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2011-08-31up
作家、音楽家、ジャーナリスト、美術家、学者、農業従事者、経済人、政治家ら、様々な職業人が、日本が脱原発社会を実現するための提言を寄せたのが本書である。
こうした形式は、各自の文章が並列的に羅列されることで、読者に散漫な印象を与えることおそれがある。が、そうはならなかった。半世紀以上をかけて築き上げられてきた原子力産業は、それを取り巻く各界の利害が複雑に絡み合っているがゆえに、経済の問題として、科学の問題として、政治の問題として、哲学の問題として論じられなければならない。議論が原子力発電所の閉鎖の是非に留まらないのは、この問題が私たちに、これまでの生き方に対する反省を促し、未来に向けた新しい生活を志向させるからだ。だからこれだけの多彩な執筆陣が必要だった。
私たちの社会に深く根差した難問に、最初に切り込むのは作家、池澤夏樹氏である。彼の論考(「昔、原発というものがあった」)は、詩人の目と、物理学の徒としての目(池澤氏は大学で物理学を専攻していた)によって、クリアすべき課題に照準を合わせる。それによって、読者は一気にこの本の世界に入っていけるのである。
保坂展人・世田谷区長は、「脱原発はもはや政治的なテーマではない」とのタイトルを掲げ、長い年月をかけて「原発推進は国策であるから正しい。脱原発は反体制であるからよくない」という刷り込みが行われてきたことを指摘し、今はそのような空論ではなく、極めて具体的な議論が求められていると説く。
とはいえ、福島第一原発事故に収束の兆しが見えないなか、北海道の泊原発が再稼働してしまうような現状を前に、私たちは——長年原発の危険性を訴えてきた編集者・ライターの鈴木耕氏が本書で記すように(「私が雨を嫌いになったわけ」)――明るい未来を安直に語ることはできないだろう。30の提言を咀嚼し、自分の持ち場で何ができるのかを模索するしかない、とも思う。
ただ、その先に「高層マンションではなく、屋根にソーラーパネルを載せた家。そんなに遠くない職場とすぐ近くの畑の野菜。背景に見えている風車。アレグロではなく、モデラートカンタービレの日々」(池澤氏)を思い浮かべる想像力だけはもっておきたい。
それが本書の発信する希望といえる。
(芳地隆之)
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