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2013-05-15up
雨宮処凛がゆく!
公益及び公の秩序。の巻
憲法改正の動きについて、書かなければ、とずっと思っていた。
しかし、書こうとすると、なんだか小難しくてつまらない原稿になりそうで、長らく迷っていた。
私自身、「憲法」の話は眠くなる。憲法そのものを読んだりしたらものすごい睡魔が襲ってくる。いろいろと難解で、不親切な文章にムカついてもくる。
だけど、改憲に突き進もうとしている今の自民党政権の動きを見ていると、書かなくては、という思いが強くなってきた。
ちなみに、素朴な疑問だが、70%以上の支持率を誇る安倍政権を支持している人の中に、自民党の改憲案を読んだことのある人はどのくらいいるのだろうか。
ということで、憲法。
私がひっかかるのは、やはり自民党の改憲案に登場する「公益及び公の秩序」という言葉だ。
たとえば「表現の自由」の21条の改憲案は、以下のようなもの。
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
今の憲法には、「公益及び公の秩序」に触れた「2」の部分はない。
これを読んでまず頭に浮かんだのは、08年10月に開催された「麻生邸ツアー」だ。当時の首相・麻生太郎氏が渋谷に敷地だけで62億の豪邸を持っていると聞きつけた貧乏人たちが「見に行こう!」と集まり、麻生邸に向かって歩いていただけで3人が逮捕された事件を覚えている人は多いと思う。顛末については、この連載の75回で触れたので読んでほしい。
ちなみにこういった「貧乏人が格差を実感するために大金持ちの家などを見に行く」という行為は、欧米などでは「リアリティツアー」と呼ばれ、結構一般的だという。しかし、「麻生邸ツアー」では、「格差や貧困に疑問を感じた貧乏人が当時の首相の家を見に行こうとした」ことそのものが「罪」と判断されたわけである。
逮捕の理由は、一人が東京都公安条例違反、二人が公務執行妨害。
東京都公安条例違反で捕まった男性は、プラカードを持ち、通行人に「麻生さんの家に行きませんか」と呼びかけ、麻生氏の「格差・貧困を作り出した責任」「戦争を支持した責任」と言った途端に捕まった。そのこと自体が「集団示威行動」にあたるのだという。
あとの二人は、一人が逮捕された混乱の中、ただその場にいただけで公務執行妨害で逮捕。
こんなことを書くと、「でも、なんか逮捕されるようなことやったんでしょ?」と思う人もいると思う。そう思う人にはぜひ、ここに公開されている映像を見てほしい。
私も久々に見て、改めて、驚いた。「公益及び公の秩序」などが書かれていない現在だって、「表現の自由」は守られてなどいないのだ。そんな状況で、自民党の改憲案のようなものが本当に通ってしまったら、「公の秩序を乱した」などといった理由で、「声を上げる貧乏人」や「社会に疑問を持って活動している人」など、いくらでも逮捕できるだろう。麻生邸ツアーだけでなく、プレカリアート運動のデモで、そして311以降は脱原発デモで、私は何度も「逮捕されるようなことなどしていない人が捕まる瞬間」を目の前で目撃してきた。ある意味、デモなど「路上での直接行動」は、この国の「表現の自由」のラインがもっとも明確に現れる現場である。そして私にとってのデモは、「憲法」を根拠に、自分たちの「自由」の領域をどこまで広げられるかという闘いでもあるのだ。
自民党改憲案には他にも問題が山積みだが、「公益及び公の秩序」系については、結局は「がたがた言う奴は黙ってろ」というメッセージに、私には思える。
麻生邸ツアーで逮捕者が出た渋谷の街は、電気屋やドラッグストアから大音量の音楽が流れ、拡声器で騒々しい呼び込みが行なわれ、道ばたでサラ金などの広告のプラカードを掲げる人がいた。そんな「商業活動の自由」が保証される一方で、肉声で「麻生邸ツアーへの参加」を呼びかける「政治活動の自由」は思い切り攻撃された。
黙っていない人たちは、今の憲法のもとでだって逮捕されてきたのだ。そんな事実を目の当たりにしてきた立場から、自民党改憲案には、本当に危機感を持っている。
取材で行った大阪城で。
今だって十分に表現の自由が守られているとは言えないけれど、
それでも「憲法で保障されている」ことは私たちにとって大きな武器になります。
その「武器」さえも取り上げられてしまうとしたら…。
原発や貧困問題ではなくても、
いつ、誰だって政府に「もの申す」立場にはなり得るわけで、
あまりにも危険な変更としか言いようがありません。
ちなみに、現憲法にも人権が制限される場合として、
「公共の福祉」に反しない限り、という定めがありますが、
これと自民党改憲案の「公益及び公の秩序」とは似て非なるもの。
詳しくは想田和弘さんのコラムなどで。
雨宮処凛さんプロフィール
あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」
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