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2010-08-11up
瑞々しい装幀だ。沖縄の自然や町の織りなす色彩をアレンジしたタイトル文字、手触りのいい紙質。作り手の沖縄への愛情が伝わってくる。重いテーマを扱っているにもかかわらず、読み終えたいまも、最初に手にとったときの印象は変わらない。
著者は30年近くにわたって沖縄を訪問し続けている。本島から足を伸ばして渡った島の数も多い。
本書は「沖縄が、ただならぬ声を発しはじめている」との一行から始まる。この間、私たちは、普天間基地問題を巡る日本政府の迷走、それを腕組みしながら無言の圧力をかける米国政府の傲慢、そして問題の本質を伝えようとしない本土マスコミの偽善などを見せつけられてきた。
マガ9でのコラムやインタビュー記事などから、著者の並々ならぬ沖縄へ思い入れを知る身としては、初っ端から、この地が強いられている現状への激しい批判が展開されるのではないかと予想していた。ところが文章全体は抑制が効いている。
「第1章沖縄を思う」で著者は、「定年後の趣味」となった散歩で訪れた自宅近くの「旧関東村」から話を始める。かつて米軍基地があったここは「関東村」と呼ばれていたが、返還後は教育施設やスポーツスタジアム、公園など、人々が集う場所となった。その変わりようを、著者はゆっくり歩きながら、自分の目で確かめる。そして、その記述は、沖縄での戦争、戦後の反基地闘争の歴史(「第2章沖縄に返せ」「第3章沖縄を歩く」)、大田昌秀元沖縄県知事をはじめとする行政の人々や現地ジャーナリストの声(「第4章沖縄に訊く」「第5章沖縄を伝える」)と読み進み、「第6章沖縄に創る」に至って、俄然、生きてくるのである。
この章で著者は自らの沖縄医療特区構想を披露する。米軍が撤退した後、米軍が落とす金や政府の補助金で成り立っていた地域経済をどうするのか? そんな反論も想定してのことだろう。自然豊かなこの地に高度な医療施設をつくって、世界のVIPも招へいし、たくさんお金を使ってもらおうというのである。井上ひさしさんの小説「吉里吉里人」をヒントにしたというこの構想を、著者は「妄想」と断っているが、折しも「医療ツーリズム」が関心を集めている現在、「妄想」が「先見性」へ転じないとも限らない。旧関東村のいまを知った私たちは、米軍基地なき沖縄のイメージを具体的に思い描けるのである。
「第7章沖縄を読む」ではお勧めの沖縄に関する本が紹介される。学術書、小説、ルポルタージュ、エッセイとジャンルは幅広く、文献渉猟、フィールドワーク、インタビューなど、様々なアプローチで、沖縄のいまに迫ろうとする著者の姿勢を思わせる。ただし、本書が問う相手は、問題を沖縄に任せきりにしてきた私たち本土の人間である。著者がこれほどまでに沖縄に拘るのは、それが日本全体の問題であると認識しているからだ。
(芳地隆之)
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