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2011-08-10up
タイトルは「祝(ほうり)の島」と読む。「祝」という語は古代以来の神職の名称に由来し、いまもそれに因んだ祭りが毎年行われている。瀬戸内海の穏やかな凪のなかに浮かぶ、山口県上関町の祝島(いわいじま)。対岸の島で進められようとしている中国電力の原発電建設計画に反対する島民を描いたドキュメンタリーだ。
前半は島で生活する人々の日々の生業が丁寧に映し出される。鯛の一本釣りをする70代の漁師、蛸を割いて港に干すおばあさん、海辺でウニやひじきを捕る島唯一の女性漁師、山間地では農民が棚田に稲を植え、放牧する豚を愛でるように飼育する。島の人々の生活は海と山に分かちがたく結びついている。だから汚染された温排水を海に垂れ流すような原発には反対なのだ。
後半、電力会社の建設現場に抗議すべく、多くの漁船が対岸の島近くへ集結するところから、映画は「静」から「動」に転じる。能面のように表情を変えない電力会社の関係者と、自然の大切さを訴える島民たちの怒りの表情は対照的だ。反原発デモはこの計画が持ち上がった1982年以来続いている。
とはいえ島民全員が原発建設に反対しているわけではない。この映画に原発推進派の住民がほとんど登場しないのは、取材に応じなかったからだろう。島の小学生の生徒が3人という過疎化が進む人口約500人の島の住民にとって、原発建設によって受け取る10億円規模の補助金は目が眩むような額だ。
金がほしければ、尊厳(労働の誇り)を売れという原発誘致の構図が見える。アメとムチのやり方が「むかしは仲が良かった」島民を原発賛成と反対の真っ二つに割り、「心をずたずたに」してしまった(島の女性の言葉)。
映画の冒頭、原発誘致の是非を問う町議会で、ある議員が語る。
「私は命をかけて原発に反対している。(推進派である)あなた方も原発に賛成ならば、命をかけて賛成してほしい」
福島第一原発事故を島の人々はどんな思いで見ているのだろうか。現在、祝島では「自然エネルギー100%プロジェクト」が進行中である。
(芳地隆之)
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