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2010-09-22up
森永卓郎の戦争と平和講座
第44回
民主党代表選挙が終わって
こうなるとは思っていた。分かってはいたのだけれど、正直言って打ちひしがれている。国民に十分な情報を伝えることができなかった自分の無力さがくやしい。
ほとんどのメディアが菅総理の圧勝と書いた。しかし、現実は僅差だった。国会議員票は、ほぼ同数だったし、5倍ものポイント差がついた党員・サポーター票でも、投票数でみれば、菅総理6対小沢氏4の比率だった。地方議員の投票比率と党員・サポーターの投票比率は、ほぼ一緒だったのだ。
結局、小沢氏は「政治とカネ」の問題で負けたのだ。ところが、小沢氏の政治とカネの問題に関して、多くの国民が正しい知識を持っていない。例えば、検察審査会が小沢氏を起訴するかどうかを審査しているのは、小沢氏の政治資金収支報告書について、記載する年度が1年ずれていたというだけの問題だ。誰かから収賄をしたとか、資金を隠蔽したとか、そんなことはまったくないのだ。しかも、検察は小沢氏を起訴できなかった。当然の話だ。政治資金収支報告書の記載ミスによる訂正は、日常茶飯事のように行われているからだ。
また、「小沢氏は説明が足りない」という意見も様々な場面で出された。しかし、小沢氏は記者クラブ会員だけでなく、フリーのジャーナリストやネットメディアを含めて、きちんと会見を開き続けてきた。さらに、ジャーナリストの上杉隆氏によると、国会議員のなかで、1円単位で政治資金を完全公開しているのは、鈴木宗男氏と小沢一郎氏の2人しかいないそうだ。少なくとも形式的には、小沢氏ほどオープンでクリーンな政治家はいないのだ。
にもかかわらず、国民の多くが、小沢氏を「不正なカネを操る悪者」というイメージで捉えてしまった。ネットの世界では、小沢氏が7割の支持を得ており、新聞やテレビの世論調査とはまったく異なる結果が出ていた。小沢氏は記者会見をフリーのジャーナリストやネットメディアにもオープンにしており、小沢氏の政治姿勢や政策がよく伝わっていたのだ。
ただ、民主党内のこととは言え、民意は菅総理を支持した。そのツケはこれから回ってくるだろう。案の定、新しい政権では小沢グループの排除が進んだ。小沢一郎排除だけではなく、党内最大の小沢グループから1人も入閣させないという極端な人事を断行した。これが何を意味するのかは明らかだろう。前原・野田グループが推進する弱肉強食構造改革路線が国の政策になると同時に、対米全面追従戦略が採られるということだ。
もちろん、小沢氏が総理になっていた場合よりも、当面日本が抱え込むリスクは小さいだろう。日米首脳会談も友好的な雰囲気で行われるに違いない。しかし、経済は当面、円高が進行するとともに、景気は二番底に向かうだろう。
「代表戦直後に為替介入が行われたではないか」という意見もあると思う。確かに、これまで介入を頑なに拒んできたのだから、一歩前進であることは間違いない。しかし、今回の為替介入はサプライズとしての効果はもったものの、効果は長続きしないだろう。日銀がゼロ金利にしていないからだ。
為替市場への介入が効果を持つのは、円の資金供給が増えるからだ。ドルを買って、円を売ると、市場に円資金が出ていく。つまり円の資金供給が増える。そのことによって円の値段が下がる円安が起こるのだ。ところが、いま日銀は政策金利を0.1%に据え置いている。今後為替介入を続けて、円資金の供給を増やすと、金利が低下して、0.1%の政策金利を維持できなくなってしまう。日銀は、金利がゼロになりそうになった段階で、円資金を回収しに向かう。不胎化と呼ばれる行動だ。いまのところ日銀は不胎化をしていないとしているが、為替介入を続ければ、時間の問題で資金回収に出ざるを得なくなる。そうすると、政府の為替介入の効果を、日銀が相殺してしまうということになるのだ。
だから、政府が本気で為替をコントロールしようと考えているのかどうかは、日銀がゼロ金利政策を導入するかどうかで、分かってしまう。いまのところ日銀はゼロ金利政策導入の構えをみせていないから、基本的に円高の流れというのは止まらないのだ。
この問題は、デフレ脱却とも絡んでいる。小沢氏は代表戦の最終段階で、インフレターゲット導入を含めた思い切ったデフレ脱却策の採用を提言した。しかし、いまの民主党政権は、そうしたやり方に賛成していない。だから、デフレ脱却のタイミングは、相当遅れるだろう。一方、菅政権の基本政策は、新成長戦略のメニューをみれば明らかなように、規制緩和がメインだ。
財政引き締めと金融引き締めで生じるデフレ経済のなかで、規制緩和を断行する。そう、小泉内閣時代の後半と同じ政策が採られるのだ。その結果は、もう経験済みのことだから、お分かりだろう。日本がますますひどい格差社会に向かって突き進んでいくのだ。
チャンスは来年の3月まで訪れないかもしれない。次にリベラル派が巻き返し、デフレを脱却するチャンスは、予算関連法案が通せずに、それを理由として起こるゴタゴタで民主党が分裂したあとだろう。
「民意」への大きな影響力を持つ「テレビメディア」に出演する機会も多い
森永さん。さまざまな疑問についておたずねできればと思っています。
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森永卓郎さんプロフィール
もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。