンなのだが、ユーモアがある。一方で「段取り」が命の方だから、その方面ではいたってマジメ。で、そのマジメさすら、なんか笑えたりする。

 次に笑えるのがナレーション。(たぶん)映画の監督であり、主人公の娘である砂田麻美さんが、父親のモノローグを語っている。最初はそのアンバランスさ(だって、おっさんのモノローグがとぼけた女性の声なんだもん!)にとまどうのだが、なんだか最後には、どういうわけか、うん、これでいいのだと思えてしまう。

 公式ウェブサイトをみると、この映画には「エンターテインメントドキュメント」という枕詞がついている。あれ、この感じ、最近どっかで見たぞ。そうそう、只今ベストセラー街道ばく進中の「困ってるひと」(by 大野更紗さん)は、「エンタメ・ノンフィクション」と謳っていた。

 両者に冠された、この「エンターテインメント」という言葉。ひらたく言えば、たぶん、笑えるってことなんだろう。そこにあるのは、伝えたいという強い思い。死とか、難病とか、もちろんシリアスにだって伝えられると思うんだけど、笑えれば、もっと伝わる、もっと広がる。

 でもさ、笑わせるという行為は、対象を客体化しなければできない。家族や自分自身を客観的に見つめる目が必要となってくるのだが、それってかなりむずかしいことですよね。ところがこの若い2人の女性には、それがなぜだか身についてる。だからどちらもサイコーにおもしろい。

 映画を見終わったとき、中島岳志さんが大野更紗さんに対して発した「徹底的に自己に対峙している言葉は開かれる」ということばを思い出した。この映画の主人公である砂田知昭さんも、徹底的に自己と対峙していた。その態度が、娘である砂田麻美さんの手によって結実し、このステキな映像作品が誕生したのだ。

 まあとにかく見たほうがいいですよ。素直にこんなことが言える映画なんて、年に何本もあるもんじゃない。ドキュメンタリーなんだけど、ぜんぜん肩肘はってないから、ドキュメンタリーはちょっと…と敬遠していたあなたにこそ見てほしいかも。だって、ドキュメンタリーが好きな人は見るに決まってるしね。

(山下太郎)

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