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2010-07-21up
日本では、保守を自認する政治家に限って、米国の政策に無批判に同調したり、頑迷なナショナリストほど無邪気に親米的な態度を示したりすることがある。本書は、米国立公文書館に保管されていた数万ページにおよぶファイルをはじめとする膨大な資料・文献の読み込み、そして日米の多くの関係者へのインタビューを通して、その理由を解明する。読者は日本が情報面で米国によってほぼ丸裸にされているという事実に愕然とさせられる。
1200ページ近くにわたる本書から見えてくるのは、太平洋戦争前から始まった米国の巧みな対日情報工作だ。日本との戦争を不可避とみた米国は、国内の日系人を日本に送り込んで、情報を収集させた。
戦後はA級戦犯として巣鴨プリズンに投獄された右翼の大物である児玉誉士夫や笹川良一、満洲国の産業開発を担い、東条内閣では商工大臣を務めた岸信介らを起訴することなく、彼らの強烈な反共意識と戦時中に構築した情報網を、対ソ、対中戦略に活用しようとした。
そのため、中国、ソ連との関係改善と独自外交を目指した鳩山一郎(鳩山由紀夫前首相の祖父)に対しては冷淡だった。日ソ国交樹立後のソ連による歯舞、色丹両島の返還に反対し、国後、択捉を含めた四島一括返還を要求するよう日本政府に迫ったのは、米国政府である。米国は、二島返還で日ソ両国が近づき、日本が米ソ中の間で独自の外交を展開することを強く警戒していた。
しかし、それは杞憂であった。日本はその後も米国にきわめて忠実な同盟国であり、冷戦が終わって20年以上を経た今日でも、永田町や霞が関には米国のエージェント的な役割を担う人物がいる。
ちなみに前述の日系人は、スパイ容疑で捕まって日本の憲兵に拷問されても、決して口を割らなかったという。一方、「生きて虜囚の辱めを受けず」と教育されてきた日本兵は、いったん捕虜になると、米兵が驚くほど、ぺらぺらと軍事機密を喋った。日本兵は、戦陣訓は徹底的に叩き込まれたが、負けたときにどう対処するかをまったく教えられていなかったのである。
情報に関する日米間の絶望的なまでに大きい非対称性。
米軍基地から通商に係る問題まで、日本の対米関係を考える際、私たちは本書に示された歴史と現実を認識することから始めなければならないのかもしれない。
(芳地隆之)
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