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2011-04-27up
マガ9レビュー
本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。
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私たちはいまどこにいるのか
小熊英二時評集
(小熊英二/毎日新聞社)
日本の近現代史に対する著者の目は、対象を100年単位のなかに置いて、その意味を明らかにする鳥瞰と、細部を丁寧に語る魚眼の両方を併せもっている。『単一民族神話の起源』『日本人の境界』『<民主>と<愛国>』『1968』などの著作は、膨大な資料を読み込み、歴史に新たな意味づけをして息を吹き返させる仕事だった。本書はこれら重厚な作品とは異なる、1997~2011年にかけて雑誌や新聞に発表された寄稿やインタビュー記事などをまとめたものである。
テーマは靖国参拝、在日米軍、ワーキングプア、選挙民の意識など多岐にわたる。だが、それらを通して読むと、問題の根っこには常にナショナリズムが絡んでいるように思える。ナショナリズムそれ自体の問題ではない。私たちに欠如しているものとしてのナショナリズムだ。
国民が方向性を見失ったとき、立ち返るべき原理といえばいいだろうか。フランスであれば、「自由・平等・友愛」。この理念を尊重し、フランス語を語り、そこに生活する者は、どのような出自であっても「フランス国民」として認められる。アメリカであれば自由と民主主義が国の成り立ちの基盤だろう。ところが日本には、そうした意味でのナショナリズムがない。だから著者が言うように、
「……日本の保守派に建国の理念を憲法素案や教育基本法に書いてくださいといっても材料が何もない。だから、家族とか伝統とか公益としか書けない」のである。そして、その行き着くところは「お上の言うことを聞け」という、実も蓋もない話だ。
「新しい歴史教科書を作る会」にしても、このグループは反左翼の一点でまとまっているだけで、国家の原理的なものを求める運動ではなかった。しかも彼らのイメージする「左翼」像は漠然としたものだから、組織は容易に四分五裂してしまう。
雨宮処凛さんとの対談では、互いの距離が徐々に近づいていく過程が面白かった。若者の生きづらさについて、著者は別の章でこう語る。
「いまの五〇代以下の、つまりいまの若者たちの親の世代の『大人たち』の多くは、貧困も戦争も飢餓も経験せず、受験勉強を勝ち抜いて経済成長のなかでひたすら会社で働き、消費やレジャーで気を紛らわす人生しか知らない人々です。そういう『大人たち』がつくった社会でしか生きたことがない若者が、想像力の幅が狭くなりがちなのは当然でしょう」
著者は当たり前のように使われるイデオロギー的な言説を、歴史のなかに位置づけ、その誤解を解いてみせる。それによって私たちは自分たちの立ち位置を確認できるのである。
(芳地隆之)
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