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2011-11-16up

鈴木邦男の愛国問答

第86回

私の『愛国と憂国と売国』

 『愛国と憂国と売国』(集英社新書)が、11月17日(土)、発売になります。やっと本になりました。やっと発売です。苦労しました。本が出来るまでは難産でした。それだけに嬉しいです。
 基本的には、この連載「鈴木邦男の愛国問答」をまとめたものです。「だったら簡単じゃないか」と思われるでしょう。ところが簡単ではないのです。08年6月4日に連載をスタートし、もう80回以上になります。その中からピックアップし、テーマごとに分け、本にするのです。その編集作業は僕では出来ません。書いた原稿には個人的な愛着があり、どれも捨てられません。それでフリー編集者の鈴木耕さんにお願いしました。大変な作業だったと思います。だって、僕は勝手気儘に書いてきたからです。
 「愛国問答」と言いながら、全く関係のない事も書いてきました。国家、憲法、右翼・左翼…だけでなく、猫の話、格闘技の話、映画の話、イルカの話なども書きました。いろんな切り口、いろんな視点から、「愛国」を考えてみたのです。と言えば弁解になるでしょう。正直、自分の関心のあることをその都度、書いてきたようです。その中から原稿をピックアップし、1つの〈流れ〉になった本を作るのだから大変です。鈴木耕さんや集英社新書編集部の皆さんには、とてもお世話になりました。

 「この連載はずっと読んできた。だから分かってる」と思ってる人も、手にとってみて下さい。アレッと思うはずです。「連載をまとめたものではない。全く新しい本だ」と思うはずです。実際、見本誌を読んでくれた人は皆、そう言います。
 実は、この新書を作るのには2年以上かかっています。その中で、大幅に書き足し、書き直してきました。又、まとめ方にも変化があり、進化してきました。「愛国問答」をテーマとした本を作る。この基本姿勢は変わらないのですが、どの原稿を取り、どの原稿を捨てるか。どの切り口から〈流れ〉を作るか。それは変わりました。編集作業の進化でしょう。又、校正の人も優秀で、編集者を含め、「プロの技」「匠の技」を見せてもらいました。僕自身が一番勉強になりました。
 2年前編集がスタートした時は、本の題名として、「ネコ型人間宣言」「岬の思想」という案もありました。そんなテーマで書いたこともあったからです。それから、「日々是愛国」になり、そして、今の題名になりました。「前がき」「あとがき」も書き、全体の校正も完了し、今年の3月に発売の予定でした。ところが、3・11東日本大震災で、出版は延期。出版どころではなかったし、では全面的に書き直して、秋にでも出しましょう。ということになったのです。それから8ヶ月。又もや大変な作業でした。「前がき」「あとがき」は破棄し、20枚の「序章」を書きました。又、全体的に書き直しました。
 僕以上に編集・校正の人が大変だったと思います。多くの人々の協力で出来ました。あ、本はこうして出来るんだな、ということが分かりました。今まで80冊ほどの本を書きました。新書としては10冊目です。でも、本づくりの大変さ、苦労、そして喜びを、これほど実感したことはありません。そのことは、11月19日(土)の「マガ9学校」の時にも話したいと思います。午後2時から、新宿南口のカタログハウス本社、地下2階セミナーホールです。ぜひ、いらして下さい。
 当日は、僕が初めに30分ほど話し、そのあと、反原発・中学生アイドルの藤波心ちゃんと対談します。司会は、この本の編集をしてくれた鈴木耕さんです。心ちゃんは、僕が是非にとお願いしました。自分の意見をキチンと発表し、どんな批判・反論にもキチンと答えています。勇気ある言論人です。ここまで勇気を持って堂々とやっている人は、大人の言論人だっていません。僕だって、批判・反論には答えきれないし、逃げたり、無視したりすることもあります。そんな時間はないよ、とか、そんな論争に付き合ってられないよ、とか思うのです。又、難しくて答えられないこともあるのです。ダメだな、と自分でも思います。その点、心ちゃんは偉いよな、と思います。こんな人は、いません。
 この本の中では、「右翼人」の話が多く出てきます。右翼人の憲法論。右翼人の作られ方。右翼人の生活と意見。右翼人にとっての三島由紀夫…と。でも、「私が出会った素晴らしい人々」「右翼人と左翼人」という章もあり、ぜひ読んでほしいところです。憲法や防衛問題で、同じ考えのはずなのに、人間的に尊敬できない人がいます。逆に、全く思想は反対なのに、人間的に素晴らしく、傍にいてホッとする人がいます。そうした体験を書いてます。要は、思想より人間だと思いました。
 右であれ左であれ、運動する人は、正義を求めます。不屈の意志が必要です。だから、どうしても非妥協的になり、偏狭になりがちです。批判・反論を受けつけません。すぐに論破し、粉砕します。そうしない人は、「信念」がないと思われます。でも、本当は自信がないのです。異論・反論・批判・敵に出会うのが怖いのです。長い間、運動をやっていて、そう思いました。
 ただ、何人かは「寛容な人」に出会いました。批判・反論大歓迎の人です。たとえば、帝銀事件の弁護士として有名な遠藤誠さんです。天皇制反対論者ですが、僕らにはとても優しかったですし、自分の開く出版パーティーでは、挨拶する人に「自分をほめてはダメだ。必ず批判すること!」と注文をつけていた。何て心の広い人かと思いました。凄い人だったと思います。でも他にはいません。と思っていたら、いました。心ちゃんです。どんな批判、反論も受け入れ、そして、丁寧に教え、さとしてくれます。それに、「右から考える! 脱原発集会&デモ」にも、自分から来てくれました。「アイドル活動にマイナスじゃないの?」と僕の方が心配しました。偉いです。尊敬してます。
 どうしてそこまで出来るのか。当日は、その心ちゃんの心がけていること、などを聞いてみたいと思います。又、原発のこと、憲法のこと、そしてTPPのことなども聞きたいし、教えてもらいたいと思います。
 それにしても野田首相は強気ですね。TPPについて、これだけ反対論が多いのに。国論が真っ二つに割れているのに…。民主、自民も真っ二つ、いや、反対論が多いだろう。公明、社民、共産は全党あげて反対。じゃ、国会議員の半分以上が慎重・反対論じゃないか。首相が表明を延ばしたのは、そうした勢力への配慮か。あるいは、この「個人的暴走」を後で批判され、国会で否決されるとか、選挙で敗れるとか。それでもいい。今、アメリカ寄りの姿勢を強く示しておこう、という思惑だけなのか。
 TPP交渉に参加するが、国益は絶対に守るという。果たして出来るのだろうか。不安だ。それに、僕は産経新聞を取ってるが、不思議なことがある。保守で、民主は嫌いな産経が何故か、TPP大賛成なのだ。日本を救うのは、これしかないという。「正論」欄も、TPP賛成論者だけを載せている。保守派は皆、反対だと思ったのに、こんなにも賛成の人が多かったとは、驚いた。
 日本はこのままではダメだと彼らはいう。内向きではダメだ。世界へ打って出なくては。日本は元々、「貿易立国」だったのだ。国内シェアだけを考えていてはダメだという。
 その憂いは僕も分かる。これも憂国かもしれない。農業もこのままでいいとは思わない。世界に誇れる技術は沢山あるし、世界に出て勝負すべきだ、というのも分かる。しかし、今の日本にそれだけの覇気があるのか。「アメリカとの同盟は大切です。しかし、大震災以降、日本は大変です。疲弊し切ってます。だから今回は待って下さい」と、素直に言ったらいい。いや、世界のルールに入り、そこで協議し、どうしても国益を守れないのなら脱退する、と言うが、そんなこと出来るのだろうか。そんなことも当日、話し合ってみたい。
 「愛国」と「憂国」は、大声でそう言う人が多い。自分こそは愛国だ。国を憂えてるから言ってるのだ、と。そして、自分と反対の人は「売国」だという。でも、個人の感情・激情だけで言われ、レッテルを貼りつけているような気もする。国を考える上でも討論のルール作りが必要かもしれない。そんな話もしてみたい。心ちゃん、よろしくお願いします。教えて下さい。二人の討論の後は、会場の皆さんからの質問も受けますので、どんどん心ちゃんに質問して下さい。では、当日に。

『愛国と憂国と売国』(鈴木邦男/集英社新書)
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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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