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2010-07-28up
マガ9レビュー
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戦場でワルツを
2008年イスラエル・フランス・ドイツ・米国/アリ・フォルマン監督動画と写真をコラージュしたような本作品の映像は、スタジオジブリの繊細なアニメを見慣れている日本人に強い違和感を抱かせるのではないだろうか。舞台が戦火の中東ならば、なおさらである。
物語はアリ・フォルマン監督の分身である主人公の記憶を遡る旅だ。
1982年、イスラエル軍が隣国、レバノンに侵攻。PLO(パレスチナ解放機構)の拠点がある西ベイルートを攻撃する。駐車している乗用車を次々に踏み潰し、住宅の一角や入口を破壊しながら我が物顔で進むイスラエル軍の戦車は、私たちがときおりニュースで見る映像よりもリアルに迫ってくる。
この作戦に参加していたアリには、なぜか侵攻時の記憶が欠落していた。その空白を埋めるべく、彼はテルアビブに住む当時の戦友や従軍レポーター、さらにはオランダでビジネスを成功させたかつての仲間を訪ね歩く。
彼らの記憶のピースを組み合わせていくことで見えてくるのは、内戦下のレバノンで行われていたパレスチナ人非戦闘員の殺害である。
本作品の原題「Waltz with Bashir」のBashirとは、レバノンの親イスラエル派、ファランヘ党の党首、バシール・ジェマイエルのことだ。イスラエルはバシールに軍事的な肩入れをし、レバノンをイスラエルの友好国にしようと画策する。しかし、バシールは暗殺。その報復としてファランヘ党がパレスチナ難民の大量虐殺を行うのを、イスラエル軍は間接的に支援したのである。
自分も虐殺に加担したことを認識したアリの記憶は、最後に、実写フィルムとして映し出される。瓦礫と化したレバノンのパレスチナ人難民キャンプで折り重なるように横たわる死体の数々……。
なぜ監督はアニメーションという手法をとったのか。ドキュメンタリーでも、フィクションでも、この戦争の本質には迫りきれないと考えたのではないか。
中東は現在も戦時下にあると言っていい。フォルマン監督には、イスラエルのいまを掘り下げるような作品をつくってほしい。
挿入される音楽は、皮肉がたっぷり効いている。歌詞は観る者を挑発し、冷笑を浴びせ、ときに奇妙な明るさも演出する。見終わった後、サウンドトラックをじっくり聴きたくなった。
(芳地隆之)
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