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2013-07-03up
森永卓郎の戦争と平和講座
第61回
非暴力不服従しかない
6月末に行われた参議院選挙を前にした新聞各紙の世論調査の結果が発表された。毎日新聞は、自民45%、民主8%、みんなの党7%、公明党6%、日本維新の会5%、共産党4%だった。朝日新聞をみても、自民44%、民主7%、日本維新の会7%、みんなの党7%、共産党5%、公明党4%と、結果はほぼ同様だ。自民党の一人勝ちということだ。
さすがにここまでくると、参議院選挙の結果はみえている。自民党によるやりたい放題の3年間がスタートするのだ。もちろん憲法改定への動きは加速するだろう。それだけではない。庶民増税、大企業・富裕層減税が進むとともに、限定正社員への解雇規制緩和によって容易にクビが切られるようになり、派遣労働者の期間制限撤廃で労働者の二極化が進む。ホワイトカラーエグゼンプションの導入で正社員の過重労働が推進される、TPPへの参加で、日本の農業が壊滅する。そして、地方交付税の圧縮で地方経済が壊滅的な打撃を受ける。小泉政権時代に生まれた日本の格差社会は、安倍政権によって超格差社会へと変貌するだろう。
リベラル勢力が壊滅状態に陥った最大の原因は、安倍政権が実現した景気回復だ。長引くデフレ不況のなかで庶民の暮らしは、相当追い詰められていた。実際、世論調査でも、政治への最大の要求は、景気回復だったのだ。にもかかわらず、民主党政権は財政と金融を同時に引き締めて、日本経済をさらなる苦境に追い込んでしまった。そこに加えて原発事故以降の自粛ブーム、厳しい節電、そして電気代の大幅引き上げだ。庶民が楽になりたいと思う気持ちは当然だろう。
ただ、私は庶民の大部分は、安倍政権がやろうとしている弱肉強食化の経済政策には反対なのだと思う。アベノミクスの第三の矢の本質に気付いていないだけだ。成長戦略という名前に誤魔化されて、それが成長の成果を金持ちや大企業、そして外資に独占させる政策だということをまったく理解していないのだ。
だから私たちがやらなければならないことは、投票したらそれで済むという話ではない。これから起きることを、それぞれが自分のできる範囲で、きちんと周りに話すことだ。民主党までが弱肉強食化政策に追随するいまだからこそ、その重要性は高まっていると思う。
時間はさほど残されていない。憲法が改定されたら、言論の自由は失われてしまうからだ。いや、言論統制は、もう始まっていると言えるかもしれない。具体名を出すと迷惑がかかるので、あえて名指しにはしないが、まともなことを言っていた評論家が、いま次々に締め出されている。
もちろん、そうした状況でもあきらめてはいけない。表面上は波風を立てなくても、けっして服従しない。どんな圧政でも、人々の心まで縛ることはできないのだ。少し時間はかかるかもしれないが、国民の大多数が幸せになれるような社会を作るチャンスはきっとやってくるだろう。あきらめさえしなければ。
森永卓郎さんプロフィール
もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。