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2012-02-15up
森永卓郎の戦争と平和講座
第51回
再稼働阻止より廃炉を求めるべきではないのか
再稼働へ手続きが進む関西電力大飯原発3、4号機に関して、関西や東京で再稼働をストップさせようとする市民の運動が広がっている。再稼働を止めて、日本の原発を全停止に追い込むというのが、彼らの目的のようにみえる。
しかし、それが何のメリットをもたらすのだろう。「使用中核燃料」を内部に残す原子力発電所を停止させたところで、リスクはほとんど減らない。原発のリスクを減らそうと思ったら、原発を廃炉にしなければならないのだ。ところが、どこの原発から廃炉にしろという具体的な要求は聞こえてこない。
原発を停止することが大きなメリットをもたらさない一方で、そのコストはきわめて大きい。昨年6月7日、海江田元経済産業相は、新成長戦略実現会議で、国内すべての原子力発電所が運転停止した場合、火力発電で代替すると、LNGや石油などの燃料費の負担増が年間3兆円以上になるとの試算を明らかにした。
財団法人エネルギー経済研究所は、2011年6月24日の『原子力発電の再稼動の有無に関する2012年度までの電力需給分析』で、次のように指摘している。「原子力発電の再稼働が無い場合には、2012年度の火力燃料消費量は劇的に増加し、その調達に必要な金額は、石炭・LNG・石油合計で対2010年度比3.5兆円増加する」。
これらの試算は、昨年の震災以降に増加したLNGや石油などの化石燃料の輸入額の増加とおおむね符合しており、信頼に足るものだと思われる。
つまり、原発が停止している間、経済的にみると、年間3兆円をドブに捨てていることになる。火力発電所のコストがかさむ一方で、コストの大部分が資本費である原発は、発電もしないのにコストだけはしっかり発生しているからだ。もちろん、原発を稼働させなければ、ウラン燃料の購入が不要になるから、その分のコストは減るが、火力発電の燃料費と違ってウランの燃料費はずっと小さい。だから、発電コスト全体では、年間3兆円程度の増加になるのは間違いないだろう。
この3兆円は、すべて電気料金の値上げとなって、国民に降りかかってくる。私は、そんなことなら、原発をとりあえず再稼働させて、そこで生み出される3兆円の財源を、廃炉の費用に充てた方がずっとよいと思っている。原子炉の廃炉にどれだけのコストがかかるのかについては、意見が分かれているが、私が知る限りでは、およそ1000億円から5000億円程度だ。ドイツでの経験や、日本でも浜岡原発の1号機、2号機の廃炉に関して、中部電力が1基1000億円程度の廃炉費用を見込んだという報道がなされるなど、廃炉にかかる直接費用は1000億円程度のようだ。しかし、稼働可能な原発を廃炉にすれば、除却損が出てくるし、使用済み核燃料の処分の費用なども考えると、総額ではその数倍、例えば3000億円くらいは、見ておく必要があるかもしれない。
もし、そうだとすると、原発停止による3兆円のコスト増をかぶるよりは、そのコストを原発の廃炉に振り向けた方が、ずっと国民のためになるのではないだろうか。3兆円あれば、年間10基の原発を廃炉にすることができる、5年半で原発を全廃できる計算だ。
原発反対派が再稼働を何が何でも抑え込もうとする一方で、原発推進派は全ての原発の再稼働に向けて手続きを進めようとする。その結果、膠着状態となって、コストだけが垂れ流されていく。
敢えて言うと、私は、ストレステストも日本の電源構成をどのようにすべきかという議論も、原発を稼働させながら、すればよいと思う。そうすれば確実に廃炉の財源が出てくるからだ。そのなかで、どの原発から廃炉にすべきかという優先順位をつけて、確実に廃炉を進めていくことが、一番望ましいのだと思う。
政府は、原発の寿命を原則40年とする方針を示した。つまり、このまま原発の新設・増設がなければ、日本の原発は2050年までにすべてなくなることになる。そのスピードを早めろという主張をするなら、私もよく理解できる。だから、議論が前進すると思う。もちろん、そのときには、国民がどこまでコスト負担に耐えられるのかという問題と、電力供給に不安がでないかという2つの視点も含めて議論すべきだろう。
そうした建設的な議論をせず、このままイデオロギー対立を続けていたら、結局国民は、原発のリスクと高い電気代の両方を被るだけだ。膠着状態は、誰も幸せにしないということをきちんと認識すべきだと思う。
「どの原発から廃炉にすべきかという優先順位をつけて、確実に廃炉を進めていくことが、一番望ましいのだと思う」と森永さん。
全原発停止をまずは目指すのか、それとも確実な「廃炉」へのロードマップを作っていくべきなのか? どちらが安全で現実的なのか? そして、原発の稼働中のリスクと停止中のリスクには、どのぐらいの違いがあるのか? 原発を廃炉にするには、どんな手順を踏み費用はどのぐらいかかるのか? それらについて、私たちはあまり具体的に知らないということを、改めて気づかされた、森永さんのコラムでもありました。
それらの疑問については、近く詳しい方からお話をお聞きする機会をつくり、情報を提供していきたいと思います。
森永卓郎さんプロフィール
もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。