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2011-05-18up
先日、マガジン9編集部のメンバーと朝日新聞の連載漫画『地球防衛家の人々』の話題で盛り上がった。同じ著者でありながら、本書は『地球防衛家~』のギャグ、ユーモア、ペーソスとは無縁の終末感の漂う作品である。
日本が水没する話だ。
延々と降り続ける雨。雷雨や暴風雨ではない。しとしとと止まない雨が東京の水位を上げていく。
自社の「ケロリ歯磨き」販促キャンペーンとして「方舟世界旅行」を企画したサラリーマンは笑いが止まらない。長い雨に不安を覚えた消費者が「ケロリ歯磨き」に殺到したからだ。これで次のボーナスの大幅アップは間違いない。彼は忙しくて泊り込んでいる会社から妻に電話をかける。「この雨が止んだら旅行に行こう」と。
だが、雨は一向にやむ気配がない。
やがて人々は我先に方舟へと、制止する「ケロリ歯磨き」社員を突き飛ばして乗り込もうとする。「いずれ日常が戻ってくるさ」とたかをくくっていた男性は、高層マンションに住む自分の足元にまで迫る水を見て立ちすくむ。「俺の人生は何だったのか」と取り乱す初老の夫と「仕方がないじゃない」と諦観する妻。筏に乗って漂流を続ける若い恋人、水没した東京から田舎へ帰ってきた息子たちを歓迎する過疎の町の老人たち……。
黙示録のような世界を、著者はあのひょろひょろした独特のタッチで描いていく。落書きのようにも見える著者のペンはとても繊細だ。もし物語が劇画調に描かれていたら、「この世の終わり」は別世界の話のように映ってしまったことだろう。
発表は2000年。引っ越しの準備で本棚を整理していた際に手に取り、読み直したのが今年の3月12日。東日本大震災の翌日だった。想像を絶する震災の映像に接しながらページを繰っていた私は、段々と鬱に近い状態になっていった。
正直、いまここで紹介することが憚られる。でも「自粛」はしないことにした。しりあがり寿漫画の奥深さを知るには絶好の作品だと思うからだ。
(芳地隆之)
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