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'05-07-20UP |
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まえだ・てつお
軍事評論家、東京国際大学国際関係学部教授。 1938年生まれ。専門は軍事・安全保障論。
著書に『現代の戦争』(岩波書店)、『在日米軍基地の収支決算』(筑摩書房)、『カンボジアPKO従軍記』(毎日新聞社)ほか。
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私たちは「立派な憲法ですから守りましょう」というだけではなく、この憲法の条文を変えずにどのような安全保障を求めるか、安全な国民生活をつくることができるかということを、具体的に、つまり政策として考えなければならないと思います。
憲法を守る側からのオルタナティブ、もう一つの選択を国民の前に提示する。集団的自衛権の行使を認めたり、アメリカと組んでイラン戦争や朝鮮戦争を始めたりするのとどちらがいいのか、具体的に選択肢として有権者の前に出すのです。
いままでなぜこういったオルタナティブがなかったのか。それには、もっともな理由もあると思います。特に1950年代は鳩山内閣以降、自民党の改憲論がすごい圧力でしたから、それを防ぐのに精一杯だった。当時はとにかく改憲を阻止するというのは正しい戦略だったと思います。
ところが1960年を過ぎて池田内閣になると、自民党は経済優先で、憲法を変えるということを言わなくなった。自民党の綱領には書いてあるけれど、戦略目標は条文自体を変えることではなく、内実を変えるというところに置くようになり、裏でなし崩しの解釈改憲と既成事実を積み重ねていくようになったのです。その結果、いつの間にか自衛隊は世界で二番目に軍事費を使う軍隊になってしまい、気がついたらイラクまで行ってしまっています。
私の考えでは、いまの大きすぎる現在の自衛隊を三つに分割、縮小再編することが必要だと思います。
一つは、「国土警備隊」。
日本の領域について起こりうる主権侵害行為に対し、排除する最小限の力を持つ。これは警察と海上保安庁が主体となった程度の力でいいでしょう。
もう一つは、国内外の「災害救助隊」。
いま日本が国民生活で一番危険を感じているのは、地震であり、大津波であり、自然災害ですよね。そちらのほうが確率ははるかに大きい。それに対して有効で素早い救助能力を持った災害救助組織をつくり、海外の災害に対しても駆けつける。すでに自衛隊はその能力を持っているし、さらに消防、赤十字やボランティアが加わったものにしていきます。
もう一つは、国連の集団安全保障の機能を補完するような組織。
ただし国連にどういう形で協力するのかというのは、一番議論しなければならない問題です。なぜなら国連憲章には書かれてあるけれども、現実に集団安全保障としての国連軍はつくられたこともないし、いまもない。それに日本は国連に加盟するときに、「日本国憲法があるから軍事的協力はできない」ということを明言した上で加盟を認められている経緯もあります。
しかし国連が警察的な機能を果たすときに、日本にも憲法九条と矛盾なく協力できる分野が必ずあるはずです。輸送部門や医療部門はその一つですし、「国際緊急援助隊」のような形の中でできることは何か、もっと知恵を絞らなければなりません。
以上、大まかに自衛隊を三つぐらいに分割し、自衛隊の持つ攻撃的な兵器を削減・縮小していく方向に持っていくべきだと考えます。
いま再び改憲派が旗を持って攻めてくる中、1960年と2005年の状況で決定的に違うのは、戦争体験の世代です。1960年のときは学生・労働者も含めて、あの戦争はどんなものなのかを、自分や周りの体験から知っていた。そのシンボルが憲法九条、アンチのシンボルが安保。すごくはっきり見えていたけれど、いまはそれがないし期待もできない。九条改定の機運が高まるなか、九条を守れるかどうかは、いま護憲の側からいかに説得力のあるオルタナティブを出すかにかかっていると思います。 ↑アタマに戻る |
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