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2012-12-26up

雨宮処凛がゆく!

第251回

改めて、選挙結果に思うこと。の巻

 選挙が終わってから、ずっと考えていることがある。

 いろいろあるが、一言で言うと「来年夏の参院選を前にして、私たちはとてつもなく大きな宿題を出された」ということだ。

 この1年9ヶ月、盛り上がり続けてきた脱原発運動については、この連載でもずーっと取り上げてきたとおりだ。今年の6月、7月には「大飯原発再稼働」決定に抗議して、20万人が首相官邸前を埋め尽くした。3月から始まった金曜夜の官邸前行動は、半年でのべ参加者数100万人を突破し、全国で繰り広げられているデモに参加したのは、3・11以降、数百万人。夏には官邸前行動を呼びかけている首都圏反原発連合が野田首相と会談。というか、官邸「内」抗議。週末ごとに10万人レベルの人々が官邸前に集まるという状況が、一国の首相を対話の場に引きずり出すことに成功したわけである。

 私には、「一人一人の声」が、やっと政治に届き、そして動かし始めたという実感と手応えが、確かにあった。

 世論調査をすれば7〜8割の人が「脱原発」という立場を表明し、原発がなくても電力は足りているという認識が浸透していったように見えたこの1年9ヶ月。誰もが福島の現状に心を痛め、「経済か、命か」という問いの前に真摯な考察を巡らせたかのように見えていた。

 しかし、報道などを見ていると、「国論を二分する」とも言われた原発政策への関心がそもそも低かったことがうかがえる。例えば、朝日新聞の「もっとも関心をもった政策を4つの選択肢から選ぶ」という世論調査では、「景気や雇用」が35%、「消費税や社会保障」が30%、「原発などエネルギー問題」が17%、そして「憲法改正や外交・安全保障」が12%(朝日新聞12/19)。

 もちろん、景気、雇用、社会保障や消費税などは私自身がかかわっている格差や貧困の問題にとっても大きなテーマだ。しかし、そもそも今回圧勝した自民党の社会保障に対するスタンスは思いっきり「自助」強調路線。一言で言うと、「どんなに困っても国に迷惑なんかかけずに自分でなんとかしろ」というものだ。格差が拡大し、生活に困窮する人が増え続け、誰もがいつどうなってもおかしくない時代、「困った時は国がなんとかしますよ」という「公助」路線の政策を掲げる政党ではなく、「放置しますよ」と公言している政党が圧勝してしまう不思議。

 というかそもそも、政治って、もっとも弱い立場の人のためにあるようなものではないのだろうか? 「自助」を強調すること自体、なんか自らの存在意義を思いきり否定しているように見えるのは私だけなのだろうか?

 しかし、政権交代を前にして、株価が上がったりと「景気回復」への期待は高まりまくっている。

 期待している人には申し訳ないが、ここで思い出してほしいのは、2002〜08年まで続いた好景気だ。「いざなみ景気」と言われ、「戦後最長の景気拡大期」と言われたこの6年間、「景気の良さ」を感じた人は果たしてこれを読んでいる中に存在するだろうか? 逆にこの間に非正規雇用者は増え続け、「ワーキングプア」や「ネットカフェ難民」という言葉が登場し、日本が「格差社会」であることが広く認識され、長らく忘れられていた「貧困」が再発見されたことはご存知の通りだ。しかも、この間にも「労働者の平均月給」は下がり続けているのである。

 誰がその恩恵を受けたのかさっぱりわからない、まるで都市伝説のような「好景気」。

 しかし、「自民党圧勝」という事実は、いくら納得いかなくても変わらない。

 ただ、今回の選挙結果についてよく言われるようにこの圧勝が「民主党への懲らしめ」としての投票行動の結果であれば、何かそれは無責任すぎる気もするのだ。

 09年の政権交代は、明らかに「自民党への懲らしめ」が大きな原動力となっていた。そうしてその3年後の政権交代。この原動力が本当に「懲らしめ」だけで、「民主がダメだから自民」程度のものであれば、そういうのって「有権者としてどうなの?」と、個人的には思ってしまう。というか、何か自分の「もやもやした思い」を投票行動にそのまま反映させるって、とても危険なことのように思うのだ。例えばそれで自民が圧勝した果てにどんな社会が待っているのか、そこまで考えた人はどれほどいるだろう。というか、政策について、今回自民を支持した人の中で、どれほど詳しく吟味した果ての投票だったのだろう。

 なんだか偉そうなことばかり書いてしまっているが、理由がある。とても気になる数字を発見したからだ。

 それはやはり、朝日新聞の世論調査。「自民圧勝の大きな理由は」という質問の答えに、ちょっとゾッとしたのだ。回答は、81%が「民主政権に失望」。一方、「自民の政策を支持」がたった7%。ちなみに自民党支持者でも、「政策を支持」はたったの13%。

 249回の原稿で、私は「お任せ民主主義」の危険性について、書いた。閉塞感が強まれば強まるほど高まる「さっさと誰か決めてくれ。ただし自分の思い通りに」という思考停止。そして今回知ったのは、「懲らしめ」や「失望」だけが多くの人の原動力になってしまうと、時に破滅的な結果が待っているということだ。

 宿題は、他にもたくさんある。脱原発運動の広がりが選挙結果になかなか繋がらなかったこと。せっかく機能し始めた「直接民主主義」の一方で、民意の反映されない政治が蔓延し、きっとますます距離は広がっていくだろうこと。

 とにかく、来年夏、参院選が待っている。

 それまでに、作戦を練ろう。

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来年夏の参院選で再び今回のような結果が出れば、
安倍総裁が掲げる「憲法改正」なども、
一気に加速していくことは間違いないと言えそうです。
私たちが、どんな社会に暮らしたいのか。
何を大切にし、何を優先させたいのか。
それを「お任せ」ではなく自分たち自身の課題として、
もう一度見つめ直してみること。
「作戦」はそこから始まるのかもしれません。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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