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2010-08-25up
鈴木邦男の愛国問答
第57回
愛国者の世界平和会議
「日本もEUに入りたい。入れてほしい!」と僕は言いました。20人の欧州議員団を前にして言ったのです。8月12日(木)、13日(金)に、「世界平和をもたらす愛国者の集い」がフォーシーズンズホテル椿山荘国際会議場で開かれました。フランス、イギリス、スペイン、ハンガリーなど、8ヶ国の欧州議員が来日し、日本の愛国者200人と共に国際会議を開いたのです。
主催は一水会(木村三浩代表)で、画期的な大会でした。会議が終わって、8月14日(土)は皇居と靖国神社に行きました。15日(日)は明治神宮に行きました。16日(月)、17日(火)は京都、奈良に行き、京都御所にも行きました。かなりの強行軍ですが、日本文化に触れたいと思ったのです。又、国のために亡くなった人々に参拝したいという気持ちがあったのです。
この行事のうち、8月14日の靖国参拝だけが新聞やネットで大々的に取り上げられました。なぜ欧州議員が靖国神社に行くのか。「A級戦犯が合祀されているのに」と書きたてました。30人ほどの国内外の新聞記者が来てました。特に、フランス国民戦線党首のジャン・マリー・ルペンさんに記者の質問が集中してました。「国のために亡くなった人に敬意を表するのは当然だ」とルペンさんは答えていました。
ルペンさんは8年前のフランス大統領選挙の時、大量得票で2位になり、1位のシラクと決選投票に持ち込んだ人です。「ルペン現象」と世界中に報道され、国内でも絶大な人気があります。フランス議会や欧州議会でも、かなりの議席を得ています。現在のフランスのサルコジ政権も国民戦線の方針をかなり大胆に取り入れて、それで政権運営をやっています。影響力のある野党です。でも、日本の報道では、どこも「極右政党」と書いてました。
それに今回の国際大会は、「アメリカに対決しよう」とか、「世界中の右翼が集まって、新しい勢力を作ろう」といった攻撃的なものではありません。あくまで「世界平和」を考え、もたらすための会議です。いわば、「反戦平和集会」です。
僕も「閉会の辞」の時に挨拶しました。国の為政者は失政があったり、国民の不満があると、常に外国に敵をつくり、目を逸らそうとする。その時、愛国者が利用され、マスメディアが煽動の材料にされる。これはマズイ。愛国者同士が交流し、第一次情報を共有し、そのことによって避けられる争いは多いはずだ。今は余りにも誤解、偏見が(愛国者の間にも)多い。それが問題だ。それを打開するために、今後は、世界各地でこうした会議をやっていこう。と訴えました。議員の間からも、「愛国者サミット」をやろう! 「愛国者インター」にしよう! という声もありました。
さて、国際会議の中味ですが、各国から、各々が抱える問題点が報告され、打開策が提示されました。どこの国も「愛国者」「右翼」というのは誤解され、非難されることが多く、愛国者であるが故に教職を追われたという人もいました。そうした偏見、差別、弾圧を許さない為の弁護士の国際救援組織を作ろう。反グローバリズムの闘いをやろう。と具体的な提言がありました。又、各国が自らの国のアイデンティティをどう守ってゆくか。それに苦悩している様子が分かりました。
この点は僕も知らないことが多く、教えられました。実は、僕はEUに対しては手放しの評価をしてました。だから、冒頭の発言にもなったのです。ヨーロッパの各国が、各々の伝統、文化をしっかりと守った上で、通貨、交通、教育の面などでは統一し、EUとして一つのものになってゆく。素晴らしいことだと思ってました。日本でも、アジア版EUを考える必要があるだろう。いや、その前に、日本がEUに入るのもいいかなと思ったのです。
だって、日本は日英同盟の頃が、一番うまくいってたのかもしれません。日独伊三国協定もありましたが、あれは独裁者との間の協定だったし、戦争準備のものだったから失敗した。今のような民主的なヨーロッパなら大丈夫だろう。それに、アメリカと軍事同盟を結んでいるよりは、ヨーロッパの方がいい。伝統、文化の長さも似ているし。と思って、「EUに入りたい」と言ったのですが、ドッと笑われてしまいました。単なるジョークと思われたようです。トルコだって、「東洋だからダメだ」と拒否されてるのに、日本なんか入れるわけはないのでしょう。
「鈴木さんはEUを理想化してますが、そんな事は全くありません」と、何人かの議員にも言われました。イギリスも、フランスも、「EUが出来たので、文化、伝統が破壊された」と嘆いています。特に、移民の問題は深刻なようです。EUの一国が移民を受け入れると、その人々は、どこにも自由に行ける。受け入れを拒否できない。その点、日本はうらやましい。と皆、言います。だからといって「移民排除」はやりません。ネオナチではないし、彼らは国会議員、欧州議員だからです。でも、どの国も頭を痛めてます。
イギリスの国会議員が言ってました。
「日本はいい。どこに行っても日本人ばかりだ。ここは日本だと分かる。EUでは、その国の独自性がなくなった。ロンドンには、もはや“ロンドンっ子”はいない!」
エッ? そうなのかと思いました。フランス人も同じことを言います。イギリス人、フランス人、スペイン人… がなくなって、さらに移民が大量に入りこみ、「EU人」「EU民族」になってしまう。そういう不安でした。
アメリカと対抗してEUを作ったのに、これでは「第二のアメリカ」になるという怖れでもあります。アメリカは、いろんな国の人々が入ってきて「アメリカ人」をつくった。同じように、EUも、EU版「アメリカ人」になってしまう。そう心配するのです。
「その点日本はいい。外国人はいない。どこに行っても日本人ばかりだ」と絶賛します。そんなことはないのになーと僕は思いました。六本木、新宿、大久保… と、どこでも外国人だらけじゃないか。でも、ちょっと考えて、そうか、と思いました。欧州議員にとっては、日本人も中国人も韓国人も、他のアジアの人々も、区別がつかないんだ。皆、「日本人」と思ってしまうのだろう。
実際、14日に皇居前広場に行った時、イギリスの議員に言いました。「ここには日本人は誰もいませんよ」と。
「えっ、日本人だらけじゃないか」とイギリス人は言います。「いや、よく言葉を聞いてみて下さい。皆、中国の観光客ばかりですよ」と僕は言いました。実際、この日はそうだったのです。「あれっ? 日本語じゃないですね」と彼は驚いていました。
これは、僕らも同じです。国際会議で、いろんな国の人が来ています。しかし、イギリス人、フランス人、ベルギー人、スペイン人… の区別は、僕らは、全くつきません。皆、外国人として同じです。この辺にも誤解する元があるのでしょう。
ともかく、多くのことを考えさせられ、教えられた国際大会でした。ハードな日程で、今でもまだ、ボーッとしています。だから、結論はありません。移民や、アイデンティティ、アジア版EU… などは、今後の課題です。もっともっと勉強してみます。
*
「多民族が一緒に暮らす」ことには、
たぶんどこの国でも摩擦や対立がつきもの。
でも、それだからこそ面白い、部分もあるのでは? と思いたいのですが。
鈴木邦男さんプロフィール
すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」
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