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2011-10-26up
1980年代の日本の小劇場では「核戦争後の世界」という設定の物語がいくつも上演された。すべてが終わってしまった跡に立つ登場人物たち。その存在の軽さが「明るい虚無」などと表されていたが、私は安易な舞台設定に辟易した記憶がある。ただ、あれから30年近く、放射能が大気に放出され続ける現代の日本にいると、あの頃の近未来の物語に現実が近づいたのかとも思う。
当時の小劇場に多大な影響を与えたのが本作品である。舞台は2019年・ロスアンゼルス。地球環境の汚染が深刻化したため生存圏を地球外に広げるべく、人類はレプリカント(人造人間)を使って宇宙開拓を進めていた。しかし、奴隷的な酷使に堪りかねたレプリカントたちが反乱を起こし、地球へ舞い戻る。
彼らの始末を任されるのが元専門捜査官「ブレードランナー」のデッカードだ。(酸性雨のような、あるいは放射能を含んだような)雨が降り続ける陰鬱な都市で繰り広げられる追跡劇。並外れた能力を有するレプリカントを前に、デッカードは何度か命を落としそうになるが、その都度、彼を救うのもレプリカントであった。
レプリカントの寿命はわずか4年。その間に様々な感情が生まれ、あるはずのない幼い頃の記憶までインプットされる。だからレプリカントは葛藤する。自分は何者なのか? 彼らを作り出した人間以上にヒューマンなその姿に、私たちはシンパシーを抱く。
空飛ぶ自動車が行き交うビル群の電飾広告にゲイシャが微笑む強力わかもとのコマーシャルが映し出されたり、屋台のうどん屋の親父がデッカードに日本語で話しかけたり、町の広告が日本語だったり………。リドリー・スコットの抱く近未来のイメージは、現代の日本に重なるところが多い。
この映画が1982年に劇場公開された時、不入りで早々に打ち切られた。『スターウォーズ』のような宇宙を舞台にした冒険活劇を期待した観客には、あまりに暗い世界だったのだろう。しかしその後、口コミなどでじわじわと評価が高まり、1992年にディレクターズ・カットが、2007年には最新のデジタル処理が施されたファイナル・カットが劇場公開される。
すでに初回版やディレクターズ・カットをご覧になった方も多いだろう。だが、鮮明な映像によるファイナル・カットもぜひ見てほしい。『ブレードランナー』の世界が今もまったく色褪せていないことに驚くだろうから。
(芳地隆之)
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